夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「ルルドスの海から」-9-

2017-08-31 22:43:54 | 自作の小説
その後 何事につけても動きが早いオランプは オルディスをソロクレスに紹介し船の値段の交渉に入る
その席でソロクレスはルルドスの危機についてオルディスに話す許可をオランプに与えた
案じられるルルドスの未来 それを教えれば相手は売値をつり上げるかもしれないのに
異国の人間までも危ない目にあわせてはいけないと考えるソロクレス
その清廉かつ誠実さはオランプには好ましく感じられる

勿論ソロクレスがオルディスという人間を見たからではあるが

オランプに事を打ち明けられたオルディスは売値をつり上げるどころか割り引いた
「我が国はひどくおおらかなんだ」とオルディスは笑う

目を見張るオランプにオルディスは彼の先祖の話をした

四人兄弟の三人目ながらブロディルの王となったリトアールは 末っ子のダンスタンが呆れるほどの暢気者
ところが理不尽に国を害しようと企む相手には 恐るべき敵となる勇猛果敢さを備えていた
ある時 同盟を結んでいたブロディルの南の国ローメインが海からの攻撃を受けた
ローメインでは悪い病気が流行り民の殆ども国王夫妻も病死し 若い女王メリアーヌが即位したばかりだった
戦えるまともな兵もろくにいない
兵を率いて駆け付け女王を護り 敵を蹴散らし殲滅したリトアール王を女王メリアーヌは愛したが リトアールは王妃アシュレインをこよなく愛しており
女王メリアーヌの恋は叶わなかった
だが生涯独身で通し若くして死んだ女王メリアーヌは その感謝の気持ちを死後にローメインをリトアール王へ支配権を譲渡することで示した
ブロディルの飛び地のような領土ローメインは代々リトアールの直系が受け継ぐ
ローメインの人々は今やその殆どが暮らしやすいブロディルに移り住み ローメインを受け継いだオルディスのイトコはその扱いについて悩んでいるらしい


「イトコということは オルディス殿 貴方は王族か」

「そうなるね」

「それでイトコというのは 貴方に似ておられるのか」

「いや・・・ わたしよりうんとうんとうっかり者の忘れん坊だ」
困ったものだと言わんばかりにオルディスは首を振る

こうしてオルディスに来るかもしれぬ危機について話したオランプは ドルランクにも自分で話すことにした
いつまでも船の完成を急ぐ理由を隠してはおけない



その頃ソロクレスの所へは神官エランドが押しかけてきていた
「ダイレントから聞いた 大地が沈むなどとアホウな考えにとりつかれあたふたしているそうな
お前は狂ったか」

「叔父上」
亡き先代王よりも叔父に似ていると言われるソロクレス
瞳の色こそ違えど同じ金色の髪

「まして民にも伝え慌てさせるなど王のする事か いい笑いものぞ」

「もし わたしの気がふれたなら叔父上はどうなさいます」
ソロクレスは落ち着いてエランドの偽りの激昂ぶりを見据えていた

「お前はー」

「我が母ルルディアより狂った血が入ったことにできれば満足ですか」

「何を言う・・・」

「叔父上の母君ドルメア様が わたしの祖父の予定された王妃候補
けれど祖父は他の女性を愛し妻とし わたしの父アルストンが生まれた
王妃が若くして不自然な死を迎え ドルメア様は王妃となり叔父上を産んだ」


「ソロクレス お前は何が言いたいのだ」
エランドの灰色の目が濃さを増し黒闇の色に近づく

「わたしに剣の手ほどきをしてくれた叔父上が 年の離れた兄のようでもあった叔父上をわたしは責めたくなかった」

「・・・・・」

「気付かぬ振りを続けていたかったですよ
わたしとディアネージュの両親の死 食事に混ぜられ続けている毒
それさえも無視していたかった」

ここに来てエランドはせせら笑いを浮かべる「ふん・・・道理で死なないわけだ かなり前から気付いていたのか」

今度はソロクレスが無言でエランドを見る

「そうさ 我が母ドルメアは呪われた魔女の血を引く者 自分を差し置き先々王の妻となった女を呪い殺し術を使い王妃となり
わたしを産んだ
先々王は わたしの父は術をかけられ騙されドルメアを抱かされたことを良くは思わず ただただドルメアを わたしの事を疎ましくかつ悍ましく思った
母は王に可愛がられるアルストンを呪って死んだ
母の恨みは我が身に残り 
忠実な弟の振りをして 愛する兄アルストンよ その妻ルルディアよ
そう呼び続け 命を奪う好機を待ち
一度は王位に就けたソロクレス お前に汚名をかぶせて廃位に追い込み処刑する
そんな気の長い愉しい計画をわたしは持っていた」

眉を寄せ沈痛な表情のソロクレスを見ながら エランドは言葉を続ける
「狂った王を殺し 乞われて仕方なく王位に就く
そう お前が激昂して暴れた事にして
お前に剣を教えたのは わたしだ」
話しながらエランドは腰に帯びている儀式用の筈の剣を抜いた
剣は鋭く研ぎ澄まされており不吉に輝いた
「狂った愚かな王として死ねばいい!」