「春風ぞ吹く」の五郎太の息子が おおらかに手堅く成長していく姿を見守る町火消しの一家 泣いたり笑ったり そこそこに事件があり 悲しみも喜びも
たろちゃんは 無事 お嫁さんをもらいました
「春風ぞ吹く」の五郎太の息子が おおらかに手堅く成長していく姿を見守る町火消しの一家 泣いたり笑ったり そこそこに事件があり 悲しみも喜びも
たろちゃんは 無事 お嫁さんをもらいました
旅役者なんて ましてや女役者など大っ嫌いだった 旅芝居の一座絡みのホンを書くように言われ たまたま局で番組の為に取材中の 都藤一座を紹介され 女座長を見た時も その美貌と色香を利用し 自堕落に好き勝手に生きているのだと 嫌悪しか覚えなかった
父を誘惑し丸裸にし 絞れるだけ絞った恩な役者と重なって見えた 悪いところ見つけようと アラ捜しを続けていた あの極上に綺麗な顔の下は どす黒い欲望に満ちているのだと とんでもなく悪い女 そう無理やり信じこもうとしていた
その思い込みが砕かれた時 たまらない恥ずかしさと 恐ろしいことに {恋}が残っていた・・・ なんてこった!
謝罪とも恋文ともつかぬ告白の手紙を 都藤花扇に直接渡す勇気がなく 彼女の親友で{迎え橋の若女将}と呼ばれる女性に託した
若女将は優しく綺麗な顔して結構きつい ぽんぽん胸にこたえる言葉をぶつけてくる
亭主の若旦那もそうだが あたりは柔らかいのに―たじろがされる
手紙は読んでもらえたかわからない もし俺なら破り捨てるだろうから
それぐらい確かに俺の態度は ひどかったのだ
まず局から頼まれた台本を書き上げた
これは女座長率いる一座が公演中に殺人事件が起きて―というもの
そして小説 職業こそ変えたが 花扇でなく 百合子とその親友の個性と性格をひき移しにした
学生時代からの友人が それぞれ幸福を得るまで
脱稿するまで 彼女には会わない いや会えない
また会いに行っても 会ってくれはしないだろうが
ただ頭の中 心にあるものをはきだし続けた
原稿を読んだ担当に言われた
「これは愛の告白のような 不思議な熱持った作品ですね」
そう読めるのか・・・ となると 彼女へ完成した本を送りつけるなど できない・・・
いつか忘れるさ そういうものだ
諦めるさ―そう思った それを 番組を見ちまった・・・ 女座長 芝居に恋して― 素顔の花扇・・・百合子
惚けたようにテレビの画面に見入り
その結果 会いたい 逢いたい 姿を見たい
そんな気持ちだけ ただ募る ざまぁない―
こっそり客演している舞台を観に行った
湯島白梅 「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉」 お決まりの台詞が胸に響いた
歌謡ショーでは三度傘の股旅やくざ者 早変わりで浪人 艶やかな花魁姿へと
ただ感心した これが幼い頃から叩き込まれた芸の力というものか
俺は何故ハナから素直に見られなかったものか
劇場を出て一番近い花屋へ飛び込んだ カサブランカとオリエンタル・リリー 彼女の名前にひっかけた 花を買い占め 楽屋へ届けてくれるように頼んだ カードには 一言「好きなんだ」
それから仕事が押してない時は時間と懐事情が許す限り舞台を見た 花を送った
一ファンとして
その夜も舞台の終わりを待たずに出ようとした
東京までの運転はきついが― クリスマスも正月も一人暮らしの男には 寂しさが募るだけのシロモノだ
「また お帰りになってしまうんどすか?」 舞台からの声 こんなせりふは無かったはずだ
思わず振り向いた
「先生は いつもいつも うちを置いて帰りはるんどすなぁ・・・」
ぎくりとした 花扇は百合子は 俺に話しかけているのだ 即興で芝居に巻き込んで
「じき追いかけますよって どうか待ってておくれやす
もう 置いてけぼりは いやどすぇ」
幕が降りる すっと両脇に迎え橋の若女将と英一郎さんが寄る
「ほな行きまひょか 可愛い人を泣かせたらあきまへんやろ」
客は芝居だと思っている
だが これは 人さらいじゃないか!
「真剣に好きなら きちんと話して下さい からかってる そこまで深い思いやないなら どうぞこれきりにしてあげて下さい 振り回されては百合子が可哀相です」 若女将はきつい 言い訳などさせてくれそうにない
「ファンとして姿を見るだけでも」 言いかけると 英一郎さんが言う 「それだけで いいんだな」
いや俺は!俺は・・・ 「色恋は惚れたが負けだ・・・・」
英一郎さんが笑う 「僕はこの人に負けっぱなしだ 勝とうが負けようが幸せならいいじゃないか」
「男と女は勝ち負けじゃありませんよ 補い合って助け合う それでいいじゃありませんか」
二人は俺を花扇 百合子の楽屋へ押し込んだ
胸に晒巻き 化粧落とすのにもろ肌脱ぎの百合子
勝負なんて初めから決まっていた
「好きなんだ」
百合子の両目から涙が溢れる
「はい・・・」
俺はうろたえ その細い体を抱き留めた
かなり経ってから どうすれば俺に会えるか話せるか 手段に困った百合子が 親友の若女将に相談し こんな芝居がかったことを英一郎さんが企んだことを聞かされた
「わたしは どうしていいか分かりませんでした あなたの―好きなんだ―その言葉が日毎大きくなり もう弾けてしまいそうでした」 例の本も読んだと 読んで泣いたと 百合子は言った
俺たちは時間の許す限り一緒にいる 芝居のホンを書き 百合子達の芝居を見る
そしていつか俺たちなりの家庭を築くのだ
奇妙な味わいの11の物語 ホラーか怪談か 後悔 もしくはおとぎ話なのか
人は出会い愛し別れいく 結ばれても漂うそこはかとない悲しみ
繰り返しくりかえされる 想いの数々