![]() | 東慶寺花だより (文春文庫) |
井上 ひさし | |
文藝春秋 |
時代劇では「縁切り寺」に女性が駆け込む場面って 昔は割とありました
夫と縁を切りたい女性が逃げていく場所として
追手に邪魔されても 何か自分の身につけている品 簪・櫛ーそうしたものを寺に投げ入れたら 本人の体も入ったものとして認められ 別れたい男のもとへ連れ戻されずに済む
縁を切ることができる
この小説にはその縁切り寺として有名だった東慶寺の由来についても描かれています
梅の章 おせん
桜の章 おぎん
花菖蒲の章 おきん
岩莨の章 おみつ
花槐の章 惣右衛門
柳の章 おせつ
蛍袋の章 おけい
鬼五加の章 おこう
白萩の章 おはま
竹の章 菊次
石蕗の章 おゆう
落葉の章 珠江
黄檗の章 おゆき
蓼の章 おそめ
藪椿の章 おゆう
以上 15の男と女の物語
女達は何故 夫もしくは自分を囲う男と別れたいと思ったのか
代診できるほどの医者の腕もあり また一冊だけ滑稽本を出し 次作に悩む中村信次郎は 東慶寺の御用宿の一つ柏屋に執筆の為に身を寄せて 雑用もする
逃げ込んだ女達の身の上も聞く
時に問題解決にも手を貸す
柏屋には信次郎から15才下のお美代がいて まだ子供だが 周囲から 将来いい夫婦になるーと思われてもいる
同時収録として著者の「東慶寺とは何だったのか」なるエッセイも
解説は作家の長部日出夫氏
故人となってしまった著者の博覧強記に感嘆しつつーどの物語も読みやすく{意外性}もあり 読後感もいいです
東慶寺の法秀尼の前身の設定も楽しい
武芸に秀でたゆえにー良き縁談があろうはずがないーと 父親が東慶寺行きを勧めたと言うお姫様
「おゆう」では それを生かした作戦を立てる茶目っ気もある女性
心温かな優しい人々が 生き方に迷った人に救いの手を差し伸べる物語
読んで損はありません
映画「駆け込み女と駆け出し男」は この作品から幾つかのエッセンスを取り入れて 制作されています