図1.東京駅門扉
この講義では、昔の中廊下型の家の空間を都市の空間へと展開している。家の玄関に当たるものが都市の駅であり空港であり、家の廊下や縁側が都市の街路や界隈であり、家の床の間にあたるものが都市のシンボルであり、茶の間はさしずめ商店街や市場だろう、といった具合にアナロジーで構成されている。その方が都市という大きなスケールを扱う場合、日常の感覚で捉えられるからだ。その日常の生活感覚で都市を捉えるということが大切なのだという理由で。
駅の概念を探ると、3要素がある。「まち」、「鉄道敷」、「駅舎・駅ビル」である。
これら3要素間の関係性をさらにみてゆくと「まち」、「鉄道敷」から協調的関係性が浮かび上がり高架下利用や近代建築遺産としての駅舎の存在があげられ、「まち」と「駅舎・駅ビル」の関係性では、駅と商圏との関わりと捉えれば、そこに5つのコンセプトが発生し駅ビルの新たな作り方が表出できる。さらに「鉄道敷」と「駅舎」では、それは駅ビル開発事業、車両開発事業、沿線開発事業、サービス開発事業、プロモーション開発事業といった生活総合産業としての鉄道会社の姿が見えてくる。
これらの関係性について論じたのが大学の講義であるが、このブログでは、そうした関係性の中で「まち」と「鉄道」が関わる協力的関係だけを取り出し要約を記載した。
図1は、東京駅の門扉につけられた相撲の軍配である。藤森照信説によれば、東京駅の設計者辰野金吾は相撲が好きだったとあった。そうなると駅は、何かと向き合わなければならない。そう街と向き合うことなのだろうと私は考えた。つまり街と向き合う方法論が必要なのだ。駅舎の上がショッピングセンターばかりというのでは知恵がない。やはりもっと都市の生活を考慮した駅があってよいはずだ。
そこで「まち」と「鉄道」が関わる協力的関係性であり、当時先駆的だったな3事例を紹介する。
最初の事例は原広司設計のJR京都駅の階段広場。こんな人が多く集まれる空間が設けられるほど駅は大きいのである。そしていろんなイベントあるいは催事が季節に応じて演じられている。それは大成功を収めている。日本で初めて駅に広場を持ち込んだ事例である。
図2.JR京都駅
2番目の事例としてJR九州の門司港駅を取り上げた。この駅舎は頭端型という構造の駅舎であり、すべての線路がこの駅で終点になっていて、これより先へ行くことはできない。だから駅のコンコースを通り改札口を抜けてホームを歩いてゆくという、ヨーロッパ都市でみられる構造であり、我が国では例が少ない。
この古い駅舎は街歩きの出発点にもなっている。もともと門司には明治期以来の近代建築が多数存在している。そこでこららを修復しネットワークしながら街の回遊ルートができる。そのうちに近代建築にデザインを合わせた門司港ホテルが誕生する。とてもうまいデザインだ、近代の街並みに溶け込んでいて、そこに新しさもある。イタリアのアルド・ロッシのデザインだ。門司港駅は、そうしたまちづくりの出発点でもあったのである。
図3.JR九州門司港駅舎
図4.近代建築と調和する門司港ホテル(現在プレミアホテル門司港) 街並み調和の理論は簡単だ。壁の色と材質だけである。これに屋根を設けたりすると、屋根同士の調和を求められ話は複雑になる。だから外壁だけ合っていれば建築形態はプレーンでもよいのである。
3番目の事例は、地下鉄みなとみらい21線の駅舎をとりあげた。計画の最初から地下鉄敷設と駅舎の建築が一体的に進められてきた。その成果もあり、みなとみらい21駅では、建築と駅舎が空間的につながり、屋内からホームが見下ろせる素晴らしい空間が日本で最初に登場した。地下鉄といったってトンネルばかりではないのだ。計画の進め方を工夫さえすれば、こんなことは容易にできる。既成観念に固まっていてはあかんのだ。
図5.みなとみらい21駅
図6.みなとみらい21駅の公共スペース
そんな風に事例をみてゆくと、いろんな駅の空間をつくることができる。それを阻害していたのは、紋切り型あるいはステレオタイプ化した私達の古くさい考え方だったわけだ。駅だからこうつくらなければならないというルールはない。都市の生活に合わせて、これからもいろんな駅の使い方を考えてゆけばよい。凡庸な発想なんかいらない。既成観念に囚われることなく考えて考えて考え抜け!、そこに新しいデザインが生まれるだろう。
最後にワシントンDCのユニオンステーションの再生事業のプロポーザルをみてみよう。B3サイズの立派なプロポーザルである。ここには、駅が立派に私達の生活の一部であることが、あたりまえのように描かれている。
図7.ユニオンステーション・コンコース
図8.ユニオンステーション・サービスメントスペース
ついに冬の暇素材に着手したまではよかったが、画像の扱いが複雑だ。というのも私が撮影した画像は講義でも使用してきたので、そのまま使用できるが、ストーリー上必要な他者が撮影した画像もある。その際は撮影者の氏名を記載することにした。また講義は教室に来ないと聞けない話だが、幸いにして類似の元の本がある。元本にあたりたい人のために文献を再下段に記した。もちろん元本の内容を進化させているので、これとは随分と違う内容になっている。そんな前提をつくったりしておくと雑誌のコラムを書くような気分で少し気が重たいが、さて話を先に進めようか。
NikonF4,AiAF Nikkor70-200mm/F2.8,AiAFNikkor35-70mm/F2.8,AiAFNikkor20-35mm/F2.8,エクタクローム,ベルビア
参考文献:三井不動産S&E研究所/北山創造研究所編:まちづくりの知恵と作法,日本経新聞社,1994,p37-60.