橫濱紅葉坂の神奈川縣立青少年センターホールで、國立劇場主催の文樂公演を觀る。

番組は三部制仕立てで、現在の技藝員では重厚な時代物など力量不足なのは火を見るより明らか、いまだに財産演目と有り難がってゐる時代錯誤な心中物などもとより論外、前例がないぶん先人藝と比べなくて済む新作物を並べた、第一部を選ぶ。

大昔に人形振りの口上と足拍子をつとめた記憶がある「日高川入相花王」の古典物を前座に据ゑ、木下順二の民話に義太夫節をのせた「瓜子姫とあまんじゃく」は、關西ではたびたび上演してゐるやうだが東京圏で六十三年ぶり云々、實際その當時には斬新だったであらう雰囲氣の漂ふ一篇。
興味のあったのが、佛人モリエールの古典喜劇「守錢奴(L’AVARE)」を井上ひさしが翻案した「金壺親父戀達引」、

吝嗇極まる蓄財家の呉服屋主人を主役に、二組のややこしい縁談が絡む現代語調の意欲作だが、日本語訳で讀んだ原典の、言葉(セリフ)のやりとりの妙までは再現されてゐない。
が、取り持ち婆役を語った若手の太夫が、もう一役の色男役以上に人物像を達者に創り上げてゐたのが耳目を惹き、豊かな聲量ともども、これからはかういふ若い人財が必要なのだと感じ入る。