【政府】:国会議決不要の予備費、異例の大幅増 「財政私物化」野党追及へ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政府】:国会議決不要の予備費、異例の大幅増 「財政私物化」野党追及へ
岸田文雄首相が26日に発表した緊急経済対策には、国会の議決を経ずに政府の判断で使用できる予備費1兆5千億円が支出される。首相は使った予備費を補充する2022年度補正予算案の編成も明言し、事実上の予備費の大幅増額について「いかなる事態が生じても対応できるよう確保する」と説明した。夏の参院選を控え、財政規律は緩む一方で、野党は「財政民主主義の軽視」と一斉に批判。補正予算案を審議する衆参予算委員会で追及を強める。
「新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ情勢長期化の可能性があり、状況は予断を許さない。国民生活を守り抜くために、予備費は必要だ」。首相は26日の記者会見で、こう強調。「国会の監視が甘くなる」との質問に対しては「使途はコロナや物価対策に限定している」と反論した。
予備費の積み増しを主目的とする補正予算は、16年の熊本地震の際などに限られ、異例の対応だ。首相は当初、野党の攻勢を受ける予算審議を避けるため、参院選後に補正予算を編成する考えだった。しかし物価高に反応し、世論をにらむ公明党が今国会中の補正予算成立を強硬に主張。予備費補充のための小規模補正という折衷案が生まれた。
今回、予備費の名称を変え、使い道をコロナのほか、物価高にも拡大した。新たに財源が必要な対策はほとんど予備費からの支出となり、国会審議が必要な補正予算は予備費の穴埋めと燃油価格抑制策のみ。政府・与党は衆参の予算委を数日間に収めたい考えだが、野党は十分な審議時間を求めており、使途拡大を含め「財政の私物化で暴挙だ」(共産党の志位和夫委員長)と反発を強めている。
首相会見後、立憲民主党の泉健太代表は記者団に「何でも予備費でいいのか。予算委で追及したい」と述べた。(竹中達哉、田島工幸)
■従来の対策中心 目的や効果疑問視
政府は今回の緊急経済対策を、ロシアのウクライナ侵攻で加速する物価高対応策に位置付ける。ただ、内容は低所得世帯への給付金や中小企業向け融資の延長など、従来の新型コロナウイルス対策が中心。市場関係者は「ウクライナ危機を理由に実施する必然性が乏しい」「景気対策にならない」と目的や効果を疑問視する。
対策の柱の一つが低所得世帯の子どもに1人5万円を支給する政策だ。原材料高騰などの影響を受ける中小企業に対しては、実質無利子・無担保融資の延長などを打ち出した。だが、子ども向け給付金はかねて、コロナ対策か子育て支援策か、狙いが曖昧だと指摘されてきた。コロナ禍で延長を繰り返してきた融資は、利用しても収益を改善できず、返済に不安を抱く中小企業も多い。
市場では消費者物価が近く2%に上昇するとの見方が強い。政府は燃料価格を抑える石油元売り各社への補助金制度で「物価上昇を0・5%程度抑制する」(内閣府)との試算を示すが、効き目は一時的で緊急対策全体の効果も見えない。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は「物価上昇そのものを止めるのではなく、物価上昇を我慢するために支援する受け身の内容になっている」と強調。物価高騰に肝心の賃上げが追いついていないため「中小企業への賃上げ支援に減税を組み合わせるなど抜本的な改善策が必要だ」と訴える。(木村直人、山田崇史)
■ガソリン補助金拡充 妥当性問う声
ガソリンなど燃油価格を抑える石油元売り各社への補助金制度は、価格の急騰を緩和する時限措置として始まったが、延長を重ねて実質的な値下げ政策になった。制度の妥当性をいぶかしむ声や、ばらまきとの批判も出ている。
拡充に伴い、上限額を1リットル当たり25円から35円に引き上げ、4月末の期限を9月末に再延長する。
価格を維持する目標はレギュラーガソリンの全国平均価格で1リットル当たり172円程度から168円程度に引き下げる。目標額に抑えられない場合は、35円を超える部分の半額をさらに支給する。航空機燃料も対象とする。28日から新制度を始める。
ガソリンや灯油など4種を対象にした補助は1月下旬に上限5円で開始。3月に25円に引き上げ、期限も4月末に延長していた。
補助金の支給でガソリン価格は170円台前半で推移。経済産業省は、補助金がなければ200円前後になると試算しており、消費者の負担軽減にはつながっている。
ただ、足元ではエネルギーや食料品など幅広い品目が値上がりしており、一部の品目に補助金を支給する妥当性を問う声は多い。
総務省の家計調査によると2021年の家計の支出に占める電気・ガス代の割合は5・4%と、ガソリン・灯油代(2・2%)の2・5倍。野村総合研究所の木内登英氏は「景気浮揚効果は小さく、公平性の観点でも問題」と指摘する。
制度の拡充には1兆5千億円の国費を投じる。小峰隆夫・大正大教授(経済政策)は「行楽で車を使う人も生活に車が必要な人も、同じように助けることになる典型的なばらまきだ」と批判する。(土屋航)
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政策・岸田文雄首相が26日に発表した緊急経済対策】 2022年04月27日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。