迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

とらつぐみ。

2015-09-19 22:12:23 | 浮世見聞記
水道橋の能楽堂で、宝生流の「鵺」を観る。


源頼政が射落した物怪を、松明をかざして見れば、頭は猿、手足は虎のごとく尾は蛇―

舞台では前シテが閉じた扇を松明に見立て、面(おもて)の表情でその姿を映し出す。


ああ、

いる……。

そこにたしかに、

深紅の血にまみれた、

人間と同じ“生き物”が。



わたしは舞台上に倒れ伏す物怪に問ひかける。



あなたはなぜ、帝をなやませたのですか?

おのれの威力を、ただ誇示したかっただけなのですか?

わたしには、もっと違ふ理由があったやうな気がしています。

それがなんであったか、わたしにはわかる気がするのです。

……訴えたかったのでせう?

なぜなら……。



しかし、かの物怪はうつほ舟にのせられて、

川下にひろがる暗闇へと流されて行った。



物怪のみが知るあらゆる事実は、

すべて、

闇の奥に、

葬られた。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いちどにどっとてをうちわらふ。 | トップ | かたりごと。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。