【社説】:①日本経済再生 成長力高め安定軌道に乗せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①日本経済再生 成長力高め安定軌道に乗せよ
◆消費増税の円滑な実施が重要だ◆
足踏み状態の景気を再加速して、安定成長の軌道に乗せることが出来るか。内外に課題を抱える中、今年の日本経済は、正念場を迎えよう。
名目国内総生産(GDP)は平成の30年間で約150兆円増え、雇用状況を示す有効求人倍率は歴史的な高水準にある。
ところが、30年前に4%を超えていた潜在成長率は、1%前後の低空飛行が5年以上続いている。経済の推進力は頼りない。
◆賃上げ継続が欠かせぬ
規制緩和や成長戦略を通じて新産業を育成し、生産性を高める。政府は、民間主導による経済の底上げを図らねばならない。
企業が将来を見据え、設備投資を積極化させることも重要だ。特に大企業が、利益を海外投資だけでなく、国内投資の拡大につなげることがカギになる。
2012年12月の第2次安倍内閣発足時から続く現在の景気拡大期は、1月に戦後最長を更新するとみられる。しかし、拡大の基調は緩やかで、実感に乏しい。
原因は、GDPの過半を占める個人消費の伸び悩みにある。消費を押し上げるには、高水準の賃上げの継続が欠かせない。
幸い足元の企業業績は総じて好調で、利益は最高水準にある。
企業の内部留保は過去最高の450兆円に上っている。業績の良い企業は、従業員に利益を還元してもらいたい。賃上げの動きを、労働者の7割が働く中小企業に広げることも大切だ。
同時に、非正規雇用の労働者をいかに正社員に登用していくかが課題と言えよう。
非正規の賃金は、30歳代前半で正社員の約75%の水準に、50歳代前半では半分程度にとどまる。
これでは安心して働けないのは当然だ。企業には非正規雇用を少しでも減らし、正規雇用を増やす努力が求められる。
有効求人倍率の上昇を喜んでばかりもいられない。物流や介護などの現場は人手不足が深刻だ。
◆不透明感増す海外経済
バブル経済崩壊後は、需要の不足がデフレ経済を長期化させた。今度は、人手不足が供給制約となり、経済成長の足かせになる可能性がある。既に人手不足が原因の企業倒産が増えてきている。
日本銀行の調査では、人手が足りないと感じる企業の割合は一段と高まり、バブル末期に肩を並べる水準に達している。
政府は、女性や高齢者が働きやすい環境を整える一方で、即戦力となる外国人労働者の受け入れを着実に進める必要がある。
消費者物価は伸び悩み、デフレからの完全脱却の展望は開けていない。量的金融緩和から脱した欧米の中央銀行とは対照的に、日銀は出口戦略を描けずにいる。
景気減速時に打つ手が限られているのも気がかりだ。
地方銀行の収益力低下といった金融緩和の弊害が目立つ。日銀には、内外の動向に配慮した粘り強い政策運営が求められる。
今年の日本経済にとって最も心配なのは、海外経済が減速傾向を強めている点である。
米中貿易摩擦がさらに激化すれば、世界経済への影響は大きくなる。投資家の不安心理を背景に、日経平均株価は昨年末、2万円の大台を一時割り込んだ。英国の欧州連合(EU)離脱を巡る情勢も混沌こんとんとしている。
米国の金融政策の動向などによっては、新興国からの資金流出や円高進行のリスクも拭えない。政府・日銀にとっては、一層の警戒を要する局面になろう。
10月には消費税率が8%から10%に引き上げられる。軽減税率制度が導入され、酒類と外食を除く飲食料品と、定期購読される新聞の税率は8%に据え置かれる。
◆軽減税率制度の定着を
社会保障費の増大で、将来的には消費税率のさらなる引き上げが避けられまい。国民の痛税感を和らげるには、軽減税率の定着が不可欠と言える。制度を円滑に導入することが肝要だ。
消費増税に合わせて、キャッシュレス決済をした人へのポイント還元など、多くの景気対策が実施される。政府は、消費者と小売りの現場を混乱させないよう制度設計を工夫すべきである。
2019年度予算案は、当初予算として初めて100兆円を超えた。税収は増えるが、3分の1を新規国債発行で賄う借金頼みの構図は変わっていない。
日本の長期債務は1100兆円と、GDPの2倍になる。主要国で最悪の水準だ。社会保障制度の改革や予算の重点化など、財政健全化の手を緩めてはならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年01月03日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。