【社説②】:農政の基本方針 食の安全保障は厳しさを増す
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:農政の基本方針 食の安全保障は厳しさを増す
食料を輸入に頼る日本にとって、食料の安全保障は極めて重要な課題である。時代の変化に即して基本政策を見直し、食料の安定的な確保につなげていく必要がある。
農林水産省は農政の基本方針となる「食料・農業・農村基本法」の改正に向け、有識者会議の中間とりまとめを公表した。平時から食料安保の体制を整備すると掲げたのが特徴だ。来年の通常国会に改正法案を提出するという。
1999年制定の現行法は、日本の経済力で必要な食料はいくらでも輸入できると考えてか、食料安保の問題意識が乏しかった。
だが、近年は気候変動に伴う干ばつで不作が頻発するようになった。日本の購買力も低下した。そこに、コロナ禍とロシアのウクライナ侵略が追い打ちをかけた。
食料の調達を巡る情勢は転換期にあると言える。平時から食料安保を重視するのは当然だろう。
現行法は、農政の中心に「食料」自給率の向上を掲げてきた。
しかし日本は、食料だけでなく、農業に欠かせない肥料の原料である尿素やリン酸などの大半を輸入で賄っている。ウクライナ危機で肥料が不足し、食料自給率には影響がないものの、一部の農業生産に支障が出る事態となった。
法改正後は、肥料にも目標を設ける方向だ。下水を処理した汚泥には、肥料の原料が含まれているという。それを活用し、国産化を広げることが有効となろう。
また、肥料の多くは、中国など特定の国への依存度が高い。調達先の多様化も図ってほしい。
中間とりまとめは、農業の担い手確保の重要性も強調した。農家は高齢化しており、現在の年齢構成から推計すると、農業を主な仕事とする人は2022年の約120万人から、20年後に30万人程度まで減る可能性があるという。
ITやロボットの活用で省力化を進めることが不可欠だ。国や研究機関、IT企業などが一体となり、技術革新を加速させたい。
稼げる農業にして、働き手にとって魅力ある産業とすることも大切だ。そのためには農産物の付加価値を高めるとともに、国が輸出を支援していかねばならない。
中間とりまとめは、紛争や凶作など有事への対処も課題とした。国が農家に穀物の増産を指示したり、売り渡しを求めたりすることを想定し、法整備を検討する。
ただ、私権の制限につながりかねないため、丁寧に論議すべきだ。不利益を受ける人の救済策も含めて協議してもらいたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます