【社説②】:不同意性交罪 「魂の殺人」を許さない社会に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:不同意性交罪 「魂の殺人」を許さない社会に
同意のない性交を強いられた被害者は、心に深い傷を負う。性暴力は許されないという意識を、社会に浸透させる契機としなければならない。
性犯罪の規定を大幅に見直す改正刑法が施行された。「強制性交罪」の名称を「不同意性交罪」に変更した。刑事罰を科すための根拠となる要件も明確になった。
これまでは、被害者の抵抗が著しく困難な暴行・脅迫があった場合に罪が成立していた。だが、暴行や脅迫がなくても、被害者が恐怖で動けなかったり、加害者との関係性から抵抗できなかったりするケースが少なくなかった。
罪の成立要件が曖昧だとの批判を受け、改正法では、アルコールや薬物、社会的地位、虐待などの影響から、被害者が不同意の意思を表明できない場合でも罪に問えるとした。公訴時効も10年から15年に延長された。
性暴力は、被害者の心身に甚大な影響を与えることから「魂の殺人」と言われる。卑劣な犯罪の防止に結びつけることが重要だ。
法改正の背景には、2019年に相次いだ性暴力の無罪判決があった。娘に長年、性的虐待を加えていた父親も無罪とされ、性暴力に抗議する「フラワーデモ」が各地に広がった。
言うまでもなく、同意のない性交渉は許されない。日本では、意思確認が不十分なまま関係を持とうとするケースも多く、トラブルの温床になってきた。相手の人格を尊重し、丁寧にコミュニケーションを図ることが大切だ。
一方、新たな成立要件がすべての事件に当てはまるとは限らない。加害者と被害者の関係性を、第三者が判断しづらいケースも想定される。捜査の現場や裁判では、経緯や状況を慎重に見極めることが不可欠になるだろう。
わいせつ目的で子供を手なずける「性的グルーミング」を処罰する罪も新設された。わいせつ目的で16歳未満の子を脅したり、うそをついたりして面会を求めれば、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金が科されることになった。
子供が性被害に遭う相手は、SNSを通じて知り合った面識のない人という場合も多い。悩みの相談に乗るふりをして、接近してくることもある。被害者と面会する前の段階で摘発できるようになれば、犯罪抑止の効果は大きい。
夏休みの時期になる。子供に普段と違う行動がないか、家庭でしっかり目配りしたい。被害の兆候があった場合には、ためらわず警察に相談してほしい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年07月19日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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