水道橋の能楽堂で、宝生流の「鵺」を観る。
源頼政が射落した物怪を、松明をかざして見れば、頭は猿、手足は虎のごとく尾は蛇―
舞台では前シテが閉じた扇を松明に見立て、面(おもて)の表情でその姿を映し出す。
ああ、
いる……。
そこにたしかに、
深紅の血にまみれた、
人間と同じ“生き物”が。
わたしは舞台上に倒れ伏す物怪に問ひかける。
あなたはなぜ、帝をなやませたのですか?
おのれの威力を、ただ誇示したかっただけなのですか?
わたしには、もっと違ふ理由があったやうな気がしています。
それがなんであったか、わたしにはわかる気がするのです。
……訴えたかったのでせう?
なぜなら……。
しかし、かの物怪はうつほ舟にのせられて、
川下にひろがる暗闇へと流されて行った。
物怪のみが知るあらゆる事実は、
すべて、
闇の奥に、
葬られた。
源頼政が射落した物怪を、松明をかざして見れば、頭は猿、手足は虎のごとく尾は蛇―
舞台では前シテが閉じた扇を松明に見立て、面(おもて)の表情でその姿を映し出す。
ああ、
いる……。
そこにたしかに、
深紅の血にまみれた、
人間と同じ“生き物”が。
わたしは舞台上に倒れ伏す物怪に問ひかける。
あなたはなぜ、帝をなやませたのですか?
おのれの威力を、ただ誇示したかっただけなのですか?
わたしには、もっと違ふ理由があったやうな気がしています。
それがなんであったか、わたしにはわかる気がするのです。
……訴えたかったのでせう?
なぜなら……。
しかし、かの物怪はうつほ舟にのせられて、
川下にひろがる暗闇へと流されて行った。
物怪のみが知るあらゆる事実は、
すべて、
闇の奥に、
葬られた。