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2014年渚滑川水系ニジマス汚染調査総括
水交社が発行している月刊北海道の釣り(2014年1月号)の別冊付録渓流徹底ガイド第7弾の34頁に、興味深い一文があるので紹介したい。以下原文のまま。
ー 渚滑川を30数年ぶりに取材して、何とオショロコマの釣れないことかと、愕然としたことも事実です。ニジマスは当時も魚影が濃かった川ではありますが、昔と比べると現在の方が何十倍も濃いような気がします。これは放流とC&Rエリアの設定の賜といえるでしょう。反面在来種のオショロコマの魚影が激減してしまったのは残念としかいいようがありません。ー
この記事を見て、私がこのブログでしばしば危惧し、何度も強く指摘してきたことが渚滑川水系、特にもろにニジマス汚染の影響をうけるサクルー川上流で現実のものとなっている可能性が強く感じられたのであった。
もはや憶測でものを言っている場合ではない。強い不安感にかられると同時に、どうしても実際に自分の目で確認する必要があると思い遠路、北見からの調査釣り行となった次第である。
この場合、現状調査のみを行っても、その意味するところは恣意的にいかようにも判断可能であり意義は少ない。幸い、私たちは今から5-7年前に何度も渚滑川水系の各支流をまわりオショロコマ棲息状況の調査と撮影をおこない、当時の様子を知る記録を残している。これと、今回の調査データを比較検討することにより、初めて実態が把握できると考えた。
今回、2014年6月14~15日、2014年6月20~21日にかけて一泊二日の調査行を2回、4日をかけておおざっぱに渚滑川水系サクルー川各支流、およびサクルー川本流源流域のニジマス汚染状況を調査した。
私はオショロコマの棲息水域にはニジマスは本来存在するべきでないと考えているのであえてニジマス汚染という表現を用いた。
まず最初に気づいたことは渚滑川水系どの支流でもこの5-7年の間にオショロコマが激減ないし消滅していたという事実である。
その理由は多々考えられるが、自然環境にはほとんど変化がないということをひとつ念頭におく必要があると思う。原子川などは、美しい渓流は以前と同じくそっくりそのまま残っているのにオショロコマは壊滅状態であった。矢口川も川の環境はほとんど変化がないがオショロコマがほぼ消えてニジマスに置き換わっていた。南十五号川はオショロコマは壊滅、ニジマスに置き換わっていた。飯田川にもニジマスが侵入していた。最も衝撃的であったのはエダマサクルー川が魚無し川であったことだが、これとニジマスとの関連は今のところ不明であるものの、まったく無関係とは思われない。
ニジマス汚染はこれら支流のみならずサクルー川本流域でも進行し、源流域に近いオンコ橋上流まで多数のニジマスがみられていた。
オンコ橋上流数百mではニジマスが圧倒的優勢でいまにもオショロコマを全滅させるのではないかと思われる勢いであった。
サクルー川支流群の悲惨な状況のみならず、サクルー川本流域でもオショロコマはニジマスに追われ最源流域に向かって一気に後退している様子がうかがえる。
この現象はこの5-7年という、きわめて短期間に起こっており、何万年もかかって自然の摂理で形成されたアメマスとオショロコマの棲み分けのようなものとはまったく異なる。
これらの水域は川幅も狭く木々も覆い被さって、フライ、ルアーでの優雅なニジマス釣りにはまったく不向きな場所である。まさかこんなところにまでせっせとニジマス放流をしているとは思いたくない。そこにいるニジマスはおびただしい数の稚魚のほか、幼魚、若魚、そしてせいぜい30cmくらいまでの小型ニジマスである。
恐らくまだ雪深い早春、誰も知らない時期に大型ニジマスが雪解け増水を利用して群をなして産卵行動のため源流域に遡上し産卵を繰り返していると思われた。道東河川でのこれまでの観察では産卵後、大型ニジマスの群は誰にも知られることなく、あっと言う間に下流域へと去ってゆく。私はそのような現場をいくつも目撃し、報告していることはこのブログの読者の方たちなら周知されていると思う。
サクルー川本流の源流域では、はっきりどの付近からかは今回特定できなかったが、ニジマスが見られず、いまだオショロコマの天国をおもわせる狭い水域があった。というよりそのような小規模な水域がまだ奇跡的に残っていた。かってはサクルー川全域がオショロコマの天国であったわけで、源流域にオショロコマの聖域が多少残っていたから問題は無いという話にはならない。
歴史的にみると、実は1970年代にはサクルー川水系に重点的なニジマス継続放流が行われ、札久留橋の上流域を禁漁区として、サクルー川を完全なニジマス川に育て上げようという時期があった。
しかし、禁猟区としたがために、ニジマスがいることが広く知れ渡り、かえって多数の密漁者が入渓し、毎年ニジマスが釣り尽くされる事態となり、1980年頃までにその制度は頓挫、中止された経緯がある。
キャチアンドリリースという概念はそれを教訓に導入されたものである。
その後 放流とC&Rエリアの設定は監視などが容易な渚滑川本流域にその中心が移った。
1970年代にサクルー川に放流されたニジマスの影響は、私たちが渚滑川のオショロコマ撮影に入った2008~2010年頃には痕跡もなく、オショロコマ生息域にはニジマスの影はまったくなかった。
オショロコマの個体数は異常といえるほど多く、それこそいたるところにいくらでもいたという強い印象を受けている。
そのオショロコマが、たかだかこの5-7年でサクルー川から消えようとしている。おそらく、その後のニジマス放流の規模の大きさが相当なものであったことを示していると思われる。
この異常事態は、たった一人のオショロコマ研究家の意見に過ぎないと看過しないでほしい。こんな調査をしたのはまだ私一人であると思われ、できれば別の方にもぜひさらに精度の高い再調査をしていただきたいとおもう。
ところで、オショロコマ激減ないし消滅の原因をひとりニジマス汚染のみに求めてよいだろうか。私は釣り人による釣獲圧、釣り圧も相当なものではないかと考える。今回、それを示唆するような現場も見た。
ニジマスとオショロコマがいる場合、悲しい現実だが釣って楽しく食べておいしいニジマスを好む方は潜在的にかなりいるのではなかろうか。すなわち、従来は食味最低のオショロコマ釣りなどしなかった方々がニジマス狙いで渓流奥深くまで入るようになりオショロコマが混獲されている可能性があるとおもう。その結果、最終的にニジマスもオショロコマも消えてしまうことは、かなりの現実味を持って想像できる。当然確証はないが、南十五号川、矢口川、原子川、エダマサクルー川でのオショロコマ壊滅状況は、その気配を強く感じた。
また、オショロコマの食味のまずさを実感している地元の方々は別として、いわゆるイワナをとてもありがたがる本州方面の釣り客がニジマス釣りの合間に本気でオショロコマを釣るかもしれない。つい最近も日高山脈の千呂露川上流で絶滅危惧種オショロコマをビク一杯釣って大喜び興奮している東京からの釣り人が確認されている。
今現在の北海道各地のオショロコマの状況をみれば、そんなことをされたらオショロコマ資源はあっという間に枯渇する。養魚場での再生産がいくらでも可能なニジマス、ヤマベ、アマゴ、いわゆる養殖イワナなどと異なり、かぼそい自然再生産にひたすら頼らざるを得ない渚滑川水系のオショロコマが絶え間ない釣り圧で消えてしまうことは容易に想像できるだろう。
今回の調査で渚滑川水系において自然環境はほとんど変化がないにもかかわらずオショロコマの激減ないし消滅が確認されたが、その原因としてはニジマス放流とそれに関連する釣り人たちの釣獲圧が重大な役割を果たしているのではなかろうか。
これまでの調査では、サクルー川のニジマス汚染はオンコ橋上流域と飯田川を繋ぐラインまでで、それより源流方向ではニジマスがみられなかった。オンコ橋の上流域になにかニジマスの遡上を妨げる状況があるのか、生態的にニジマスがそれより上流域を嫌うのか、理由については色々推察は出来るものの、今のところ不明である。
また、これら水域のオショロコマが5-7年前と比べて激減している理由として、自然環境には変化がないことからニジマスのほかに釣り人による乱獲の影響も無視できないと思われた。
かっては釣り人の多少の乱獲などオショロコマの生態系にさほど影響を与えないほどの多数個体がサクルー川全域に棲息していたと思われる。しかし、今現在、そのオショロコマが釣り人により最後のトドメを刺されようとしている。その理由は一体何故だろう。
渚滑川へのニジマス放流容認派の方々の中には、今現在オショロコマとニジマスは棲み分けている ??? ので今後のニジマス放流を続けても問題はないだろうといった実に幸せな考えを持つ人がいるかも知れない。いくつかの支流ではすでに源流域にいたるまでオショロコマは消えている。確かに、今回の調査ではサクルー川本流の源流域約5Kmほどの水域においてはオショロコマのみでニジマスは見られなかった。
ところで、物は言い様とよく言われるが、前述のごとく、これは所謂、生態学的な棲み分けとは無縁の状況である。かってサクルー川全域に棲んでいたオショロコマが長年にわたって放流され続けてきたニジマスに押され押されて、ついには源流5kmの狭い範囲、まさに崖っぷちにまで追いつめられていると考えるべきである。
この5-7年の短期間に個体数がさらに激減したオショロコマの自然再生産能力は極限まで落ち込んでおり、このような状況では以前と異なり、極端な釣り人の釣獲圧には、もはや耐えることが不可能になり、ついに最後のトドメをさされ絶滅する寸前の危機にあると考えるべきである。
ニジマスとの混生水域には恐らくニジマス狙いの釣り人が入るため残り少なくなったオショロコマが混獲され、さらに絶滅に拍車をかける。このような経過でオショロコマがほぼ壊滅した可能性は、矢口川、原子川、南十五号川、さらにエダマサクルー川に見てとれるのではなかろうか。
それならどうしたら良いか。
大前提として、オショロコマをどう思うかということだ。
滝上町民2869名や年間4000名とされる釣り客の中にはニジマス釣りのためにはそんな雑魚などどうでもよいと考える人が全くいないわけではないと思う。私は何度もオショロコマの大切さを述べてきたがそんな人たちにとってはそれは馬の耳に念仏だ。
ただ、自然を愛し、ちょっと矛盾するが、その中でのニジマス釣りを愛する人たちの多くはそのためにオショロコマが消えてゆくことはきっと望まないだろう。大自然のなかでの野生化ニジマス釣りもやりたい、継続させたい。しかしオショロコマも消えてほしくない。まさか渚滑川水系のオショロコマがそんな悲惨な状況に陥っているとは知らなかった。といったところが多いのではあるまいか。
ところで、この際、渚滑川水系のオショロコマは当然ながら地元滝上町民の独占物ではなく、さらには『 一部のニジマスマニアたちの為にはこの世から消えてしまってもかまわない生き物 』でもないことを、この際はっきり認識すべきであろう。
まずニジマスの無制限な放流を止めることだ。このまま無制限な放流を続ければ、ニジマスによるオショロコマの減少と一部の心ない釣り人たちの激しい釣り圧も加わって渚滑川のオショロコマは消える。
具体的には当面、『 洛陽の滝と滝上町内の落差堰堤の区間 』以外はニジマス放流をしてはいけない。当面、この閉鎖水域でもフライ、ルアー釣りは成り立つだろう。
渚滑川上流のオショロコマの主たる棲息域は、幸い、魚止めダムの滝西堰堤の上流で、こちらのほうのニジマス被害は、ダムの上流に放流しない限りは、なんとかなるだろう。
問題は支流サクルー川へのニジマス侵入・遡上をくい止めることだ。
現実問題としては、おそらく日本初の試みとなるとおもうが、治水等への影響など十分考慮し、慎重に場所を設定したうえでサクルー川下流域にニジマス侵入・遡上防止ダムを造ることを真剣に考えるべきだ。そのダムが機能すれば滝上町市内から滝西堰堤までの広大な水域をも安全なニジマス放流可能水域に設定できる。米国では上流域の在来種(貴重なカットスロートなど)を移植放流魚から守る為にこのようなダムが建造されている。
もともと滝上のニジマスC&R区間設定のアイデアは経済産業省の地域振興策の一環として発案されたものだ。その延長線上で考えれば緊縮財政の時代ながら、話の持っていきようでは簡易ダムの予算くらいはなんとかつくだろう。
ダム以外のニジマス侵入防止方法も工夫次第では生まれてくる可能性がある。その後はニジマス侵入が絶えたサクルー川水系の残留ニジマスを一気に駆除すればかってのオショロコマの楽園はもどる可能性が高い。今ならまだ間に合うような気がする。
経験上、20cm以上のニジマスは継続放流がなければ釣り圧で容易に消せる。細流、ボサ場は電気ショック器で対応できるとおもう。
さらにオショロコマ資源が回復するまではオショロコマ釣りは自粛してほしい旨の看板を各支流にたくさん立てることは、資源保護にかなりの効果が期待できる。
その一連の経過は全国的に有名になった北見市の山の水族館に匹敵するほどの、いわゆるマスコミ受けすることは必定。マスコミの力を借りて野生化ニジマス釣りのメッカ、かつ絶滅危惧種オショロコマのふるさと、虎虎オショロコマを守る滝上町といったアピールをすることは滝上町の将来にとって有利な売りになるとおもう。清流に無数のオショロコマが群れる観察スポット、オショロコマ公園等は容易に作れると思う。
今回の調査で、今のままのニジマス放流が続けば将来的に少なくともサクルー川水系のオショロコマは間違いなく消えることが予測された。
自然の宝庫渚滑川に外来魚ニジマス放流を最後まで続けてとうとうオショロコマを全滅させた滝上町といった汚名を子々孫々まで残すか、その逆か。残された時間はそれほど無いとおもいます。
渚滑川水系に特有のトラトラオショロコマ。虎虎オショロコマ。
今、危機にある渚滑川水系、特にサクルー川水系のオショロコマに関する調査報告は、いったんこれで終了です。
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2014年渚滑川水系ニジマス汚染調査総括
水交社が発行している月刊北海道の釣り(2014年1月号)の別冊付録渓流徹底ガイド第7弾の34頁に、興味深い一文があるので紹介したい。以下原文のまま。
ー 渚滑川を30数年ぶりに取材して、何とオショロコマの釣れないことかと、愕然としたことも事実です。ニジマスは当時も魚影が濃かった川ではありますが、昔と比べると現在の方が何十倍も濃いような気がします。これは放流とC&Rエリアの設定の賜といえるでしょう。反面在来種のオショロコマの魚影が激減してしまったのは残念としかいいようがありません。ー
この記事を見て、私がこのブログでしばしば危惧し、何度も強く指摘してきたことが渚滑川水系、特にもろにニジマス汚染の影響をうけるサクルー川上流で現実のものとなっている可能性が強く感じられたのであった。
もはや憶測でものを言っている場合ではない。強い不安感にかられると同時に、どうしても実際に自分の目で確認する必要があると思い遠路、北見からの調査釣り行となった次第である。
この場合、現状調査のみを行っても、その意味するところは恣意的にいかようにも判断可能であり意義は少ない。幸い、私たちは今から5-7年前に何度も渚滑川水系の各支流をまわりオショロコマ棲息状況の調査と撮影をおこない、当時の様子を知る記録を残している。これと、今回の調査データを比較検討することにより、初めて実態が把握できると考えた。
今回、2014年6月14~15日、2014年6月20~21日にかけて一泊二日の調査行を2回、4日をかけておおざっぱに渚滑川水系サクルー川各支流、およびサクルー川本流源流域のニジマス汚染状況を調査した。
私はオショロコマの棲息水域にはニジマスは本来存在するべきでないと考えているのであえてニジマス汚染という表現を用いた。
まず最初に気づいたことは渚滑川水系どの支流でもこの5-7年の間にオショロコマが激減ないし消滅していたという事実である。
その理由は多々考えられるが、自然環境にはほとんど変化がないということをひとつ念頭におく必要があると思う。原子川などは、美しい渓流は以前と同じくそっくりそのまま残っているのにオショロコマは壊滅状態であった。矢口川も川の環境はほとんど変化がないがオショロコマがほぼ消えてニジマスに置き換わっていた。南十五号川はオショロコマは壊滅、ニジマスに置き換わっていた。飯田川にもニジマスが侵入していた。最も衝撃的であったのはエダマサクルー川が魚無し川であったことだが、これとニジマスとの関連は今のところ不明であるものの、まったく無関係とは思われない。
ニジマス汚染はこれら支流のみならずサクルー川本流域でも進行し、源流域に近いオンコ橋上流まで多数のニジマスがみられていた。
オンコ橋上流数百mではニジマスが圧倒的優勢でいまにもオショロコマを全滅させるのではないかと思われる勢いであった。
サクルー川支流群の悲惨な状況のみならず、サクルー川本流域でもオショロコマはニジマスに追われ最源流域に向かって一気に後退している様子がうかがえる。
この現象はこの5-7年という、きわめて短期間に起こっており、何万年もかかって自然の摂理で形成されたアメマスとオショロコマの棲み分けのようなものとはまったく異なる。
これらの水域は川幅も狭く木々も覆い被さって、フライ、ルアーでの優雅なニジマス釣りにはまったく不向きな場所である。まさかこんなところにまでせっせとニジマス放流をしているとは思いたくない。そこにいるニジマスはおびただしい数の稚魚のほか、幼魚、若魚、そしてせいぜい30cmくらいまでの小型ニジマスである。
恐らくまだ雪深い早春、誰も知らない時期に大型ニジマスが雪解け増水を利用して群をなして産卵行動のため源流域に遡上し産卵を繰り返していると思われた。道東河川でのこれまでの観察では産卵後、大型ニジマスの群は誰にも知られることなく、あっと言う間に下流域へと去ってゆく。私はそのような現場をいくつも目撃し、報告していることはこのブログの読者の方たちなら周知されていると思う。
サクルー川本流の源流域では、はっきりどの付近からかは今回特定できなかったが、ニジマスが見られず、いまだオショロコマの天国をおもわせる狭い水域があった。というよりそのような小規模な水域がまだ奇跡的に残っていた。かってはサクルー川全域がオショロコマの天国であったわけで、源流域にオショロコマの聖域が多少残っていたから問題は無いという話にはならない。
歴史的にみると、実は1970年代にはサクルー川水系に重点的なニジマス継続放流が行われ、札久留橋の上流域を禁漁区として、サクルー川を完全なニジマス川に育て上げようという時期があった。
しかし、禁猟区としたがために、ニジマスがいることが広く知れ渡り、かえって多数の密漁者が入渓し、毎年ニジマスが釣り尽くされる事態となり、1980年頃までにその制度は頓挫、中止された経緯がある。
キャチアンドリリースという概念はそれを教訓に導入されたものである。
その後 放流とC&Rエリアの設定は監視などが容易な渚滑川本流域にその中心が移った。
1970年代にサクルー川に放流されたニジマスの影響は、私たちが渚滑川のオショロコマ撮影に入った2008~2010年頃には痕跡もなく、オショロコマ生息域にはニジマスの影はまったくなかった。
オショロコマの個体数は異常といえるほど多く、それこそいたるところにいくらでもいたという強い印象を受けている。
そのオショロコマが、たかだかこの5-7年でサクルー川から消えようとしている。おそらく、その後のニジマス放流の規模の大きさが相当なものであったことを示していると思われる。
この異常事態は、たった一人のオショロコマ研究家の意見に過ぎないと看過しないでほしい。こんな調査をしたのはまだ私一人であると思われ、できれば別の方にもぜひさらに精度の高い再調査をしていただきたいとおもう。
ところで、オショロコマ激減ないし消滅の原因をひとりニジマス汚染のみに求めてよいだろうか。私は釣り人による釣獲圧、釣り圧も相当なものではないかと考える。今回、それを示唆するような現場も見た。
ニジマスとオショロコマがいる場合、悲しい現実だが釣って楽しく食べておいしいニジマスを好む方は潜在的にかなりいるのではなかろうか。すなわち、従来は食味最低のオショロコマ釣りなどしなかった方々がニジマス狙いで渓流奥深くまで入るようになりオショロコマが混獲されている可能性があるとおもう。その結果、最終的にニジマスもオショロコマも消えてしまうことは、かなりの現実味を持って想像できる。当然確証はないが、南十五号川、矢口川、原子川、エダマサクルー川でのオショロコマ壊滅状況は、その気配を強く感じた。
また、オショロコマの食味のまずさを実感している地元の方々は別として、いわゆるイワナをとてもありがたがる本州方面の釣り客がニジマス釣りの合間に本気でオショロコマを釣るかもしれない。つい最近も日高山脈の千呂露川上流で絶滅危惧種オショロコマをビク一杯釣って大喜び興奮している東京からの釣り人が確認されている。
今現在の北海道各地のオショロコマの状況をみれば、そんなことをされたらオショロコマ資源はあっという間に枯渇する。養魚場での再生産がいくらでも可能なニジマス、ヤマベ、アマゴ、いわゆる養殖イワナなどと異なり、かぼそい自然再生産にひたすら頼らざるを得ない渚滑川水系のオショロコマが絶え間ない釣り圧で消えてしまうことは容易に想像できるだろう。
今回の調査で渚滑川水系において自然環境はほとんど変化がないにもかかわらずオショロコマの激減ないし消滅が確認されたが、その原因としてはニジマス放流とそれに関連する釣り人たちの釣獲圧が重大な役割を果たしているのではなかろうか。
これまでの調査では、サクルー川のニジマス汚染はオンコ橋上流域と飯田川を繋ぐラインまでで、それより源流方向ではニジマスがみられなかった。オンコ橋の上流域になにかニジマスの遡上を妨げる状況があるのか、生態的にニジマスがそれより上流域を嫌うのか、理由については色々推察は出来るものの、今のところ不明である。
また、これら水域のオショロコマが5-7年前と比べて激減している理由として、自然環境には変化がないことからニジマスのほかに釣り人による乱獲の影響も無視できないと思われた。
かっては釣り人の多少の乱獲などオショロコマの生態系にさほど影響を与えないほどの多数個体がサクルー川全域に棲息していたと思われる。しかし、今現在、そのオショロコマが釣り人により最後のトドメを刺されようとしている。その理由は一体何故だろう。
渚滑川へのニジマス放流容認派の方々の中には、今現在オショロコマとニジマスは棲み分けている ??? ので今後のニジマス放流を続けても問題はないだろうといった実に幸せな考えを持つ人がいるかも知れない。いくつかの支流ではすでに源流域にいたるまでオショロコマは消えている。確かに、今回の調査ではサクルー川本流の源流域約5Kmほどの水域においてはオショロコマのみでニジマスは見られなかった。
ところで、物は言い様とよく言われるが、前述のごとく、これは所謂、生態学的な棲み分けとは無縁の状況である。かってサクルー川全域に棲んでいたオショロコマが長年にわたって放流され続けてきたニジマスに押され押されて、ついには源流5kmの狭い範囲、まさに崖っぷちにまで追いつめられていると考えるべきである。
この5-7年の短期間に個体数がさらに激減したオショロコマの自然再生産能力は極限まで落ち込んでおり、このような状況では以前と異なり、極端な釣り人の釣獲圧には、もはや耐えることが不可能になり、ついに最後のトドメをさされ絶滅する寸前の危機にあると考えるべきである。
ニジマスとの混生水域には恐らくニジマス狙いの釣り人が入るため残り少なくなったオショロコマが混獲され、さらに絶滅に拍車をかける。このような経過でオショロコマがほぼ壊滅した可能性は、矢口川、原子川、南十五号川、さらにエダマサクルー川に見てとれるのではなかろうか。
それならどうしたら良いか。
大前提として、オショロコマをどう思うかということだ。
滝上町民2869名や年間4000名とされる釣り客の中にはニジマス釣りのためにはそんな雑魚などどうでもよいと考える人が全くいないわけではないと思う。私は何度もオショロコマの大切さを述べてきたがそんな人たちにとってはそれは馬の耳に念仏だ。
ただ、自然を愛し、ちょっと矛盾するが、その中でのニジマス釣りを愛する人たちの多くはそのためにオショロコマが消えてゆくことはきっと望まないだろう。大自然のなかでの野生化ニジマス釣りもやりたい、継続させたい。しかしオショロコマも消えてほしくない。まさか渚滑川水系のオショロコマがそんな悲惨な状況に陥っているとは知らなかった。といったところが多いのではあるまいか。
ところで、この際、渚滑川水系のオショロコマは当然ながら地元滝上町民の独占物ではなく、さらには『 一部のニジマスマニアたちの為にはこの世から消えてしまってもかまわない生き物 』でもないことを、この際はっきり認識すべきであろう。
まずニジマスの無制限な放流を止めることだ。このまま無制限な放流を続ければ、ニジマスによるオショロコマの減少と一部の心ない釣り人たちの激しい釣り圧も加わって渚滑川のオショロコマは消える。
具体的には当面、『 洛陽の滝と滝上町内の落差堰堤の区間 』以外はニジマス放流をしてはいけない。当面、この閉鎖水域でもフライ、ルアー釣りは成り立つだろう。
渚滑川上流のオショロコマの主たる棲息域は、幸い、魚止めダムの滝西堰堤の上流で、こちらのほうのニジマス被害は、ダムの上流に放流しない限りは、なんとかなるだろう。
問題は支流サクルー川へのニジマス侵入・遡上をくい止めることだ。
現実問題としては、おそらく日本初の試みとなるとおもうが、治水等への影響など十分考慮し、慎重に場所を設定したうえでサクルー川下流域にニジマス侵入・遡上防止ダムを造ることを真剣に考えるべきだ。そのダムが機能すれば滝上町市内から滝西堰堤までの広大な水域をも安全なニジマス放流可能水域に設定できる。米国では上流域の在来種(貴重なカットスロートなど)を移植放流魚から守る為にこのようなダムが建造されている。
もともと滝上のニジマスC&R区間設定のアイデアは経済産業省の地域振興策の一環として発案されたものだ。その延長線上で考えれば緊縮財政の時代ながら、話の持っていきようでは簡易ダムの予算くらいはなんとかつくだろう。
ダム以外のニジマス侵入防止方法も工夫次第では生まれてくる可能性がある。その後はニジマス侵入が絶えたサクルー川水系の残留ニジマスを一気に駆除すればかってのオショロコマの楽園はもどる可能性が高い。今ならまだ間に合うような気がする。
経験上、20cm以上のニジマスは継続放流がなければ釣り圧で容易に消せる。細流、ボサ場は電気ショック器で対応できるとおもう。
さらにオショロコマ資源が回復するまではオショロコマ釣りは自粛してほしい旨の看板を各支流にたくさん立てることは、資源保護にかなりの効果が期待できる。
その一連の経過は全国的に有名になった北見市の山の水族館に匹敵するほどの、いわゆるマスコミ受けすることは必定。マスコミの力を借りて野生化ニジマス釣りのメッカ、かつ絶滅危惧種オショロコマのふるさと、虎虎オショロコマを守る滝上町といったアピールをすることは滝上町の将来にとって有利な売りになるとおもう。清流に無数のオショロコマが群れる観察スポット、オショロコマ公園等は容易に作れると思う。
今回の調査で、今のままのニジマス放流が続けば将来的に少なくともサクルー川水系のオショロコマは間違いなく消えることが予測された。
自然の宝庫渚滑川に外来魚ニジマス放流を最後まで続けてとうとうオショロコマを全滅させた滝上町といった汚名を子々孫々まで残すか、その逆か。残された時間はそれほど無いとおもいます。
渚滑川水系に特有のトラトラオショロコマ。虎虎オショロコマ。
今、危機にある渚滑川水系、特にサクルー川水系のオショロコマに関する調査報告は、いったんこれで終了です。
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