【社説】:東北新社の接待調査 行政ゆがめた疑念募る
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:東北新社の接待調査 行政ゆがめた疑念募る
総務省幹部の接待問題で、放送事業会社「東北新社」は先週、特別調査委員会の報告書を公表した。2020年12月までの約5年間で会食が54件あり、いずれも同社が費用を負担していたことを確認したという。
総務省が2月に公表した39件を上回った。内部調査では漏れが避けられない証しでもある。「ばれなければ良い」と知らんぷりしている官僚が多いのではないか。そんな疑念が深まる。
官民の癒着が放送・通信行政をゆがめたことはなかったか、厳しいチェックが求められる。総務省は既に第三者の検証委員会を設け、調べている。信頼回復には徹底的な調査が必要だ。
東北新社の報告書は、会食はコンプライアンス(法令順守)上、重大な問題がある、と指摘した。しかも総務省との関係は明らかに限度を超えていた。
「忘年会いかがですか」「暑気払いを兼ねた情報交換会を設定させて…」。そうした東北新社からのお誘いメールに、ほいほい乗った幹部に公務員としての自覚はあるのだろうか。
放送事業者からの申請の公募中や、認定審査の期間は、総務省への会食の誘いは避けていたという。後ろめたい思いが東北新社にあったからに違いない。
会食への出席は、担当の執行役員が49件で最も多く、菅義偉首相の長男の正剛氏が22件で続いた。だが、報告書は「菅氏とつながりがあるかのように示唆して働き掛けをする意図があったとは認められない」とした。
しかし直接の担当者ではないのに、なぜこれほど多く出席したのか。会話の盛り上げ役を期待したとの説明は説得力を欠く。長男がいるだけで、総務省側に菅氏の威光を感じさせることができたのではないか。
さらに深刻なのは、放送法の外資規制に違反していた問題である。報告書は東北新社幹部が17年8月に総務省を訪れた時、規制違反について「何らかの報告・相談を行ったと認定することが合理的だ」とした。
しかし総務省側は3月、国会で「記憶は全くない」と答弁し、食い違う。ただ東北新社の調査はメールや社内会議の資料に基づいており、具体的だ。どちらが信用できるだろうか。
新たに疑念を招く事実も発覚した。東北新社幹部が総務省を訪問した直後、課長との会食でプロ野球の話題が出たため、後日、同社の持つ東京ドームのチケットを渡していた。時期や相手を考えると規制違反を大目に見てもらった対価と見られかねない。「軽率に過ぎ、驚きを禁じ得ない」。そう報告書が指摘するのも当然だ。むしろ、チケットを受け取った課長の倫理観の乏しさこそ責めるべきだ。
放送行政に詳しい大学教授は「利害なしの接待なし」と言い切る。平時に杯を重ねて懇ろになり、何かあったときに特別扱いしてもらえる関係をつくるのが接待の真の狙いだという。
放送や通信の許認可権限を持つ総務省に取り入ろうと、幹部の接待に走る事業者は少なくあるまい。実際、東北新社だけではなく、通信大手のNTTによる高額接待も明らかになった。
問題は、官の側がどうやって癒着を断ち切るかだ。政府を挙げた抜本的な意識改革が必要だ。利害関係者との付き合いはどうあるべきなのか。明確なルール作りも急がれる。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月31日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。