【社説】:①ゴーン会長逮捕 権力集中が不正を招いたのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①ゴーン会長逮捕 権力集中が不正を招いたのか
◆日産はガバナンスの再構築急げ◆
カリスマ経営者のまさかの失墜である。世界2位の巨大自動車グループの先行きには、不透明感が増したと言えよう。
東京地検特捜部が、日産自動車代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で逮捕した。日産は22日の取締役会に、ゴーン容疑者の会長解任を提案する。
ゴーン容疑者は、自らの役員報酬について、実際の額の半分しか有価証券報告書に記載しなかった疑いがある。2011年3月期から5年間の報酬は計99億9800万円だったのに、49億8700万円と記載されていたという。
◆投資家への背信行為だ
企業の業績や財務内容を記した有価証券報告書は、投資家の重要な判断材料となる。虚偽記載の法定刑は、10年以下の懲役か1000万円以下の罰金だ。法人に対する両罰規定もある。
容疑事実通りであれば、投資家への重大な背信行為である。
ゴーン容疑者の高額な報酬に対しては、株主から疑問の声が上がっていた。批判を免れるために、不正に及んだのか。
ゴーン容疑者の側近の代表取締役グレッグ・ケリー容疑者も同じ容疑で逮捕された。ケリー容疑者は、他の幹部に「報酬を隠せ」などと命じていたという。
一般的に、有価証券報告書の作成には多くの部署が関わる。ゴーン容疑者の真の報酬額について、少なくとも一部の幹部は承知していたと見るのが自然だろう。
日産社内でチェック体制が機能せず、見逃してきた歴代幹部の責任は重い。日産は調査を尽くし、きちんと説明せねばならない。
◆コストカッターの異名
特捜部は今回、虚偽記載に関与した日産の執行役員らとの間で、司法取引(協議・合意制度)に合意したとされる。執行役員らは、捜査に協力する見返りに、刑事処分が軽くなる可能性がある。
虚偽記載に関与しながら、有利な取り計らいを受けるのであれば、釈然としない面もある。
記載額と実際の報酬との50億円に上る差額は、どこから捻出されたのかという問題もある。特捜部は国税当局と連携し、不透明な金の流れを解明してもらいたい。
ゴーン容疑者は1999年、提携先の仏ルノーから経営危機にあった日産に送り込まれ、経営再建計画「日産リバイバル・プラン」をまとめ上げた。
主力の村山工場(東京)閉鎖や、約1万8000人の人員削減を含めた大規模なリストラを実施して1兆円のコストを削減した。「コストカッター」の異名を持つ。
2000年に社長に就任し、業績のV字回復をほどなく果たした。05年にはルノー社長を兼務し、三菱自動車を傘下に収める16年の再編劇も主導した。
権限の過度な集中が、不正を招いたと言えるのではないか。西川広人日産社長も記者会見で、「長年のゴーン統治の負の側面と言わざるを得ない」と釈明した。
執行役員らが司法取引に応じたのは、不正行為をこれ以上、容認できないとの判断からだろう。
日産によると、虚偽記載以外にも、投資資金や経費の私的流用といった重大な不正行為が判明したという。事実なら、会社の私物化といえる行為である。
ゴーン容疑者の逮捕は、投資家の失望を招き、20日の株式市場で日産の株価は急落した。
◆3社連合揺らぐ恐れも
日産では、無資格の従業員による検査や燃費・排ガスデータ改ざんなども発覚している。
ガバナンス(企業統治)の再構築など組織の立て直しに努め、信頼回復を急がねばならない。
西川社長は、日産・ルノー・三菱自による3社連合を維持する考えを示した。「(事件は3社の関係に)何ら影響を与える性格の事案ではない」とも強調した。
果たしてそうだろうか。3社のトップに君臨するゴーン容疑者の退場で、戦略の違いが表面化し、連携が揺らぐ可能性もある。
ルノーは日産に約44%出資している。一方で、日産の売上高はルノーを上回り、日産がルノーの収益を支える構図となっている。
日産への関与を強めようとするルノーやゴーン容疑者の姿勢に、日産社内では不満や反発が広がっていた。不協和音を払拭ふっしょくすることが連合維持の課題となる。
自動車業界は、自動運転技術の進展や電動化など、「100年に1度」の変革期に直面している。世界で勝ち残るには、まずは経営体制を固めなければならない。自動車会社は肝に銘じるべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年11月21日 06:12:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。