【社説①・12.29】:京都府のアリーナ 地域との丁寧な対話深めて
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.29】:京都府のアリーナ 地域との丁寧な対話深めて
屋内スポーツの試合やコンサートなどの会場として、京都府が向日市の京都向日町競輪場に建設する「京都アリーナ(仮称)」の概要が先月、明らかになった。
老朽化に伴う競輪場の再整備で、生じる敷地の余剰スペースを使う。地上5階の規模で、府内の屋内スポーツ施設としては最大の観客席数となる約9千席を設ける。総事業費は約348億円を見込み、2028年10月の開業を目指すという。
府内のスポーツ団体や向日市の商工業関係者からは歓迎の声が聞かれる。本拠地にする予定のバスケットボールBリーグ京都ハンナリーズが、26年に始まる国内プロバスケの最上位カテゴリー「Bプレミア」参入を認められる後押しともなった。スポーツを核とした新たなまちづくりへの期待もあるようだ。
ただ、一帯は公共施設や住宅が立ち並び、通学路でもある。地域住民からは来場者による渋滞をはじめ、生活環境の悪化を懸念する声が根強い。
府は、コスト削減を目的に商社大手の伊藤忠商事を代表とするグループに建設と開業後の運営を委ねる方針だが、事業者とともに地域の思いを丁寧にくみ取り、不安の解消を図る姿勢が欠かせない。
スポーツ庁の調査(21年度)によると、一定の規模を超える体育館や野球場などの施設数を都道府県別に比べた場合、京都は下位にある。府内で観客席が5千席より多い体育館は島津アリーナ京都(京都市北区)のみで、国際大会の誘致が難しいとの課題も指摘されて久しい。
新たなアリーナ整備に向けて府が当初計画した京都市の北山エリアでは、府立大体育館を建て替えて1万席規模の施設を構想したものの、周辺住民らの強い反対で断念した。
向日市が誘致に動いたことで方向転換できたとはいえ、府の手順がちぐはぐだった面は否めない。
折しも国民スポーツ大会(旧国体)の見直し論が浮上し、大規模イベントを契機に自治体が施設を更新する方式は、財政面からも困難になっている。スポーツ施設の整備に対する府の計画性がいっそう問われよう。
近年は国がスポーツの「成長産業化」を進め、競技を「する」だけでなく「見る」視点で集客力を重視する。商業施設を併設するなど建物の多機能化、複合化が各地で進んでいる。
Bリーグのチームが本拠地とするアリーナでは顕著で、23年開設の佐賀市のほか、長崎市や千葉県船橋市でも今年完成し、神戸市では国際会議などにも対応できる施設が来春開業する。
安定的な運営に採算は重要だが、経済や娯楽のために地域がしわ寄せを受けるだけでは本末転倒になる。行政や関係団体、企業が活性化の方向性について住民と対話を深め、調和のとれたまちづくりを探ってほしい。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月29日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。