
「オサラバだけが人生さ」とルパンに言ったのは次元大介。
会社のデスクに、そんなシーンを思い出させる封筒が置いてあった。
中身は薄手のハンカチ一枚。
私はきっと使うことのないこのハンカチを選ぶところが
オドンちゃんっぽくてとても良い。
オドンちゃんは内モンゴル自治区出身。
中国の大学を出たあと京都の大学に通い、
そしてこの会社に入って来たのはたしか5年ほど前のことだ。
日本の生活常識がとても必要なこの仕事で、
オドンちゃんは苦労した。
タクシーを呼ぶことも、電話も上手にできなかったのだ。
オドンがクビになるという噂を聞いて、
私は上司に言った。
「私が育てますから、うちのチームにひきとらせてください」
生活の基礎のようなものは、教えればできるようになる。
そう思って引き取ったが、オドンは一向にできなかった。
土日はかならず音信不通になったり、
ロケで予想外のことが起きると現場で泣いたり、
「伝統芸能の若き獅子たち」の編集データを全部なくしたりもした。
(これはリカバーするのが死ぬほど大変だった)
私は何度も諦めかけたけど、
時間をかければ何かが変わると信じ続けた。
やがて彼女は、小さな番組だけれど2本ディレクターをした。
故郷にもDVDを送ったと喜んでいた。
そしてこの春、辞めていった。
故郷に帰ってお見合いをするのだと、笑顔で教えてくれた。
私は、ほっとした。
私はオドンちゃんに、
最後のミッションを与えることにした。
それは「カラフルな服を着ること」。
地味な服しか着ないオドンちゃんにも、色の選択肢がもうひとつくらいあってもいい。
……………さて。
ポールスミスのだまし絵Tシャツ。
ふるさとで着てくれているかどうかは、疑問ではあるけれど。
あばよ、オドンちゃん。
