【社説・07.15】:防衛省大量処分/組織のうみを出し尽くせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・07.15】:防衛省大量処分/組織のうみを出し尽くせ
防衛省は、安全保障に関わる「特定秘密」のずさんな運用や手当の不正受給、パワハラなど相次ぐ不祥事を受け、過去最大規模となる218人を処分した。岸田政権は防衛力強化を進めるが、その実行を担う組織の倫理観の欠如と緩みは深刻だ。問題点を徹底的に洗い出し、解体的な出直しを図らねばならない。
特定秘密は2014年施行の特定秘密保護法に基づき、防衛、外交、スパイ防止、テロの4分野で秘匿性の高い情報を政府が指定し、身辺調査による「適性評価」を受けて認められた者だけが扱える。
防衛省によると、陸海空3自衛隊と統合幕僚監部、情報本部で無資格の隊員による取り扱いや手続きミスがあった。海自が41件と突出し、多数の艦艇で不正が常態化していた。
先の国会で、特定秘密を経済安全保障分野に広げ、民間人も適性評価の対象とする法律が成立した。民間に厳しい規律を求めながら足元の不正は放置していたとあっては、国民の信頼失墜は避けられない。
海自ではほかにも、架空の訓練による潜水手当の不正受給や、食堂で代金を払わない不正飲食が横行していた。多くの隊員が黙認していたという。組織統制の機能不全は明らかで、酒井良海上幕僚長の引責辞任は当然である。
海自を巡っては、潜水艦の修理契約に絡む受注企業との癒着疑惑まで浮上している。川崎重工業(神戸市中央区)が下請け企業との架空取引で捻出した裏金で乗員に金品などを提供していたことが判明し、木原稔防衛相は特別防衛監察を指示した。
潜水艦の製造は専門的な知識と経験を要し、川重を含む2社の寡占状態にある。防衛省は川重への過払いはないとしているが便宜供与の経費が契約金額に上乗せされていた可能性はないか、全容解明が急がれる。
岸田政権は23年度から5年間で防衛費を約43兆円に増額し、財源を増税で賄う方針だ。特定企業との癒着の構造を断ち、膨張する防衛費の積算根拠を明確にしなければ、防衛増税への理解は得られない。
7月で発足70年を迎えた自衛隊は戦力不保持を掲げた平和憲法との整合性が問われ続けた。専守防衛に徹し、災害派遣などの実績を重ねることで国内外の信頼を得てきた。
しかし近年は「安保環境の悪化」を理由に、専守防衛を形骸化する政策転換が進む。肥大化する予算と拡大する任務に、人員の確保と育成が追いついていないとも指摘される。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年07月15日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます