《社説①・12.24》:日銀の異次元緩和検証 これでは教訓にならない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.24》:日銀の異次元緩和検証 これでは教訓にならない
日銀にとって都合の悪い問題を直視しない政策検証に意味があるのか。疑問を禁じ得ない。
過去25年間の金融政策を検証した「多角的レビュー」が公表された。植田和男総裁が策定を指示したものだ。最大の焦点は、黒田東彦前総裁の下、10年間にわたった異次元緩和策の評価である。
脱デフレを掲げた黒田氏は2013年4月、「2年程度で物価目標2%を達成する」と宣言し、市場から国債を大量に買い入れる政策を導入した。ところが、物価は思うように上がらず、16年には短期金利をマイナスにし、長期金利を0%程度に抑え込む異例の政策にも踏み切った。
それでも、消費者物価の押し上げ効果は年平均0・5~1・1%程度にとどまった。当初は輸出に不利な円高の是正につながったものの、賃金上昇や消費の活性化には結びつかなかった。
レビューも経済・物価に対して「想定していたほどの効果は発揮しなかった」と認めている。
一方で、負の側面の分析は踏み込み不足というほかない。
国債発行残高に占める日銀の保有割合は50%超に膨らんだ。レビューは、民間金融機関による取引が激減したことなどを挙げて、市場の機能に「マイナスの影響を及ぼした」と分析した。だが、問題はこれにとどまらない。
日銀が金利ゼロで国債を買い続けた結果、政府は借金しやすくなった。黒田日銀と二人三脚で異次元緩和を進めた安倍晋三政権以降、財政規律が緩み、国の予算は肥大化した。幅広い株式に投資する上場投資信託(ETF)の購入にも手を広げ、株価をゆがめた。
近年は過度な円安を招いている。22年以降、世界的な資源高を受け、米欧は金融引き締めに転換したが、日銀は異次元緩和を解除した今春まで「金利のない世界」を続けた。その結果、輸入物価が高騰し、暮らしを圧迫している。
にもかかわらず、レビューは「全体として、経済にプラスの影響をもたらした」と、異次元緩和を肯定的に評価した。自己検証の限界が露呈した形だ。
アベノミクスの最大の柱が異次元緩和だった。功罪の検証を日銀任せにせず、政府として教訓をくみ取る努力が求められる。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月24日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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