このところオランプは宮殿の中にある王の居室に近い控えの間にほぼ連日詰めていて 宮殿の敷地内にある夫婦が住居とする館に帰ることすらない
夕暮れ時 オランプの着替えを持つディアネージュは彼の居る控えの間の前で つくり声で声をかける
「お着替えをお持ちしました」
扉に背を向けて窓辺の机横の壁の窪みの灯りをつけて調べ物をしていたオランプは「ああ・・・すまない」と言いかけて ディアネージュの声と気付き振り向き笑顔になる
「これは お手数をかける」
「我が館に少しも寄りつかれませんもの これも妻の務めでございます」
澄ましてツンとした表情で言ってのけるディアネージュ
オランプは胸を抑えて大げさにおどける
「何故だろう 有難くも優しい心遣いなのに ちくちく刺さる棘を感じるのは」
何か言い返しかけて らしくもなくディアネージュは堪える
むきになって子供っぽいと思われたくなかった
意識を取り戻した彼が自分の姿を深い藍色の眼で捉えてから ずっとずっと
オランプの前に出ると気後れを感じてしまう
こちらが高飛車に出ても見透かされているような・・・・・
男らしく濃く太い眉
皮肉っぽい面白がるような表情
「あたくしは・・・貴方様や兄上のお身体を心配しているだけですわ
政務の事は分かりませんけれど 少しはお休みにならないと」
「有難う わたしは王や貴女の信頼に応えたいのだ
どうにかこの国を微力ながら守り抜きたいと思っている
他意はない それだけ・・・だよ」
「お兄様も貴方も あたくしでは相談相手になりませんの
あたくしだって話を聞くぐらいはできますわ」
「そうだね 人に話すと考えがよりまとまるし 問題点にも気づきやすいと言うしね」
「あたくしは! あたくしだってこの国の力になりたいんです」
「男というものは 大切な相手には平和で安全な場所にいてほしい そう願ってしまう」
そう言いながらオランプは人差し指と中指で両眉頭を押さえた
「オランプ?」
「時々・・・何かが閃くことがあるんだ
今の貴女と似た言葉を誰かに言われた・・・そんな気がした
女だって戦えるのだと」
ひたとオランプはディアネージュを見つめて話す
「貴女のその緑の瞳を見ていると思い出せそうな気がするんだ
浮かぶ幾つかの場面は捕える間も無くすぐに消えてしまうが」
「お水を・・・」
波立つ胸を抑えディアネージュは水差しからグラスに水を注ぎ オランプに手渡す
「ねぇ あたくしだって貴方を守って差し上げたいのです
兄が重く扱う貴方に敵の多いことはあたくしにも分かっております」
「ディアネージュ 貴女が思う以上にわたしは貴女を大切に想っている
貴女を害することはしない
何が起ころうとわたしを信じていてほしい」
鋭く稲妻が走り間もなく落雷の音がする
微かに身を震わせるディアネージュ
「雷の音は苦手か」
「怖がるべきものではありません 怖れようとも落ちる場所に落ちるものです
怖がるなんて無駄なことです
命を狙われて兄に安全な隠れ家に置いておかれた小さな頃 毛布を被り震えているしかなかった事を思い出す
思い出してしまう それだけです」
オランプはディアネージュに向かって両腕を伸ばした「おいで・・・」
「?!」
「ほら 少しこうしていよう」
落雷の音が遠ざかり聞こえなくなるまで オランプはディアネージュの体をすっぽりと優しくその腕で包んでいた
オランプと過ごす僅かな時間はディアネージュの中でたいそう大切な美しい想い出となり 思い返す時とても優美な表情になる
「遅い時間になってしまった 館まで送っていこう」
そんな言葉すら
そう いつもオランプはディアネージュに優しい
時に優しすぎるほど
彼女の想いはその優しさの中ではぐらかされる
確かにこの人の心に触れたと思い なのに気が付けば遠ざけられている
「ゆっくりお休み また・・・ね」
温かな笑顔と深い声に問いかける機会を失ってしまう
並んで歩くだけで充たされて幸福で 取り残されての独りは戸惑うほど寂しい
館の窓からディアネージュは小さくなっていくオランプの後姿を見続ける
ー命の恩人として有難がられたいんじゃない
恩に思われるだけなんて・・・
王の妹だから受け入れられたのではー
夕暮れ時 オランプの着替えを持つディアネージュは彼の居る控えの間の前で つくり声で声をかける
「お着替えをお持ちしました」
扉に背を向けて窓辺の机横の壁の窪みの灯りをつけて調べ物をしていたオランプは「ああ・・・すまない」と言いかけて ディアネージュの声と気付き振り向き笑顔になる
「これは お手数をかける」
「我が館に少しも寄りつかれませんもの これも妻の務めでございます」
澄ましてツンとした表情で言ってのけるディアネージュ
オランプは胸を抑えて大げさにおどける
「何故だろう 有難くも優しい心遣いなのに ちくちく刺さる棘を感じるのは」
何か言い返しかけて らしくもなくディアネージュは堪える
むきになって子供っぽいと思われたくなかった
意識を取り戻した彼が自分の姿を深い藍色の眼で捉えてから ずっとずっと
オランプの前に出ると気後れを感じてしまう
こちらが高飛車に出ても見透かされているような・・・・・
男らしく濃く太い眉
皮肉っぽい面白がるような表情
「あたくしは・・・貴方様や兄上のお身体を心配しているだけですわ
政務の事は分かりませんけれど 少しはお休みにならないと」
「有難う わたしは王や貴女の信頼に応えたいのだ
どうにかこの国を微力ながら守り抜きたいと思っている
他意はない それだけ・・・だよ」
「お兄様も貴方も あたくしでは相談相手になりませんの
あたくしだって話を聞くぐらいはできますわ」
「そうだね 人に話すと考えがよりまとまるし 問題点にも気づきやすいと言うしね」
「あたくしは! あたくしだってこの国の力になりたいんです」
「男というものは 大切な相手には平和で安全な場所にいてほしい そう願ってしまう」
そう言いながらオランプは人差し指と中指で両眉頭を押さえた
「オランプ?」
「時々・・・何かが閃くことがあるんだ
今の貴女と似た言葉を誰かに言われた・・・そんな気がした
女だって戦えるのだと」
ひたとオランプはディアネージュを見つめて話す
「貴女のその緑の瞳を見ていると思い出せそうな気がするんだ
浮かぶ幾つかの場面は捕える間も無くすぐに消えてしまうが」
「お水を・・・」
波立つ胸を抑えディアネージュは水差しからグラスに水を注ぎ オランプに手渡す
「ねぇ あたくしだって貴方を守って差し上げたいのです
兄が重く扱う貴方に敵の多いことはあたくしにも分かっております」
「ディアネージュ 貴女が思う以上にわたしは貴女を大切に想っている
貴女を害することはしない
何が起ころうとわたしを信じていてほしい」
鋭く稲妻が走り間もなく落雷の音がする
微かに身を震わせるディアネージュ
「雷の音は苦手か」
「怖がるべきものではありません 怖れようとも落ちる場所に落ちるものです
怖がるなんて無駄なことです
命を狙われて兄に安全な隠れ家に置いておかれた小さな頃 毛布を被り震えているしかなかった事を思い出す
思い出してしまう それだけです」
オランプはディアネージュに向かって両腕を伸ばした「おいで・・・」
「?!」
「ほら 少しこうしていよう」
落雷の音が遠ざかり聞こえなくなるまで オランプはディアネージュの体をすっぽりと優しくその腕で包んでいた
オランプと過ごす僅かな時間はディアネージュの中でたいそう大切な美しい想い出となり 思い返す時とても優美な表情になる
「遅い時間になってしまった 館まで送っていこう」
そんな言葉すら
そう いつもオランプはディアネージュに優しい
時に優しすぎるほど
彼女の想いはその優しさの中ではぐらかされる
確かにこの人の心に触れたと思い なのに気が付けば遠ざけられている
「ゆっくりお休み また・・・ね」
温かな笑顔と深い声に問いかける機会を失ってしまう
並んで歩くだけで充たされて幸福で 取り残されての独りは戸惑うほど寂しい
館の窓からディアネージュは小さくなっていくオランプの後姿を見続ける
ー命の恩人として有難がられたいんじゃない
恩に思われるだけなんて・・・
王の妹だから受け入れられたのではー