障子があって縁側があって そんなに広くなくていいからー小さな頃 一時期住んだ家に似た家に焦がれる気持ちがあった
ささやかな昔のー昭和の家だ
縁側で板塀に囲まれた庭を眺めながらごろり
そんな事が贅沢に思えてきて
そう研究にも行き詰まり自分の限界を感じて僕は疲れていたのかもしれない
仕事と自分の趣味で忙しい母から厄介事を言いつかった
「あんた いつまで夏休みだっけ」
「時々研究室に行く以外はー教えに行っているところは10月から始まるから それまでくらいならー」
「ちっちゃい頃 あんたっておじいちゃん子でおばあちゃん子だったよね」
母がにんまり笑う
こういう時は経験上返事しない方がいい
「手放すのもためらわれてね そのままにしておいたおじいちゃんの家ね 少し片づけようと思うのよ
あんたも欲しい品があるかもしれないからー行って見てきたら」
要は暫く行っていない家の大掃除と修理箇所があるなら書き出しておけーと
母は僕が小さな頃 自分の両親と暫く暮らしていた
会社の転勤で実家を離れるを得なかったのだが・・・・
祖父母は家を出る母に僕を置いていけと言ったのだとか
母も迷ったのだと言っていた
「お金だけ送ってーって そんなテもあるしねえ
だけど 私 一応 母親だし」
僕は父親を知らない
祖父母も僕の父親を話題にすることはなかった
その祖母が死んで10年 祖父が死んで5年になる
独り暮らしになった祖父を引き取り やがて祖父が病気になると母と僕とで看取った
祖父母の家へ行くように言った母だが 何からしくないすっきりしない表情をしていた
「まあ なんでも自分の目で見るのが一番だからー」
母は僕が祖父母の家へ着く日に 寝具が届くようにネット通販に注文してくれていた
駅から少し歩いただけでひどく静かになる
海が近いので風が潮の匂いを運んでくる
門をくぐると車が5~6台ばかしおけそうな前庭があり 松が区切る玄関へは敷石
祖母が病気になった頃 看病に戻っていた母が安全なようにと 祖父母と相談して水回りをいじりオール電化にした
おかげで台所に風呂にトイレは古びてはいない
ネットだけは遊んでパソコンを使う母が そこも環境を整えてくれている
暢気者だか やたら気が回るんだか 母は分からない人だ
でも間取りは殆ど覚えている通りだった
祖父母が寝室に使っていた部屋
でんと構えた床の間のある二間続きの和室
廊下を隔ててアイランドの作業台付き対面式キッチン 昼寝に丁度良いソファーベッドが二つ 普段は長椅子として使って置いてある洋間
それから二階には僕と母用のそれぞれの部屋と来たお客さんが泊まる用の和室があった
洗濯物も干せる広いバルコニーには休みに遊びに行くと祖父が天体望遠鏡を置いてくれた
厳しいところもあったが僕には優しい愛情深い祖父だった
亡くなる数日前 祖父は母に「すまんかったの 」と言い 母は首を振っていた
家に入り窓を開けて風を通していくと色々な事が思い出される
母が使っていた部屋には 母が読んだ本が壁一面の書棚に詰まっている
僕が使っていた部屋には 泊まりに来た時用にと祖母が買ってくれた学習机にセミダブルのベッド
そのまんま置いてある
いつ泊りにきてもいいようにと
家出してきてもいいーと笑っていた元気な頃の祖母
祖母が病気になった頃は学生で そんなには戻ってこられなかった
看病に戻った母に僕を置いていて大丈夫かと心配していたらしい
祖母の葬儀が済んで祖父に僕達との同居を勧めた母は 「あけても家は分かってくれるわ」と言った
僕の聞き間違いだったのだろうか
「家は」って・・・
家中に掃除機をかけ拭き掃除をし 届いた寝具をベッドにおくと結構汗をかいたのでシャワーを浴びて寝間着浴衣を羽織る
そうだ縁側でごろりができるのだ
気分を盛り上げるのに蚊取り線香をつける
用意してきた風鈴も吊るした
今夜用には駅弁を買っておいたし 食パンと卵とハムと牛乳も冷蔵庫に入れた
明日は少し食糧品を買い込んでから押入れや納戸を見てみよう
あれこれ考えながら横になった僕はそのまま素直に眠ってしまったらしい
ー急に出たら驚くからー
ーでも視(み)えない気付けない人間かもー
ー鈍感そうだしねー
言いたい放題に話している声が聞こえて眠りからさめかける
複数の声だ
誰か来たんだろうか
それで目が覚めたのか
ーきゃあ 起きるー
ー丁度いいじゃない 視(み)えてるかどうか試せるわー
ーでもさ みゆりさんは驚かすなって言っていたのでしょー
ー小さいうちは・・・って事だったでしょ これはどう見ても子供じゃないわー
みゆりは僕の母親の名前だ 母を知っている人たちなのか
目をあけると・・・三体いた
「えっと~~~ こんばんは」
三体・・・大きなリボンをしたポニーテールの朝顔柄の浴衣を着た女の子
長い髪で総絞りの浴衣を着た女性
大正時代のモガ モダンガールのような雰囲気の女性
「視(み)える 視(み)えてる」とポニーテールが騒ぐ
「鈍感そうなのに変に不幸な小心者だったか」とモガ
「視(み)える方が面倒なくていいんじゃない」と投げやり口調の長い髪
「見える見えないって何の話 君たちは母を知っているの」
「もしかして もしかしてなぁ~~~~んにも知らないわけ」とモガ
「それでも この家に寄越したのよね みゆりさんは」と長い髪
「あなたはね 半分 あたし達のお仲間なのよ」とポニーテール
彼女達は僕には見えても此の世の者では無いと言う
母の血筋には時々視(み)える人間が生まれてくる
それは代々言い伝えられて ごく普通に人生を送る者もいる
大昔は神社の巫女か何かの家系で
視(み)える人間には守護者のような者がつくらしい
母には生まれた時から護り手として青年(に視える者)がついていた
三体が言うには
視える母を狙う邪悪な者もいて 凶事から母を守るたび 守られるたび護り手と母は想い合うようになり 禁を犯した
二人は互いの想いを抑えきれず 愛し合ってしまった
そして驚いたことに・・・・
母は子供を産んだのだ
それが僕だと
僕は完全に眼が覚めているのだろうか
もしやこれは夢ではないのか
疲れると人間 妙な夢を見るという
過ちを犯した母の護り手は罰を受けているとも彼女達は言う
「まあねえ みゆりさんは美少女だったから 無理もないわよねえ
アレもいい男だったし 恋に落ちるなってのが無情な話よ」とモガ
彼女達は言った「わたし達はね あなたの護り手よ 視えた以上は
これから よろしく」
「わたし達はね 罰は受けたくないから勝手に恋をしないようにね」
と念を押されてしまった
さて衝撃の告白を受けた僕は これからどう生きていけばいいのだろうか
ささやかな昔のー昭和の家だ
縁側で板塀に囲まれた庭を眺めながらごろり
そんな事が贅沢に思えてきて
そう研究にも行き詰まり自分の限界を感じて僕は疲れていたのかもしれない
仕事と自分の趣味で忙しい母から厄介事を言いつかった
「あんた いつまで夏休みだっけ」
「時々研究室に行く以外はー教えに行っているところは10月から始まるから それまでくらいならー」
「ちっちゃい頃 あんたっておじいちゃん子でおばあちゃん子だったよね」
母がにんまり笑う
こういう時は経験上返事しない方がいい
「手放すのもためらわれてね そのままにしておいたおじいちゃんの家ね 少し片づけようと思うのよ
あんたも欲しい品があるかもしれないからー行って見てきたら」
要は暫く行っていない家の大掃除と修理箇所があるなら書き出しておけーと
母は僕が小さな頃 自分の両親と暫く暮らしていた
会社の転勤で実家を離れるを得なかったのだが・・・・
祖父母は家を出る母に僕を置いていけと言ったのだとか
母も迷ったのだと言っていた
「お金だけ送ってーって そんなテもあるしねえ
だけど 私 一応 母親だし」
僕は父親を知らない
祖父母も僕の父親を話題にすることはなかった
その祖母が死んで10年 祖父が死んで5年になる
独り暮らしになった祖父を引き取り やがて祖父が病気になると母と僕とで看取った
祖父母の家へ行くように言った母だが 何からしくないすっきりしない表情をしていた
「まあ なんでも自分の目で見るのが一番だからー」
母は僕が祖父母の家へ着く日に 寝具が届くようにネット通販に注文してくれていた
駅から少し歩いただけでひどく静かになる
海が近いので風が潮の匂いを運んでくる
門をくぐると車が5~6台ばかしおけそうな前庭があり 松が区切る玄関へは敷石
祖母が病気になった頃 看病に戻っていた母が安全なようにと 祖父母と相談して水回りをいじりオール電化にした
おかげで台所に風呂にトイレは古びてはいない
ネットだけは遊んでパソコンを使う母が そこも環境を整えてくれている
暢気者だか やたら気が回るんだか 母は分からない人だ
でも間取りは殆ど覚えている通りだった
祖父母が寝室に使っていた部屋
でんと構えた床の間のある二間続きの和室
廊下を隔ててアイランドの作業台付き対面式キッチン 昼寝に丁度良いソファーベッドが二つ 普段は長椅子として使って置いてある洋間
それから二階には僕と母用のそれぞれの部屋と来たお客さんが泊まる用の和室があった
洗濯物も干せる広いバルコニーには休みに遊びに行くと祖父が天体望遠鏡を置いてくれた
厳しいところもあったが僕には優しい愛情深い祖父だった
亡くなる数日前 祖父は母に「すまんかったの 」と言い 母は首を振っていた
家に入り窓を開けて風を通していくと色々な事が思い出される
母が使っていた部屋には 母が読んだ本が壁一面の書棚に詰まっている
僕が使っていた部屋には 泊まりに来た時用にと祖母が買ってくれた学習机にセミダブルのベッド
そのまんま置いてある
いつ泊りにきてもいいようにと
家出してきてもいいーと笑っていた元気な頃の祖母
祖母が病気になった頃は学生で そんなには戻ってこられなかった
看病に戻った母に僕を置いていて大丈夫かと心配していたらしい
祖母の葬儀が済んで祖父に僕達との同居を勧めた母は 「あけても家は分かってくれるわ」と言った
僕の聞き間違いだったのだろうか
「家は」って・・・
家中に掃除機をかけ拭き掃除をし 届いた寝具をベッドにおくと結構汗をかいたのでシャワーを浴びて寝間着浴衣を羽織る
そうだ縁側でごろりができるのだ
気分を盛り上げるのに蚊取り線香をつける
用意してきた風鈴も吊るした
今夜用には駅弁を買っておいたし 食パンと卵とハムと牛乳も冷蔵庫に入れた
明日は少し食糧品を買い込んでから押入れや納戸を見てみよう
あれこれ考えながら横になった僕はそのまま素直に眠ってしまったらしい
ー急に出たら驚くからー
ーでも視(み)えない気付けない人間かもー
ー鈍感そうだしねー
言いたい放題に話している声が聞こえて眠りからさめかける
複数の声だ
誰か来たんだろうか
それで目が覚めたのか
ーきゃあ 起きるー
ー丁度いいじゃない 視(み)えてるかどうか試せるわー
ーでもさ みゆりさんは驚かすなって言っていたのでしょー
ー小さいうちは・・・って事だったでしょ これはどう見ても子供じゃないわー
みゆりは僕の母親の名前だ 母を知っている人たちなのか
目をあけると・・・三体いた
「えっと~~~ こんばんは」
三体・・・大きなリボンをしたポニーテールの朝顔柄の浴衣を着た女の子
長い髪で総絞りの浴衣を着た女性
大正時代のモガ モダンガールのような雰囲気の女性
「視(み)える 視(み)えてる」とポニーテールが騒ぐ
「鈍感そうなのに変に不幸な小心者だったか」とモガ
「視(み)える方が面倒なくていいんじゃない」と投げやり口調の長い髪
「見える見えないって何の話 君たちは母を知っているの」
「もしかして もしかしてなぁ~~~~んにも知らないわけ」とモガ
「それでも この家に寄越したのよね みゆりさんは」と長い髪
「あなたはね 半分 あたし達のお仲間なのよ」とポニーテール
彼女達は僕には見えても此の世の者では無いと言う
母の血筋には時々視(み)える人間が生まれてくる
それは代々言い伝えられて ごく普通に人生を送る者もいる
大昔は神社の巫女か何かの家系で
視(み)える人間には守護者のような者がつくらしい
母には生まれた時から護り手として青年(に視える者)がついていた
三体が言うには
視える母を狙う邪悪な者もいて 凶事から母を守るたび 守られるたび護り手と母は想い合うようになり 禁を犯した
二人は互いの想いを抑えきれず 愛し合ってしまった
そして驚いたことに・・・・
母は子供を産んだのだ
それが僕だと
僕は完全に眼が覚めているのだろうか
もしやこれは夢ではないのか
疲れると人間 妙な夢を見るという
過ちを犯した母の護り手は罰を受けているとも彼女達は言う
「まあねえ みゆりさんは美少女だったから 無理もないわよねえ
アレもいい男だったし 恋に落ちるなってのが無情な話よ」とモガ
彼女達は言った「わたし達はね あなたの護り手よ 視えた以上は
これから よろしく」
「わたし達はね 罰は受けたくないから勝手に恋をしないようにね」
と念を押されてしまった
さて衝撃の告白を受けた僕は これからどう生きていけばいいのだろうか