【社説①・12.25】:札幌の敬老パス 納得得られる新制度を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.25】:札幌の敬老パス 納得得られる新制度を
札幌市が2026年度の移行を目指す敬老優待乗車証(敬老パス)の新制度案を巡り、市と高齢者の溝が埋まらない。
先月には秋元克広市長と市民との対話集会が開かれ、約170人が参加した。市長は「今、一定の見直しをしなければ、制度を持続できない」と訴えたが、高齢者からは現行制度維持を求める声が大半だった。
理解が得られたと言える状況にはない。丁寧な説明と対話を重ね、多くの市民が納得できる制度を作らねばならない。
当初案では、歩くなど健康増進活動にポイントを与えるスマホの健康アプリに全面移行するとしたが、反発を受けて、敬老パスとの選択制とした。
パスの場合、70歳以上の交付対象を75歳以上とする。7万円の利用上限額を4万円に下げ、うち自己負担割合を上げる。
札幌市は高齢者関係予算が年々増加する中、制度の見直しは不可避だと説明する。制度を支える20歳以上の市民1人あたりの負担額を現行水準の年間2千円台に抑えるためにも、利用者に負担増を求めるとしている。
ただ利用上限額が下がり、高齢者の外出が減れば健康維持にはマイナスだ。医療や介護の費用増加につながりかねない。
敬老パスを利用して移動し、参加するボランティアの担い手が減る懸念もある。市は高齢者の施策全般への影響を見極めた上で、制度設計するべきだ。
市は若者の意見も聞きたいとして、大学に出向くなどしている。対話集会では制度見直しに反対の意見が相次ぐ中で、「高齢者福祉を負担している現役世代の声も聞いてほしい」と訴えた若者も見られた。
税金の使途や世代間の負担のあり方を考えてもらうことは重要だ。ただこの問題に限って、現役世代の負担を殊更強調するようなやり方では、若者と高齢者の分断をあおりかねない。
市は来年度予算案にアプリ運用の準備費などを計上する方針だが、移行ありきなら問題だ。そもそも外出支援策である敬老パスと、健康寿命を延ばす目的のアプリは全く別の施策だ。選択制には違和感を覚える。
敬老パス制度が始まった1975年、70歳以上は人口の3%だったが、今では2割を超えた。一方、公共交通機関の運賃値上げやバス減便、運転免許証の返納推奨など、高齢者の移動を巡る環境は変化している。
誰もが移動しやすいまちづくりは重要である。高齢者料金を設けるなど、世代間扶助の福祉とは別に、交通政策の観点からも制度のあり方を考えたい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月25日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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