【社説①・12.06】:死刑制度 存廃議論 今こそ深めたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.06】:死刑制度 存廃議論 今こそ深めたい
「日本の死刑制度について考える懇話会」が、死刑制度について「放置の許されない数多くの問題を伴っており、現状のまま存続させてはならない」とする報告書を国会に提出した。
懇話会は死刑制度の廃止を訴える日本弁護士連合会の呼びかけで設置された。死刑存置派、廃止派を問わず幅広い参加を得て、共通の土俵で議論を交わす狙いがあった。学者や国会議員、警察庁長官や検事総長の経験者ら16人で構成される。
報告書は、国会や内閣の下に死刑制度に関する検討を行う「公的な会議体」を早急に設置することも提言している。
重大・凶悪事件の犯人に厳罰を求める被害者や遺族の感情は理解できる。だが死刑は人の命を奪う究極の刑罰だ。刑事司法も人が行う以上、冤罪(えんざい)や誤判の恐れはつきまとう。誤って執行されれば取り返しがつかない。
58年前の事件で死刑囚とされ、先に再審無罪が確定した袴田巌さんのケースは、改めてその危険性を示している。
今こそ死刑制度の存廃を巡る議論を本格的に始める時だろう。死刑制度はさまざまな問題点が指摘される。政府と国会はこの機に、存廃について国民的な議論を広く喚起すべきだ。
■執行停止も検討課題
報告書は会議体で検討すべき課題を論点ごとに列挙した。
凶悪犯罪に遭った被害者や遺族の処罰感情について、「それを理解せず死刑を論じても、国民各層に納得してもらえる議論にはならない」とした。
その上で、これまでの死刑を巡る議論がともすれば犯人側に立つか被害者側に立つのかの問題として論じられがちだったことから、「二項対立の状況からの脱却」を求めた。
死刑存置論の根底には「他人の生命を奪った以上、自らの命を奪われても仕方ない」との応報思想があると言われる。
報告書は、その考え方は現代では支持されていないとして「刑罰は犯罪予防と社会秩序の維持に役立つことによって正当化される」と強調する。
死刑がなければ凶悪犯罪が増えると考える国民も多いとされる。代替刑として、仮釈放の可能性のない終身刑やその要件が厳しい重無期刑の導入の是非も検討課題だと言及した。
新たな視点を取り入れ、幅広く目配りした報告書と言える。
報告書も主張しているように、結論が出るまでの間、政府と国会は、議論を行う前提として死刑執行を停止することを真剣に考えるべきだろう。
■誤判の恐れが拭えぬ
1980年代に再審無罪となった免田、財田川、松山、島田の各事件も死刑執行の恐れはあった。死刑執行後に有罪かどうかが争われている事件もある。
取り調べの全面可視化や弁護士の立ち会いは実現していない。容疑者や被告は、捜査当局に対して圧倒的に弱い立場に置かれたままだ。
開始のハードルが高い再審は証拠開示の仕組みがないなど不備が指摘されているが、政府は見直しに動こうとしない。
死刑の判断に関しては犯行動機などを総合考慮し、やむを得ない場合に死刑の選択が許されるとする「永山基準」がある。
しかし裁判員裁判での死刑判決が控訴審で破棄、減刑されるなど判断が揺れることもある。
死刑は、生命を絶つ点で他の刑罰と決定的に異なる。
誤判は絶対にあってはならない。だがその恐れが拭えないのが現実だ。そうした中で、重大な選択が裁判官らの全員一致ではなく、多数決に委ねられてよいのかという指摘もある。多角的な検証が求められよう。
■情報公開が不可欠だ
林芳正官房長官は「死刑制度の廃止は適当ではない」と述べた。背景には、内閣府の5年ごとの世論調査で死刑容認が毎回80%を超えていることがある。
しかし調査の選択肢が「どんな場合でも死刑は廃止すべきだ」「場合によっては死刑もやむを得ない」と非対称になっており、「やむを得ない」を選びやすいとの批判は根強い。
日本の死刑は絞首で行われる。その実態がほとんど明らかではない中で国民に是非の判断を聞くのは無理な話だろう。政府は情報公開を進めるべきだ。
その上で、憲法が「絶対に禁ずる」とする「残虐な刑罰」に死刑が当たらないのかを改めて検証する必要もある。
最高裁は残虐刑には当たらないと判示するが、残虐の考え方は時代で変わり得るだろう。
世界は死刑廃止の潮流にある。7割超の国が法律上または事実上死刑を廃止し、経済協力開発機構(OECD)加盟国で残すのは米国、韓国、日本だけだ。韓国は執行停止状態で米国は過半の州が廃止か停止した。
国連総会は日本や中国、北朝鮮などの存置国に執行停止を求める決議を再三採択している。
基本的人権の尊重をうたう憲法を持つ民主主義国としての姿勢が国際的に問われている。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月06日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。