【小社会・12.18】:例外の弱さ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【小社会・12.18】:例外の弱さ
10年近く前、東京・銀座のバー「ルパン」を訪ねたことがある。文豪、太宰治のファンにとっては「聖地」。ネクタイを緩め、カウンターのいすにあぐらをかいて談笑する写真が知られる。
その太宰にしては意外な「酒ぎらい」という随筆がある。といっても、毛嫌いするのは家に置く酒。本当は一滴も置きたくないと書く。机に向かって仕事をしていても「潔白の精進が、できないような不安な」視線を酒に向ける。
とはいえ、知人の来訪時は例外らしい。「私は、弱い男であるから、酒も呑(の)まずに、まじめに対談していると、三十分くらいで、もう、へとへとになって…」。結局、随筆の中でも家の酒をかなり飲んでいる。思えば禁酒や禁煙の誓いも「例外」を作ってしまうと、言い訳の温床になるのはよくある話だ。
政治改革法案が衆院を通過した。使い道を明らかにしなくてもいい政策活動費は全面廃止。一部の非公開を温存しようと自民党が求めた「公開方法工夫支出」は、「抜け穴」と反対された。つまり、「例外」は信用されなかった。
先日の世論調査も、全面公開を求める声は66%に上った。自民党の裏金事件が表面化して1年。なぜ、政治はそんなにカネがかかるのか。透明性を求める世論に、自民党はより真摯(しんし)に向き合うべきだろう。
企業・団体献金の扱いは来年に持ち越すという。ここもきっちりした線引きを。人間、「例外」を作ると弱いものだ。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【小社会】 2024年12月18日 05:00:00 これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。
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