【社説】:大学入試改革 頓挫の原因を検証せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:大学入試改革 頓挫の原因を検証せよ
大学入学共通テストへの英語の民間検定試験と国語・数学の記述式問題の導入が今後も取りやめになった。大学入試改革の2本柱とされていたのに課題が相次いで浮上し、2019年末に導入が見送られていた。文部科学省の有識者会議が英語民間試験、記述式問題ともに「実現は困難」と改めて結論付けた。
このような結果になったのは当然だ。公平性の担保や受験生の経済的負担などの課題に十分に向き合わないまま、導入ありきの議論が政治主導で進められたためだ。
有識者会議は「理念や結論が過度に先行していた」と、政府の手法を批判した。座長は「過去の意思決定の仕方に問題があった」とも指摘した。受験生に不安を与え、現場を混乱させた政府の責任は重い。頓挫の原因を検証し、二度と過ちを重ねぬよう猛省をすべきだ。
混乱の始まりは安倍晋三前首相が主導した13年の教育再生実行会議だ。「知識偏重の1点刻みの試験」からの脱却を掲げ、大学入試センター試験に代わる新テスト導入を提言した。それが議論も重ねられないままに、新テストに記述式問題と英語民間検定を導入するという議論にすり替わった。
記述式問題は50万人もの受験生の解答を短期間でミスなく採点できるかが不透明だった。採点基準もあいまいで、課題が浮かび上がるたびに解答の文字数も減るありさまだった。
英語民間検定は、検定料が高額で試験会場が都市部に偏在していると指摘された。経済格差や地域格差が大きいとの懸念が噴出する中、萩生田光一文科相がテレビ番組で「身の丈に合わせて頑張って」と発言。大きな批判を招き、結局は19年末に記述式問題も英語民間検定も見送りへと追い込まれている。
課題をクリアできず、見送った。文科省の国公私立大学アンケートで、記述式には8割以上、英語民間検定には7割近くが否定的な意見だったのは当然だろう。
共通テスト対象の七つの英語民間検定で全都道府県に会場があるのは二つだけという。試験タイプもそれぞれ違う。どれを受けるか悩んでいた受験生はやっと安心できたのではないか。
学校も共通テストに対応するために授業カリキュラムを変更するなど、政府の方針に振り回された。受験生や学校現場の実情を考慮せず、制度設計を急いだために招いた混乱だということを政府は自覚すべきだ。
導入の狙いとされた、受験生の英語で「話す」技能や、論理的思考や表現力が国際化時代に欠かせないという意見は理解できる。だが、その能力は大学が2次試験で見極め、育成すればいいはずだ。
基礎学力を共通テストで測り、2次試験で個別の能力を把握する工夫を個々の大学に求めたい。各大学が入学者の受け入れ方針を明示し、それに沿った特色ある2次試験で選考するのがあるべき形だろう。
新学習指導要領となる25年以降、共通テストは現行の6教科30科目が新たに「情報」を加えた7教科21科目に再編される見通しだ。
政府は今回の失敗を教訓に、受験生や現場の声に真摯(しんし)に耳を傾けながら、大学入試の在り方を検討すべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年07月14日 06:44:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。