夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「恋模様―珠洲香―4」

2007-01-26 15:38:58 | 自作の小説

女達を降ろし男達は 高倉の部屋に集まった 一階は肉屋と駐車場 二階から上は住居

肉屋だけに ツマミには事欠かない 高倉聡の部屋のデカい冷蔵庫にはギッシリ何やかや詰まっていた

「な・・・エイザブロ お前 今日は俺達邪魔だったんじゃないのか」 尋ねる高倉に 橋本は「何でよ?」逆に問い返す

「お前の目さ 離したくなさそうなスケベな目をしてた」

「おめぇに言われたかないやね」 橋本は仁慶の頭をこづく

「正直 今までと勝手が違う 手を出して嫌われたら―と 会わないと言われたら―と」

「大事なんだ」確認する仁慶に橋本は半ば駄々っ子のように言った 「どうすればいいか判らない それっくらい好きだ」 「お前がね~」高倉が笑う 仁慶は黙り込んだ

「押して引いて 難しいです 恋愛てな・・・」橋本はぐいとグラス一杯のビールを飲み干した

「羨ましい悩みだよ エイザブロのは」

男三人の酒盛りは 何故かしんみりとし 時間ばかりが流れて行った

―口からビールが溢れだしそうだ― 涼しげな外見から伺いしれぬ声に出せぬ思いの仁慶は 箒を動かしありもしない葉を掃いて 掃除する振りをしていた

「わ!本当にお坊様だったんだ」 明るい声に振り向くと 昨日会ったばかりの美智留がいた

「こんにちは」目がくるくるとよく動く どう結ったのか分からない複雑な髪型をしていた

「都賀尾(つがお)美智留さん・・・」

「正解! 美容室に勤めているわ 今日は休みなの」

「で こんなビンボー寺を見に?変わった人だな」

「あたし お休みは少ないし 仁慶さんをもう少し知りたいと思ったんですもの」

どうやら珠洲香の気持ちが橋本一人に向いていると見極め 美智留は仁慶に少し近付くことにしたのだ

「坊主の生活なんて面白いもんじゃないですよ せっかくだから寺や庭でも見ていきますか?」

「はい!」美智留は満面の笑みを浮かべた

その夜 美智留から珠洲香に電話があった

「楽しかったよ~ 仁慶さんてホント面白い人なんだ 優しいし」

美智留の声が弾んでいた

「良かったね~」 三人の男の仲良さげな様子が甦る 「で 美智留は 仁慶さんが好きなの?」

「狡い言い方だけど 恋にできそうな気がするの

急にお葬式となると美容院とか行く時間困るよね だけど お寺で着付けできて髪も結えたら どうよ?なんてことまで考えてしまうわけ」

「そこまで考えてるんだ」

「例えばよ あたしは普通のお寺の奥さんって無理だと思うの だったらできることで助けて支え合っていきたい―なんて」

美智留の言葉に 珠洲香は圧倒されそうだった

「正直あたし若くないし ひとつ事を始めるにはエネルギーがいるの

失敗しても仕方ないけど格好悪いこと避けようよって気持ちもある なんか面倒臭いんだ」

「だね~」 私達に必要なのは飛ぶ勇気と思いきりなのかもしれない 駄目もとで 真っ向から「好き」とぶつかる

どうしても自分が可愛い 恥はかきたくない 傷つきたくない 嫌な思いをしたくない

でも それでは何も始まりはしないのだ

傷ついても失敗しても それは自分の決めた選んだこと

人はずっと変わらずにはいられないのだ

「頑張って美智留」

私も頑張らなければ

海水浴以来 橋本の事を珠洲香はよく考える 一生は長い

ある程度お金を貯め
橋本の夢を自分の夢として その時の生活で夢も変わるだろうが

生きていけるだろうか?