
ラジオ放送で寶生流の「胡蝶」を聴く。
梅花に戯れる可憐な胡蝶は法華經の功力によって成佛する──
内容としてはそれだけで、作者と考へらる觀世小次郎信光が、當時補佐してゐた若き太夫(家元)のために創ったとみられる、胡蝶の可憐さに主眼をおいた曲。
この曲は忘流の仕舞で一度觀たことがあるが、實際に両腕で羽ばたきする型があるなど、視覺的なわかりやすさが印象に殘ってゐる。
忘年忘月、寶生流能樂師を遠い先祖に持つと云ふ當時高校生の女の子が、“血”の為せる業やらん、やはり能樂師を目指してゐて、この「胡蝶」を必死で覺えたと樂しさうに話してゐた。
それで、私はこの曲名をはっきりと知ったのではなかったか。
が、私は彼女のその後の消息を知らない。
「夢は破れて覺めにけり」になってゐなければよいが……。