【知床・観光船事故】:「30度傾いている」連絡後消息絶つ、当日何が
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【知床・観光船事故】:「30度傾いている」連絡後消息絶つ、当日何が
観光船「カズワン」の事故発生から30日で1週間。発生日の23日に何があったのか。これまでの地元住民や関係者への取材などを基に、当日の出来事を再現してみた。
23日朝、北海道・知床半島の西側にあるウトロ漁港(斜里町)の空には雲が広がっていた。
カズワンはこの日が今季初の運航日。運航する「知床遊覧船」の桂田精一社長(58)によると、午前8時ごろ豊田徳幸船長(54)と出航を決めた。
観光船「KAZU I(カズワン)」=知床遊覧船のウェブサイトから
出港予定時刻の午前10時を前に、カズワンが停泊する岸壁に人が集まり始める。船体を背に、動画撮影する楽しげな乗客の姿もあった。「人がかなり多いな」。漁港近くの食堂で働く女性(71)は目を細め、波を切って漁港をあとにするカズワンを見送った。
国土交通省北海道開発局の海象情報などによると、出港時の付近の波の高さは0・3メートル前後だった。漁港を出たカズワンは北東に針路をとる。40キロ先の知床岬で折り返し、3時間で戻る航行ルートだ。観光名所「カムイワッカの滝」やヒグマが見られる確率が高い「ルシャ湾」も通る。
出港から10分。カズワンは漁港の北東3キロほどの湾を通過した。斜里町のネーチャーガイド、綾野雄次さん(61)が高台で双眼鏡をのぞくと、オレンジのライフジャケットをつけて後部デッキに座る3人が見えた。「時期的に少し早い営業だ」と感じていた。
昼になると、漁船が次々とウトロ漁港に滑り込んできた。天気予報は周辺海域が午後から「荒れる」と伝えていた。漁師の佐藤隆さん(48)も帰港を急ぎ、午後0時40分に「カシュニの滝」を通り過ぎる。海上は白波が立っていた。午後1時。気象庁によると、風速16・4メートル、波の高さ3メートルに達していた。
カズワンは帰港予定時刻の午後1時を過ぎてもいっこうに戻ってこなかった。「(カズワンは)大丈夫ですか」。近くに事務所がある同業者の男性従業員が知床遊覧船の事務所を訪れたが、動向を把握していなかった。急いで自社の事務所に戻り、無線をつけた。
「『カシュニの滝』辺りにいるが、戻るのが遅れる」――。カズワンはすぐに応答した。落ち着いた様子だったが、海が荒れていることは明白だった。「救命胴衣を着させろ」。しばらくして、無線越しに怒気を含んだ乗員の声が聞こえた。男性従業員が状況を尋ねると「浸水している」「船が傾いている」とまくし立てる。男性は午後1時13分に救助を要請する118番通報をした。
同じころ、知床遊覧船の桂田社長にも事務所のスタッフから連絡が入る。桂田社長は地元の漁業関係者らに救助を要請。だが、強い風と高い波に阻まれ、救助チームは出動を断念し、海保に通報して状況を伝えた。
「エンジンが止まっている。自力航行できない。動けない」。午後1時18分。カズワンの乗員が118番通報で伝えたのは「最悪の事態」を予期させるものだった。そして、「船が30度ほど傾いている」という連絡を知床遊覧船に入れ、カズワンは消息を絶った。
救助にあたる第1管区海上保安本部のヘリコプターが最初に現場に到着したのは、それから約3時間後の午後4時半だった。別の任務中で、いったん基地に戻ってから現場に向かったためだった。【最上和喜、山田豊、北村秀徳、谷口拓未】
◆事故が発生した23日の動き
午前10時 カズワンがウトロ漁港を出発
午前10時10分 カズワンが漁港の北東3キロを航行
午後1時 現場海域で風速16・4メートル、波の高さ3メートル
午後1時過ぎ カズワンの無線から「救命胴衣を着させろ」の音声
午後1時13分 カズワンと無線で交信した同業者が118番
午後1時18分 カズワンが「エンジンが止まっている」と118番
午後4時半 第1管区海上保安本部のヘリが最初に現場に到着
※海上保安庁や地元住民、関係者などへの取材を基に作成
元稿:毎日新聞社 主要ニュース 社会 【事件・事故・裁判・北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が行方不明になった事故】 2022年04月29日 21:21:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。