【社説①】:対中ODA終了 直言忘れず共存の道を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:対中ODA終了 直言忘れず共存の道を
四十年以上も中国の発展を支えてきた日本の政府開発援助(ODA)事業が二〇二一年度末の三月で終了した。対中援助の時代は名実共に終わったが、近年目立つのは中国の覇権主義的なふるまいである。日本は価値観の違いを踏まえたうえで、対話を深化させ、直言すべきことは直言できる共存の道を探ってほしい。
日本の対中ODAは一九七九年に始まった。中国が七八年に改革開放政策に踏み切ったことを踏まえ、大平正芳首相が訪中し「より豊かな中国の出現がよりよき世界につながる」と述べ、ODA供与を約束した。
日本政府が対中ODAを単なる途上国援助ではなく、重要な隣国の改革開放政策を後押しすることが、アジアひいては世界の安定につながると考えていたことがうかがえる。冷静な長期ビジョンであったといえる。
対中ODAのうち、低い金利でプロジェクト資金を貸す円借款が約三兆三千億円、無償でお金を供与する無償資金協力は約千六百億円。このほか、日本語教師派遣などの技術協力を含め、計約三兆六千億円を支援してきた。
特に、八〇年代の円借款による鉄道、港湾、発電所などの大規模インフラ整備は改革開放政策を支え、中国が世界第二の経済大国となる道筋をつけたといえる。
残念ながら、中国は経済発展を遂げても、日本や欧米諸国が期待したような民主化の道を歩まず、右肩上がりで国防費を増大させてきた。さらに、日本の円借款を投じて完成した北京国際空港など、日本の援助があったことを日本側が働き掛けるまで中国政府が国民に周知しない事業も目についた。
日本が「(途上国支援の)一定の役割を終えた」として二〇〇〇年代半ばにODA新規提供を終了したのは妥当な判断であった。その後継続していた技術協力事業が三月で終わり、対中ODAはその歴史的使命に幕を下ろした。
今後、日中両国は途上国支援などで連携を深める構えだが、一方で南シナ海での実効支配拡大などを進める中国のふるまいを戒めることも忘れてはならない。
そのうえで、国交正常化から半世紀の歴史を積み重ねてきた日中は、感染症対策、環境問題、国際組織犯罪など国境をまたぐ課題に対等なパートナーとして協調して取り組むことが重要である。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月06日 07:41:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。