【社説・12.28】:政府予算案/国会のチェックが重みを増す
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.28】:政府予算案/国会のチェックが重みを増す
政府はきのう、2025年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は115兆5415億円と、当初予算ベースで過去最高だった23年度を上回った。税収は78兆4400億円と過去最高を更新するが、歳出を賄いきれず新たに国債(借金)を28兆6490億円発行する。国債頼みの予算膨張はもはや常態化している。
これまでの予算審議は、衆院で過半数を占める政権与党が政府案を原案のまま成立させるのが通例だった。しかし10月の衆院選で自民、公明両党が大敗して30年ぶりの少数与党政権となり、野党の賛同なしには予算案の成立は不可能となった。
計上された施策は現状を踏まえた内容か。根拠や効果は示されているか。国会のチェックは重みを増す。野党は厳しく見極め、政府、与党もその指摘に耳を傾ける熟議の国会を実現させなければならない。
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予算案では08年度以来17年ぶりに新規国債発行額が30兆円を下回る。税収が8・8兆円増えたためだ。
しかしその主因は物価高による消費税収の増加や、24年度の定額減税が終わった反動であり、財政健全化が奏功したとは言い難い。
歳出は24年度を2・9兆円上回るが、うち2・5兆円は国債利払い費と地方交付税交付金の増加分が占める。社会保障関係費も、物価高に伴う生活保護費の引き上げなどで38・2兆円と5千億円増える。
金利は上昇基調にあり、これまで発行した巨額の国債の利払い費も増加が見込まれる。政策に充てられる経費が少なくなり、今後は予算編成の自由度もさらに小さくなる。
◆「石破色」はにじむが
社会保障費以外の政策支出の増加は9千億円で、大半となる7498億円を防衛費が占める。
23年度からの5年間で43兆円を確保するとの前岸田政権の方針に沿い今回は8・7兆円を計上。敵基地攻撃能力に活用する長射程ミサイル開発や自衛官の処遇改善に充てる。
使う方は計画通りに進んでいる一方で、財源は26年度からの法人税とたばこ税の増税が決まったが、所得税は先送りになった。防衛力強化を掲げるならば、財源の確保にも力を注がねばならない。
焦点となった教員の待遇見直しは残業代に当たる「教職調整額」を現在の基本給4%分から段階的に引き上げ、30年度に10%とする。事務作業の見直しや部活動の地域移行など働き方改革の効果も、中間段階で検証する。
待遇の見直しは約50年ぶりだ。手当の引き上げも重要だが、教員が児童生徒にしっかり向き合える環境づくりを急ぎたい。
限られた財源の中で、「防災」や「地方創生」を重視する石破政権のカラーもにじむ。地方創生の交付金は2千億円と24年度当初予算から倍増したほか、内閣府防災担当の予算や人員も倍増した。
政府が地方創生に本格的に取り組んで今年で10年になるが、地方の衰退に歯止めがかからない。投じた予算が効果的に使われていないとの指摘もある。現場の発想に自治体が耳を傾け、実現に向け国とともに支援する枠組みを整えねばならない。
◆野党も責任を果たせ
少数与党下での予算審議の形を示したのは衆院選後の臨時国会だ。
24年度補正予算案に対して、野党の立憲民主党は歳出全体を削減する一方で能登半島地震の復旧関連予算は積み増す修正案を提出し、与党は一部を受け入れた。税制改正の議論で国民民主党が掲げた「年収103万円の壁」引き上げに与党が応じたのも、補正予算の賛成に取り込む狙いが透けて見えた。
与党は日本維新の会とも、維新が掲げる高校授業料無償化について実務者協議を重ね、来年2月中旬をめどに一定の結論を得る方針で一致している。これも、通常国会で25年度予算案が衆院採決されるタイミングをにらんだ動きと言える。
野党の主張を与党が受け入れ、共同で政策を練り上げること自体は評価できる。
ただ懸念されるのは来年夏の参院選もにらみ、政策が政局に利用される展開だ。必要な財源をどこに求めるかなどの議論を十分に煮詰めないまま与野党が政策合意を次々と重ねれば、ばらまきを繰り返すことになりかねない。
財政の逼迫(ひっぱく)度が増す中、次世代の負担をできる限り減らしながら環境の変化に応じた施策を練り上げる。その責任を果たすのは政府、与党だけではないことを、野党は直視する必要がある。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月28日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。