【社説①】:きょう憲法記念日 平和の理念今こそ大切に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:きょう憲法記念日 平和の理念今こそ大切に
日本国憲法が施行されてきょうで75年を迎えた。
その節目の年に、ロシアがウクライナに侵攻した。平和を維持するための既存の国際秩序が崩壊の危機に直面している。
憲法は前文で「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」とうたう。
専制的なプーチン政権がウクライナを従わせようとする侵略行為は、日本の憲法の趣旨とは全く相いれない。
第2次世界大戦で日本は2度にわたる原爆投下などで激しい惨禍にさいなまれた。その教訓を踏まえ掲げたのが平和憲法である。
国家権力が戦争を起こすことを許さない。他国と信頼関係を築くことで国民の安全を保持する。こうした決意を胸に、今こそ日本は平和の理念を伝え広げるべきだ。
私たちは2年超に及ぶ新型コロナ禍や、気候変動に伴う災害など地球規模の課題を抱えている。
安心できる日常は自国のことだけを考えていては成り立つまい。求められるのは国際協調である。
国境を越えてだれもが平和のうちに生きる権利を保障する憲法の意義を大切にしたい。
■紛争解決導く外交を
現行憲法の策定作業を内閣法制局参事官として支えた佐藤功は、東西冷戦下の1955年、次代を担う子どもたちに向け、解説書「憲法と君たち」を著した。
その中で、憲法の最大の意義について、どんな紛争も絶対に戦争によって解決してはならないということを世界に率先して示したことであると説いた。
人類が繰り返してきた戦争は、力に力で対抗することで戦禍を拡大させ、日本も大戦で、一般市民を含めて多大な犠牲を出した。
戦争放棄や戦力不保持を規定した憲法9条は、日本の再軍備を禁ずる米側の意図と同時に、侵略戦争の反省の上に立ち制定された。
そうした憲法の趣旨を踏まえ、日本は安全保障の原則に専守防衛を据え、国際平和の構築へ、国連中心の外交に力を入れてきた。
しかしその国連はいま、安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国ロシアの蛮行に対し、実効性のある措置を講じられていない。
対ロ制裁やウクライナへの軍事支援を強める西側諸国と、中国などロシア寄りの国々との分断は深まるばかりだ。このままでは第2次大戦前の歩みに戻りかねない。
日本が努めるべきは武力による対決ではない。平和外交に徹し、紛争解決へと関係国を粘り強く導いていくことだろう。
■危機への便乗は禁物
見過ごせないのは、この危機に乗じ、岸田文雄政権が改憲論議を加速させようとしていることだ。
自民党などは衆院憲法審査会で、憲法に緊急事態条項を新設し、緊急時に国会議員の任期を延長することなどを求めている。
この条項の主眼は大規模災害や武力攻撃を受けた際などに、政府の権限をより強化することだ。
緊急時に衆院議員の任期切れとなっても、憲法54条に定めた参院の緊急集会で対応できるとの見解を示す専門家もいる。
ロシアの脅威やコロナ禍への不安をあおる形で、拙速に改憲論議を進めてはならない。
歴代政権は憲法上、集団的自衛権行使は許されないとしてきた。
だが安倍晋三政権が行使を認めた安保関連法を成立させて以降、憲法軽視の動きが強まっている。
自民党は先週、以前は保有を否定していた敵基地攻撃能力について、反撃能力に名称を変えて保有するよう政府に求めた。
専守防衛に反する疑いが強い。国会でただしていく必要がある。
■国民の命が最優先だ
新型コロナウイルスの猛威はなお続き、国民の命と暮らしが脅かされ続けている。
先の第6波でも、感染力が極めて強いオミクロン株が急速にまん延して医療が追いつかず、自宅で亡くなる人が相次いだ。
憲法13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」について、最大の尊重を国に求める。
ところが政府の対応は、保健所など既存の体制でやれる範囲の対策に終始していなかったか。
憲法が保障する国民の権利を最優先する姿勢でコロナ対策を検証、改善していくことを求めたい。
25条では、すべての国民の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」をうたう。
富める者と富まざる者との格差が拡大する中、コロナ禍が弱い立場の人をさらに追い込んでいる。
新しい資本主義を唱えて誕生した岸田政権は、いまだ具体的な所得の再分配政策を示さない。
改憲論議より、現憲法下でやらねばならぬことを直視すべきだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年05月03日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。