私が教えていた名市大の芸術工学部の入試科目に実技試験があるので、デッサンの試験問題をつくらなければならない。それも1年休むとすぐに出題担当が回ってくる。デッサンだけならモチーフを与えてしまえば簡単な話なのだが、それではデッサン力の評価しかできない。工学部系だから普段からの観察力も表現力とともに判断したいわけだ。
そこで静物のモチーフを与えつつ、一ひねりする。例えば紙コップと紐を与え、それに任意の辞書を加えて構成しデッサンしなさいといった具合に。つまり1点は身の回りのモノの想像デッサンを加える。そうすることで、普段見慣れたものがどれだけ観察されているかが判断できるだろうという意図である。
時には英和辞典を持参せよと指示する。試験出題文は英文だったのだ。実技試験だって英語は必要なのだ。翌年度も英和辞典を持参せよと指示する。そうすると予備校で英語の出題だってんで受験生はちゃんと対策をしてくる。でっ、試験問題は、「与えられたモチーフに持参した英和辞典を加えてデッサンしなさい」という日本語の出題だった。そんな風に出題側もいろいろと考えながら試験問題をつくっている。
過去問題も公表されているし、そういう主題傾向が続くと予備校の実技試験コースもちゃんと傾向と対策をしてくる。そんなわけでデッサンの回答用紙をみると、描けている、から、描けていない、とバラツキが出るので試験問題としては正解なのだけど。そうなると予備校のデッサン科目の講座に通えば、まあなんとか合格点の範囲内に届くだろうというのが私の大学のレベルだが、それは実技試験の水準では並かそれ以下!。
これが芸大になると、みんなデッサンが描けてくる人間達ばかりだから描けて当たり前。そうすると次の判断基準が働く。つまりいかにも付け刃的に予備校で勉強しましたなんていうのよりは、美術が好きで好きでという人間を取りたいよね、ということになる。
そこでいかにも予備校で勉強しました風のデッサンはカットされる。そんな付け刃で芸術を勉強してもらってもさ、というわけである。デッサンが好きで好きで高校3年間美術部に所属して絵を描きましたというのと、受験準備で予備校などで促成で1年間勉強しましたというのは、デッサンによく表れる。つまり後者の予備校系は技巧的なのである。でっ、そういうのはカット。芸大は何年も浪人しているのが受験生できますが、何年もデッサンをしていると必然的に手慣れてくるので大変旨いし、それなら芸大で勉強することないじゃんという結論になる。そこで芸大で学べばもっと伸びそうだなというデッサンに高い得点がつくわけである。受験生の可能性をみているのである。
まあ芸大に行きたいという以前に、芸術が好きなんですか?、そこが問われている。好きであれば高校時代に美術部にはいって、モノを観察したり表現したりすることは身についているよね。そこが大切なポイントなのだろう。
ふと思うに、高校時代の美術経験に関する書類を高校の美術の先生に書いてもらう案がありそうだ。あるものは事実を性格に、ないものはそのままで正確に。そしてデッサンが同点で並んだときは、やはり美術経験の多い方を優先したいですよね。それが私の気分でもあった。
まあうちは工学系なので、実技試験の点数よりは学科試験の数学の点数が大きくものをいうことは確かなのであるが・・・。
クロッキー帳NO36.