【社説①】:札幌五輪50年 レガシーの検証が大事
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:札幌五輪50年 レガシーの検証が大事
アジア初の冬季五輪が1972年に札幌市で開催されてから来月3日で50年を迎える。
70メートル級ジャンプで、笠谷幸生選手らの「日の丸飛行隊」が金銀銅のメダルを独占した快挙を記憶している人も多いだろう。
冬季スポーツ施設や道路、地下鉄などのインフラ機能が整備され、道都発展の起爆剤になった。
札幌市は2030年冬季五輪・パラリンピックの招致を目指す。
ただ昨年はコロナ禍で東京五輪が強行されたことで世論が分断されるなど、五輪の在り方はいま大きな転機を迎えている。
少子高齢化の時代に、再び巨大なイベントにまちの将来を託す考えが適切なのかどうか。市は前回大会が残したレガシー(遺産)と半世紀の歩みを検証し、市民意見も踏まえ慎重に判断すべきだ。
72年大会はスピードスケートでオランダのアルト・シェンク選手が3冠を達成した。フィギュアスケートでは米国のジャネット・リン選手が「銀盤の妖精」として人気を集めた。
世界の一流選手が競う姿が札幌の歴史に刻まれた。
14カ所の競技施設が設けられ、大倉山ジャンプ競技場などは今でも冬季スポーツの拠点だ。
一方、開会式が行われた真駒内公園屋外競技場は老朽化が進み、利用者の減少が著しい。トップアスリート育成に札幌の「地の利」が生かされているとは言い難い。
スキー滑降コース造成のため恵庭岳の一部を伐採し、五輪による自然破壊の象徴と批判された。
開催を機に南北線をはじめ市営地下鉄が整備されていった。ただ、現在は巨額の累積赤字を抱え市財政の負担にもなっている。
札幌市は64年の東京五輪開催を機に高速道路建設などが進んだことに触発され、大会を招致した。
今度も30年大会に合わせ、スポーツ施設の再整備や道路のバリアフリー化などを推進する考えだ。
だが札幌市の人口は今月、減少に転じた。高度成長期の72年大会と同じ成功体験は望めない。
東京五輪では開催経費の倍増など祭典の負の側面が露呈した。国際オリンピック委員会(IOC)が開催の決定権を握り、開催国の政府や都市の意向を十分に反映できない実態も浮き彫りになった。
市は今春に道民対象の意向調査を行う。大会開催時に新たな感染症や気候変動による暖冬少雪、大規模災害に直面する可能性など、招致には多くのリスクが伴うと率直に示すことも求められる。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年01月30日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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