【社説②】:ベネズエラ危機 事態打開へ大統領選を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ベネズエラ危機 事態打開へ大統領選を
本格的な流血が起きかねない事態である。マドゥロ政権と野党の対立が先鋭化した南米のベネズエラ。人道危機も深刻だ。事態収拾の第一歩として公正な大統領選を早く行う必要がある。
国家破綻の瀬戸際だ。国際通貨基金(IMF)はベネズエラのインフレ率が年内に1000万%に達すると予測する。一円の品物が約十万円になる計算だ。モノ不足や治安悪化も高じて人口の一割に当たる三百万人以上が国外に脱出したという。
現地からの報道では、家庭で満足な食事を与えられない子どもの中には、進んでストリート・ギャングの中に身を投じる子もいる。残飯が拾えるごみ捨て場のある縄張りの警戒が彼らの仕事だ。
医薬品やワクチンが不足して保健衛生状態が極度に悪化し、栄養失調もまん延。二〇一〇年に過去最低を記録した五歳未満の乳幼児の死亡率は急上昇している。
石油資源に恵まれ南米では有数の富裕国だったのが、この惨状だ。それでも政府は「人道危機は存在しない」と言い張る。
中南米の反米左派の旗手として、チャベス前大統領が進めた社会主義化を支えたのは原油高騰である。油価下落のあおりを前に、マドゥロ政権は経済のかじ取りを誤った。
ハイパーインフレが意味するのは通貨の信頼喪失であり、ひいては政府は信用を失ったということである。失政の責任は重い。
独裁色を強めるマドゥロ大統領が再選を果たした昨年の選挙では、野党候補は排除された。政権の正統性は認めがたい。
野党指導者のグアイド国会議長が「暫定大統領」を名乗り、新しい選挙の実施を要求している。二人の「大統領」が並び立つ異常事態の中で、動向が注目されるのが軍だ。今のところ政権側についているが、市民に銃口を向けてはならない。
国際社会も割れている。欧米や日本を中心にグアイド氏支持に回れば、ベネズエラに多額の融資をしている中国やロシア、それに反米左派の中南米国などはマドゥロ氏側につき、米国と中ロの代理戦争の構図にもなっている。
ベネズエラの将来は国民が決めるべきものだ。外部の干渉は厳に慎まねばならない。軍事介入をにおわせるトランプ米大統領の恫喝(どうかつ)など論外である。
事態収拾に向け政権と野党が話し合いのテーブルに着くよう国際社会は仲介を果たしてほしい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年02月22日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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