【社説】:②最長裁判員裁判 検証を負担軽減につなげたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:②最長裁判員裁判 検証を負担軽減につなげたい
裁判員裁判が抱える課題が顕在化した。入念に検証し、裁判員の負担軽減に生かしたい。
審理期間が裁判員裁判で過去最長になった事件の判決が、神戸地裁姫路支部で言い渡された。
初公判から判決までに207日間を要し、公判は過去最多の70回を数えた。これまでの160日間、42回を大きく上回った。裁判員の負担は如何(いか)ばかりだったか。
被告の男は3人の死亡に関与したとして、殺人2件、逮捕監禁致死1件など計11の罪に問われていた。求刑が死刑だったのに対し、判決は、殺人1件を無罪として、無期懲役を選択した。
死者3人のうち、2人の遺体が見つかっておらず、被告は10の罪を否認した。証人は延べ120人を超え、多い時には週4回ものペースで公判が開かれた。
有罪か無罪か。死刑か無期懲役か。裁判員は重い判断を迫られた。多数の証拠や証言を吟味し、事実を見極めて量刑を決めるのは、困難の連続だっただろう。
審理計画は適切だったか。開廷や証人尋問の頻度、休憩の取り方などについて、裁判員が感じたことを聞き取り、今後の難事件の公判に反映させてもらいたい。
制度開始から来年で10年になる裁判員裁判では、審理の長期化が進む。当初は3・7日だった平均審理日数は昨年、10・6日に延びた。被告が起訴事実を否認する事件の増加が要因とみられる。
深刻なのは、裁判員の辞退率の上昇だ。全国では67%に上る。
今回の裁判では84%に達した。初公判後には、裁判員6人のうち3人が交代している。
辞退を柔軟に認めることは必要だが、辞退率が過度に高いと、裁判員の構成が、時間的に余裕のある人に偏る恐れがある。国民の多様な考えを裁判に反映させる制度の趣旨が損なわれかねない。
辞退理由では「仕事」が多い。企業などの協力が不可欠だ。
丁寧な審理と迅速な進行を両立させるため、裁判官の訴訟指揮能力も一層問われる。被告が複数の事件で起訴された場合、事件ごとに裁判員を選任する区分審理は、負担軽減の選択肢の一つだ。
裁判員法は、審理期間が著しく長期に及ぶ際には、裁判官だけで審理できると規定している。
司法への国民参加という司法制度改革の原点を考えれば、裁判員裁判の回避には極めて慎重であるべきだ。ただし、審理が今回以上に長期化するようなケースでは、検討の余地も生じるだろう。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年11月13日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。