沖縄の復帰40年を記念する各社の社説を読んで気付くことがある。それは「沖縄差別」論に注目するあまり、日米地位協定の問題を米軍犯罪にだけ眼を向けていることだ。だが、これは地位協定の問題を言いながら実は日米安保条約の屈辱的不平等性に眼を瞑るものだ。これでは明治の不平等条約に立ち上がった先輩たちに申し訳ない。
事実、沖縄県が作成した「沖縄からのメッセージ」(1996年5月)には8項目の「地位協定の問題点」が「これらの問題は沖縄県のみの問題ではなく、日本全国共通の問題」として整理されている。以下記してみよう。
1.狭い沖縄に米軍基地が集中している上、水域や空域も制限されている。
2.米軍に対し、国内法で規制したり義務を貸すことはできない。したがって、基地内の環境破壊や航空機騒音等を規制できない。また、調査等のため基地内に立ち入るには米軍の許可が必要。
3.戦闘機やヘリコプターなどの墜落事故があっても、事故についての報告義務はない。
4.施設間移動の名目で、完全武装した米軍が、民間地域を行軍する。
5.米軍人の自家用車の自動車税は軽減されている。
普通乗用車 日本国民45,000円~111,000円 米軍人19,000円
小型乗用車 日本国民29,500円~39,500円 米軍人6,500円
軽自動車 日本国民7,200円~米軍人2,650円
6.米軍人が犯罪を犯しても、身柄が米軍にある場合は起訴するまでは容疑者を拘束できない。
7.公務外の米軍人の事件・事故に対する保障は米軍次第。
8.地位協定の運用について話し合う日米合同委員会の内容は原則として公表されない(関係市町村の意見が聞かれることない)。
この合同委員会ついては以下にアクセスを。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index_02.html
日米地位協定については、地位協定研究会『日米地位協定逐条批判』(97年6月刊・新日本出版社)が詳しい。だが、453頁にも及ぶもので、とてもここで内容を紹介することはできない。そこで以下、その「目次」を紹介することにする。
はじめに
1 日本の国土を提供する根拠条項ll第二、四条
一 膨大な国土が米軍に提供されるのはなぜか
二 基地提供の運用にみる問題点
三 基地の共同使用がもつ新たな危険
四 基地の返還について
五 基地返還の際の原状回復と補償(第四条)
2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定―第三条
一 施設・区域の利用方法と国内法の適用
二 立入禁止と情報提供の拒否
三 電波・交通―近傍における措置
四 条約の目的を逸脱している米軍基地使用
3 出入国と移動、民間施設使用を保障する条項-第五、九条
一 日本の空港、港湾への出入りとその使用(第五条一項、三項)
二 提供施設、民間施設間の移動(第五条二項)
三 軍構成員等の出入国管理と検疫問題(第九条)
4 米軍の優先使用、協力を義務化-第六~八条、一〇条、二I~二三条
一 安保の目的達成に従属する航空管制業務
二 公益事業などの利用優先権
三 気象業務の提供、自動車にかんする特権
四 米軍にたいする安全措置
5 税金の免除などの経済的特権供与―第一一~一五条、一九、二〇条
一 各種税金の免除
二 税金免除がもたらす損害
三 労務の調達の肩代わり、為替管理の免除とドル軍票の使用
6 米軍に日本の法律は適用されないのか―第二八条
一 駐留外国軍隊への国内法の適用は当然
二 膨大な特例法で日本法令の適用を除外
三 地位協定上、法律上の根拠なしの横暴
四 法令違反を容認する日本政府の態度
7 野放しにされる米軍犯罪―第一七条
一 本条制定の経緯と問題の性質
ニ アメリカ側に有利な刑事裁判権のしくみ
三 逮捕・拘禁で米軍兵士優先の屈辱的条文
四 おそるべき有事規定
8 きわめて不十分な損害救済のしくみ―第一八条
一 米軍の公務中の損害
二 米軍関係者の公務外に生じた損害
三 「適法行為」による被害補償
9 米軍のいすわり支える「思いやり予算」―第二四条
一 米軍基地の固定化・強化の物質的基盤
二 地位協定に違反する「思いやり予算
三 特別協定のもとでの「思いやり予算」の拡大
四 国際的にも異常な米軍駐留経費負担
10 基地の存続・強化を任務とする日米合同委員会-第二五条
一 日米合同委員会のしくみと成り立ち
二 日米合同委員会の目的と任務
三 徹底した秘密機関
四 アメリカの横暴と日本の屈辱的姿勢
資料
各社の社説が強調するように、沖縄の米軍犯罪の不平等性のみが問題でないことが判る。これはまさに全国民の、日本国の問題なのだ。しかも日本国憲法を全国地域のくらしに生かすかどうかの問題なのだ。
そこで、長いが、地位協定の問題点を指摘しているので、「はじめに」の項を紹介しておこう。
□日本の主権制限と基本的人権の制限□
日米地位協定は、一九六〇年に現行安保条約が締結されたさい、条約本体とともに国会で「承認」されたものである。しかし、当時の国会で協定の審議はほとんどまともにおこなわれなかった。したがって、国民の十分な批判にもさらされずに今日にいたっている。さらに、協定はわずか二八ヵ条にすぎないが、その解釈および細目の運用は、すべて非公開・秘密主義の「日米合同委員会」の合意にゆだねられる仕組みになっている。
各条項ごとの分析にはいる前に、協定と安保条約との関係および協定の全体の構成を、簡潔にみておくことにする。
日米地位協定の前身は、基地使用の継続など米軍の占領継続を協定で保障した日米行政協定であった。地位協定は、正式名称であきらかなように、安保条約にもとづいて日本に駐留する米軍にたいして、基地(施設・区域)を提供することをおもな目的としつつ、それにとどまらず、在日米軍にもろもろの特権・特典を保障することを盛りこんでいる。また、協定をより具体的に実施するための国内措置として、現在一九件の国内法が制定されている。ほかに政令や地方自治体の条例なども定められている。さらには、前述したように、「日米合同委員会」の合意も、その内容が国民には秘密にされたまま国民を法的に拘束している。これらが全体として、日米地位協定体系をなしているわけである。
日米地位協定の本質を端的にいえば、在日米軍に全面的な「行動の自由」を保障するために、わが国の主権を制限し、国民の基本的人権に制限をくわえたものにほかならない。
□三つの内容□
協定の全体的な内容は、大まかにいって次の三つに分けられる。
(1)基地の提供・設定=すでにみたように、「合衆国は、安保条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される」(協定第二条)。この規定を実施するための国内法として、「米軍用地確保特別措置法」「地位協定実施に伴う国有財産管理法」「米軍の水面の使用に伴う漁船の操業制限法」などが制定されている。これによって日本国民は、米軍のために日本政府をつうじて土地、建物、設備などを強制使用され、漁業操業区域の大幅制限などをうけている。
(2)基地の維持と円滑な運営=協定第三条は、「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のために必要なすべての措置を執ることができる」と定めている。これによって、基地内は完全に米軍の支配下におかれる。同時に重要なことは、米軍のこの権限が、たんに基地=「施設及び区域内」にとどまらず、その外においても、たとえば、鉄道・電話・電力・港湾・空港・道路などの自由使用、物品調達のさいの特権などの形で広範に保障されていることである。
さらに、くわしくは後述するが、協定自身は、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は……(本「協定」に明示するものを除いて)合衆国が負担する」(第二四条)と定めながら、いわゆる「思いやり」予算などとして、巨額の国民の血税が米軍につぎこまれている(九七年度、二七三七億円)。
(3)軍人・軍属などの特権・特典=軍人・軍属の日本への自由な出入国、刑事、民事責任の大幅免除をはじめ、日本国民に比較して大幅な特権・特典が保障される。これらの特権・特典の多くは、その者が「公務」に従事していると否とにかかわらず、一般的に保障されるものである。
どうだろうか?地位協定から見た本質的側面、すなわち日米安保条約の屈辱性、不平等性の側面だ。これは日本国民の基本的人権、国家主権さえも売り渡すものだが、これらを締結した自民党政権とそれを支える財界などの責任は大きい。
同時に、今「財政危機」として増税と社会保障の一体改悪が国民の負担によって進めようとしているが、米軍に使われる血税と免税こそ、最大の、かつ膨大なムダと言える。
その理由は、憲法に基づく平和外交努力こそ、有効な「戦争抑止力」だからだ。だからこそ、日米安保繁栄論者、推進派は、必死になってマスコミをつかって、こうした諸点について、トリックを使って煙にまいている。
「日本が主権を回復した1952年、国内の米軍基地の9割は本土にあった。その後、沖縄への移転、本土内での集約が進み、復帰時には59%が沖縄にあった。いまは74%で、『基地の中に沖縄がある』と言われる」(朝日)。
「40年で本土にある米軍基地が31%減った一方、沖縄は19%減でしかない。今なお米軍専用基地の74%が島に集中する。不平等な日米地位協定も改定されず、地元から「差別だ」の声が上がる。そうした声に耳を傾ける必要がある」(神戸)
各社の論調は沖縄への集中に眼を向けて本土の米軍基地は減らされてきたかのように強調している。しかし、それは違う。
小泉親司「安保条約50年、その歴史と現在」(『月刊学習』2010年1月号)によれば、以下のとおりだ。マスコミが国民をどこに導こうとしているのか、その狙いは何か、透けて見えてくる。
全国各地に134ヵ所の米軍基地が置かれ、総面積は東京23区の1.6倍に(09年3月現在)。主要な基地は、三沢空軍基地(青森県)、横田空軍基地(東京都)、横須賀海軍基地(神奈川県)、岩国海兵隊基地(山口県)、佐世保海軍基地(長崎県)、嘉手納空軍基地、普天間海兵隊基地(沖縄)など。
北海道では、1980年代当初、2ヵ所にすぎなかった米軍基地が、現在では共同使用基地を含めると18ヵ所に拡大、施設数では沖縄に次いで全国2位。
静岡県の束富士演習場は、米軍演習場が返還されて自衛隊演習場になりましたが、返還にあたって米軍が「年間270日間、優先的に使用できる」との密約が結ばれていた。年間270日とは、休日の土日を除いて、米軍が毎日、自由に使用できるということを意味。
神奈川県の厚木基地は、空母艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)基地として、周辺住民に耐え難い爆音被害を押しつけてきましたが、滑走路と管制塔が共同使用です。米軍は、摩耗の激しい滑走路の修理費を心配することなく、激しい訓練ができるようになっている。
この共同使用を含む米軍基地の総面積は、2009年には10万2705ha、1980年(4万8411ha)の2倍以上に拡大。
自衛隊基地ばかりではありません。地位協定は、民間港湾や民間飛行場を事実上の米軍基地として使用できるとしています。第五条は、「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入することができる」としています。これは、明らかに「入港料又は着陸料を課されない」というだけの規定にすぎませんが、日本政府は、この規定を、米軍の航空機や船舶は、いつでもどこの民間の港や飛行場も使用できると拡大解釈しています。実際、民間港湾は、都道府県知事や地方自治体の首長が管理権限をもっていますが、その了解なしに米軍艦が入港する実態が急増しています。
と述べている。
地位協定の本質と運動の課題については、さらに以下の記事が参考になる。
井上哲士「日米地位協定の抜本改定を―「公務中」米軍属の起訴を実現した世論と国会論戦」【前衛2012年2月号】
http://www.inoue-satoshi.com/shinbun_kiji/ronbun_zenei1202.html
東洋の八州の島の屈辱の歯を食ひしばり見上ぐる空を
事実、沖縄県が作成した「沖縄からのメッセージ」(1996年5月)には8項目の「地位協定の問題点」が「これらの問題は沖縄県のみの問題ではなく、日本全国共通の問題」として整理されている。以下記してみよう。
1.狭い沖縄に米軍基地が集中している上、水域や空域も制限されている。
2.米軍に対し、国内法で規制したり義務を貸すことはできない。したがって、基地内の環境破壊や航空機騒音等を規制できない。また、調査等のため基地内に立ち入るには米軍の許可が必要。
3.戦闘機やヘリコプターなどの墜落事故があっても、事故についての報告義務はない。
4.施設間移動の名目で、完全武装した米軍が、民間地域を行軍する。
5.米軍人の自家用車の自動車税は軽減されている。
普通乗用車 日本国民45,000円~111,000円 米軍人19,000円
小型乗用車 日本国民29,500円~39,500円 米軍人6,500円
軽自動車 日本国民7,200円~米軍人2,650円
6.米軍人が犯罪を犯しても、身柄が米軍にある場合は起訴するまでは容疑者を拘束できない。
7.公務外の米軍人の事件・事故に対する保障は米軍次第。
8.地位協定の運用について話し合う日米合同委員会の内容は原則として公表されない(関係市町村の意見が聞かれることない)。
この合同委員会ついては以下にアクセスを。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index_02.html
日米地位協定については、地位協定研究会『日米地位協定逐条批判』(97年6月刊・新日本出版社)が詳しい。だが、453頁にも及ぶもので、とてもここで内容を紹介することはできない。そこで以下、その「目次」を紹介することにする。
はじめに
1 日本の国土を提供する根拠条項ll第二、四条
一 膨大な国土が米軍に提供されるのはなぜか
二 基地提供の運用にみる問題点
三 基地の共同使用がもつ新たな危険
四 基地の返還について
五 基地返還の際の原状回復と補償(第四条)
2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定―第三条
一 施設・区域の利用方法と国内法の適用
二 立入禁止と情報提供の拒否
三 電波・交通―近傍における措置
四 条約の目的を逸脱している米軍基地使用
3 出入国と移動、民間施設使用を保障する条項-第五、九条
一 日本の空港、港湾への出入りとその使用(第五条一項、三項)
二 提供施設、民間施設間の移動(第五条二項)
三 軍構成員等の出入国管理と検疫問題(第九条)
4 米軍の優先使用、協力を義務化-第六~八条、一〇条、二I~二三条
一 安保の目的達成に従属する航空管制業務
二 公益事業などの利用優先権
三 気象業務の提供、自動車にかんする特権
四 米軍にたいする安全措置
5 税金の免除などの経済的特権供与―第一一~一五条、一九、二〇条
一 各種税金の免除
二 税金免除がもたらす損害
三 労務の調達の肩代わり、為替管理の免除とドル軍票の使用
6 米軍に日本の法律は適用されないのか―第二八条
一 駐留外国軍隊への国内法の適用は当然
二 膨大な特例法で日本法令の適用を除外
三 地位協定上、法律上の根拠なしの横暴
四 法令違反を容認する日本政府の態度
7 野放しにされる米軍犯罪―第一七条
一 本条制定の経緯と問題の性質
ニ アメリカ側に有利な刑事裁判権のしくみ
三 逮捕・拘禁で米軍兵士優先の屈辱的条文
四 おそるべき有事規定
8 きわめて不十分な損害救済のしくみ―第一八条
一 米軍の公務中の損害
二 米軍関係者の公務外に生じた損害
三 「適法行為」による被害補償
9 米軍のいすわり支える「思いやり予算」―第二四条
一 米軍基地の固定化・強化の物質的基盤
二 地位協定に違反する「思いやり予算
三 特別協定のもとでの「思いやり予算」の拡大
四 国際的にも異常な米軍駐留経費負担
10 基地の存続・強化を任務とする日米合同委員会-第二五条
一 日米合同委員会のしくみと成り立ち
二 日米合同委員会の目的と任務
三 徹底した秘密機関
四 アメリカの横暴と日本の屈辱的姿勢
資料
各社の社説が強調するように、沖縄の米軍犯罪の不平等性のみが問題でないことが判る。これはまさに全国民の、日本国の問題なのだ。しかも日本国憲法を全国地域のくらしに生かすかどうかの問題なのだ。
そこで、長いが、地位協定の問題点を指摘しているので、「はじめに」の項を紹介しておこう。
□日本の主権制限と基本的人権の制限□
日米地位協定は、一九六〇年に現行安保条約が締結されたさい、条約本体とともに国会で「承認」されたものである。しかし、当時の国会で協定の審議はほとんどまともにおこなわれなかった。したがって、国民の十分な批判にもさらされずに今日にいたっている。さらに、協定はわずか二八ヵ条にすぎないが、その解釈および細目の運用は、すべて非公開・秘密主義の「日米合同委員会」の合意にゆだねられる仕組みになっている。
各条項ごとの分析にはいる前に、協定と安保条約との関係および協定の全体の構成を、簡潔にみておくことにする。
日米地位協定の前身は、基地使用の継続など米軍の占領継続を協定で保障した日米行政協定であった。地位協定は、正式名称であきらかなように、安保条約にもとづいて日本に駐留する米軍にたいして、基地(施設・区域)を提供することをおもな目的としつつ、それにとどまらず、在日米軍にもろもろの特権・特典を保障することを盛りこんでいる。また、協定をより具体的に実施するための国内措置として、現在一九件の国内法が制定されている。ほかに政令や地方自治体の条例なども定められている。さらには、前述したように、「日米合同委員会」の合意も、その内容が国民には秘密にされたまま国民を法的に拘束している。これらが全体として、日米地位協定体系をなしているわけである。
日米地位協定の本質を端的にいえば、在日米軍に全面的な「行動の自由」を保障するために、わが国の主権を制限し、国民の基本的人権に制限をくわえたものにほかならない。
□三つの内容□
協定の全体的な内容は、大まかにいって次の三つに分けられる。
(1)基地の提供・設定=すでにみたように、「合衆国は、安保条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される」(協定第二条)。この規定を実施するための国内法として、「米軍用地確保特別措置法」「地位協定実施に伴う国有財産管理法」「米軍の水面の使用に伴う漁船の操業制限法」などが制定されている。これによって日本国民は、米軍のために日本政府をつうじて土地、建物、設備などを強制使用され、漁業操業区域の大幅制限などをうけている。
(2)基地の維持と円滑な運営=協定第三条は、「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のために必要なすべての措置を執ることができる」と定めている。これによって、基地内は完全に米軍の支配下におかれる。同時に重要なことは、米軍のこの権限が、たんに基地=「施設及び区域内」にとどまらず、その外においても、たとえば、鉄道・電話・電力・港湾・空港・道路などの自由使用、物品調達のさいの特権などの形で広範に保障されていることである。
さらに、くわしくは後述するが、協定自身は、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は……(本「協定」に明示するものを除いて)合衆国が負担する」(第二四条)と定めながら、いわゆる「思いやり」予算などとして、巨額の国民の血税が米軍につぎこまれている(九七年度、二七三七億円)。
(3)軍人・軍属などの特権・特典=軍人・軍属の日本への自由な出入国、刑事、民事責任の大幅免除をはじめ、日本国民に比較して大幅な特権・特典が保障される。これらの特権・特典の多くは、その者が「公務」に従事していると否とにかかわらず、一般的に保障されるものである。
どうだろうか?地位協定から見た本質的側面、すなわち日米安保条約の屈辱性、不平等性の側面だ。これは日本国民の基本的人権、国家主権さえも売り渡すものだが、これらを締結した自民党政権とそれを支える財界などの責任は大きい。
同時に、今「財政危機」として増税と社会保障の一体改悪が国民の負担によって進めようとしているが、米軍に使われる血税と免税こそ、最大の、かつ膨大なムダと言える。
その理由は、憲法に基づく平和外交努力こそ、有効な「戦争抑止力」だからだ。だからこそ、日米安保繁栄論者、推進派は、必死になってマスコミをつかって、こうした諸点について、トリックを使って煙にまいている。
「日本が主権を回復した1952年、国内の米軍基地の9割は本土にあった。その後、沖縄への移転、本土内での集約が進み、復帰時には59%が沖縄にあった。いまは74%で、『基地の中に沖縄がある』と言われる」(朝日)。
「40年で本土にある米軍基地が31%減った一方、沖縄は19%減でしかない。今なお米軍専用基地の74%が島に集中する。不平等な日米地位協定も改定されず、地元から「差別だ」の声が上がる。そうした声に耳を傾ける必要がある」(神戸)
各社の論調は沖縄への集中に眼を向けて本土の米軍基地は減らされてきたかのように強調している。しかし、それは違う。
小泉親司「安保条約50年、その歴史と現在」(『月刊学習』2010年1月号)によれば、以下のとおりだ。マスコミが国民をどこに導こうとしているのか、その狙いは何か、透けて見えてくる。
全国各地に134ヵ所の米軍基地が置かれ、総面積は東京23区の1.6倍に(09年3月現在)。主要な基地は、三沢空軍基地(青森県)、横田空軍基地(東京都)、横須賀海軍基地(神奈川県)、岩国海兵隊基地(山口県)、佐世保海軍基地(長崎県)、嘉手納空軍基地、普天間海兵隊基地(沖縄)など。
北海道では、1980年代当初、2ヵ所にすぎなかった米軍基地が、現在では共同使用基地を含めると18ヵ所に拡大、施設数では沖縄に次いで全国2位。
静岡県の束富士演習場は、米軍演習場が返還されて自衛隊演習場になりましたが、返還にあたって米軍が「年間270日間、優先的に使用できる」との密約が結ばれていた。年間270日とは、休日の土日を除いて、米軍が毎日、自由に使用できるということを意味。
神奈川県の厚木基地は、空母艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)基地として、周辺住民に耐え難い爆音被害を押しつけてきましたが、滑走路と管制塔が共同使用です。米軍は、摩耗の激しい滑走路の修理費を心配することなく、激しい訓練ができるようになっている。
この共同使用を含む米軍基地の総面積は、2009年には10万2705ha、1980年(4万8411ha)の2倍以上に拡大。
自衛隊基地ばかりではありません。地位協定は、民間港湾や民間飛行場を事実上の米軍基地として使用できるとしています。第五条は、「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入することができる」としています。これは、明らかに「入港料又は着陸料を課されない」というだけの規定にすぎませんが、日本政府は、この規定を、米軍の航空機や船舶は、いつでもどこの民間の港や飛行場も使用できると拡大解釈しています。実際、民間港湾は、都道府県知事や地方自治体の首長が管理権限をもっていますが、その了解なしに米軍艦が入港する実態が急増しています。
と述べている。
地位協定の本質と運動の課題については、さらに以下の記事が参考になる。
井上哲士「日米地位協定の抜本改定を―「公務中」米軍属の起訴を実現した世論と国会論戦」【前衛2012年2月号】
http://www.inoue-satoshi.com/shinbun_kiji/ronbun_zenei1202.html
東洋の八州の島の屈辱の歯を食ひしばり見上ぐる空を