◇再会の夏(Le collier rouge)
ほとんど意味のない邦題で、原題の直訳は「赤い首輪」だ。
だからといって、奥さんに首輪をつけておけばよかったと間男に嵌められたと勘違いした焼き餅焼きの男の物語ではない。映画のつくりがどうしても投獄されたニコラ・デュボシェルと妻のソフィー・ベルベークの物語に偏るからそう感じるんだけど、そういうことではない。
レジオン・ド・ヌール勲章まで貰った男が、なんで祝賀の席の挨拶でこの勲章を犬の首に掛けちゃうのかってことで、それで軍法会議にまでかけられて故郷へ移送されて投獄されているのはなぜかって物語だ。だから、赤い首輪なわけで、この首輪つまり勲章を棄ててまでして抗議したかった愚かな塹壕戦とはなんだったのかってことを調べようとする軍判事フランソワ・クリュゼの物語なんだってことをいわないといけないのに、映画の宣伝はまったくとちくるったように、フランス版の忠犬ハチ公物語みたいなことをいう。信じられない。
忠犬じゃないから。
あるじニコラ・デュボシェルのことが好きで仕方なくて戦場にまでついてきてしまった黒犬の敵愾心を募らせてしまった人間どもがひとまずの休戦を喜んで握手しようとしたときに、いきなりこの黒犬が飛びかかって、それでまたいっぺんに人間の猛烈な憎しみが火を噴いて戦って、幸か不幸か勝ってしまったために、勲章をもらう羽目になったのがニコラ・デュボシェルなわけで、かれはそうしたなんにも調べずにいる上のあほ連中に対して、勲章をもらうんだったらいきなり不意打ちを喰らわせたこの黒犬だと皮肉な主張をして犬の首に勲章をかけたわけで、それをフランソワ・クリュゼも見抜かないといけないし、またそれを調書に取ってそこでようやく釈放しなければならないはずなのに、もう、作り手のジャン・ベッケルも上手に描き切れてないし、それに輪をかけて宣伝が好い加減で、まったく映画がかわいそうだな。