【社説】:①英EU離脱合意 メイ氏の足元が揺らいでいる
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①英EU離脱合意 メイ氏の足元が揺らいでいる
与党内の逆風にさらされるメイ英首相が、欧州連合(EU)との合意に議会の承認を取り付け、EUからの秩序ある離脱を実現できるのか。
指導力が問われる重大な局面を迎えたと言えよう。
英国のEU離脱を巡り、双方が事務レベルで協定案に暫定合意した。今月25日のEU臨時首脳会議で、最終合意を目指す。
来年3月29日の離脱後、2020年末までを「移行期間」とし、現在の関係を維持する。英国は20年までEU予算の分担金を支払う。英在住のEU市民と、EU在住の英市民の権利を保障する。
最大の懸案である英領北アイルランドとアイルランドの国境管理問題は、事実上先送りした。国境の自由往来を維持するために、英国は問題解決までEUの関税同盟にとどまり、EUの環境基準などを受け入れる。
移行期間中も、英EUの通商関係に関する協議を継続する。
数十年かけて密接な関係を築いた共同体からの離脱がいかに困難かを如実に示している。
メイ氏が妥協を決断したのは、合意が成立しないまま離脱し、経済と社会の混乱を招く最悪の事態を回避するためだろう。移民流入を制限する権限は、離脱派の要求通り、得られることになる。
問題は、メイ氏が内閣すらまとめきれていないことだ。臨時閣議で協定案への了承を得た、と発表した後に、EU離脱相が「支持できない」と辞任した。担当閣僚の造反という異例の展開だ。
与党・保守党内の強硬離脱派の間では、関税同盟をいつ解消するかが未確定なまま、EUの制約を受け続けることに、強い不満の声が広がる。与党党首に対する不信任投票を求める「メイおろし」の動きも出始めた。
メイ氏が英議会で協定案の承認投票まで持ち込んでも、過半数の賛成を得られるかは不透明だ。
現実的な代案を示さない強硬離脱派が、「無秩序な離脱」の可能性を高めているのは、国会議員として無責任である。
EU側は1年5か月に及んだ交渉で足並みの乱れを見せなかった。混乱続きの英国とは対照的に、交渉力を強めたのではないか。
英議会が協定案の否決や解散総選挙などに至った場合、EUは全加盟国の合意で、来年3月の離脱を先延ばしにし、交渉を継続することができる。
合意なき離脱とその悪影響を回避するため、EUはあらゆる事態に備えねばならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年11月17日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。