デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

セルダン・パウエルの華麗な経歴

2013-07-21 09:23:06 | Weblog
 多くのビッグバンドが存在したスウィング・ジャズ全盛期のころ、プレイヤーは楽器ひとつ抱えてバンドを渡り歩くのが常だった。一番の理由はギャラだが、なかには全米を回るツアーに嫌気がさしたり、金銭や女性を巡ってリーダーやバンド仲間とトラブルになることもある。リーダーも心得たもので、他のバンドから引き抜いたり、補充するプレイヤーを用意をしていたという。それだけ層が厚かったのだろう。

 幾つのもバンド経歴があるプレイヤーは、このようなトラブルを抱えて棲家を変えているが、実力と人柄を買われて次から次へと引き抜かれたテナー奏者がいる。49年にベティ・メイスのバンドを皮切りにラッキー・ミリンダー、サイ・オリヴァー、ニール・ヘフティ、ジョニー・リチャーズ、ウディ・ハーマン、バディ・リッチ、クラーク・テリー等々、所属したバンドを全部挙げると下段まで埋まるのはセルダン・パウエルだ。明らかにレスター・ヤング系だが、レスターほど繊細でないかわりに豪快な一面もあり、持ち替えでフルートもこなす。多面性があるプレイヤーは、バンドを色づけするのに格好な人材といっていい。

 そのほとんどをバンドマンとして過ごしているのでリーダー作は少ないものの、このルースト盤は中型コンボをバックに速い曲は豪快に、バラードは繊細にと緩急自在のパウエルを堪能できる。なかでもガーシュウイン兄弟の「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」が白眉だ。この曲の名唱といわれいるリー・ワイリーが、もしテナーを吹いたらこんな感じかもしれないと思うほどよく歌う。手元に歌詞カードがあればパウエルに合わせて歌ってみよう。理想の恋人との出会いを夢みる女心を描いた歌詞は、ある程度の歳になると恥ずかしくて歌えないものだが、歌うテナーが上手にリードしてくれる。

 パウエルの活躍はビッグバンド全盛期を過ぎてもセッションやスタジオの仕事という形で続くが、68年には何とコマーシャリズムに魂を売り渡したとまで酷評されたアルバート・アイラーの「New Grass」に参加している。更に76年にはアンソニー・ブラクストンの「Creative Orchestra Music」で、フリージャズ・ミュージシャンと渡り合い、86年にはミリー・ヴァーノンの歌伴を務めていた。華麗な経歴は相手を選ばない。
コメント (19)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 勤勉なベン・タッカー | トップ | 唸り声のセンチメンタル・ム... »
最新の画像もっと見る

19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー・ベスト3 (duke)
2013-07-21 09:34:48
皆さん、今週もご覧いただきありがとうござます。

「やさしい伴侶を」や「誰かが私を見つめている」という邦題が付いている「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」は、ガーシュウィン兄弟が1927年にミュージカル「オー、ケイ」のために書いた古い曲ですが、今でも愛されているスタンダードです。今週はインストでお気に入りをお寄せください。ヴォーカルは機を改めて話題にします。

管理人 Someone To Watch Over Me Best 3

Seldon Powell (Roost)
Pat Moran / This Is (Audio Fidelity)
Ben Webster / See You At The Fair (Impulse)

他にもズート・シムズ、オスカー・ピーターソン、日野皓正等々、多くの名演があります。

今週も皆様のコメントをお待ちしております。

Bill English, Seldon Powell - A Blues Serenade
http://www.youtube.com/watch?v=o82fbGbcHYg

ケニー・バレルの「ミッドナイト・ブルー」や、ベニー・グリーンの「Walking Down」に参加しているドラマー、ビル・イングリッシュがリーダーですが、パウエルが主役といっていい内容です。
余談ですが、ビル・イングリッシュはディオンヌ・ワーウィックが伴侶だったときもあります。
返信する
どうか、やさしい伴侶を・・ (BreakN’Bossa)
2013-07-22 22:33:54
dukeさま、こんばんは。

「やさしい伴侶を」まさしく今の僕の気持ちじゃあございませんか^^;
“幸せになってほしいナ・・”中年は寂しく見守るのみなんであります。

というわけで僕なんかがコメントしていいのかしらん・・と思いつつ、
YouTubeから目についた名演を。パッと思いつかないのはもう歳か。。

Ben Webster “SEE YOU AT THE FAIR”(impulse-1964)
この煤けた味わいがせつなくてイイんですよネ、郷愁をさそいます。
http://www.youtube.com/watch?v=O4SAvQKUnLI

Donald Byrd “BYRD’S WORD”(SAVOY-1955)
トランペットで朗々をやられるとコレまたグッときます、ヨイなぁ。。
http://www.youtube.com/watch?v=5GJXN450MtI

McCoy Tyner“REVELATIONS”(BlueNote-1988)
リラックスしたピアノソロも似合います、しみじみイイ曲だなぁ・・と。
http://www.youtube.com/watch?v=KoowlIceRNM
返信する
ボス・テナー (azumino)
2013-07-23 00:10:33
こんばんは

Someone To Watch Over Me(優しき伴侶を)は、メロディがよくて、名曲中の名曲だと思っています。結構手元にあったのですが、挙げたくなるのはメロディを際立たせて、それに続くソロもよいアルバムで、テナーサックスがらみです。

①Stanley Turrentine / Comin' Your Away (Blue Note)
②Gene Ammons / Nice an' Cool (Moodsville)
③Donald Byrd / Byrd's Word (Savoy)


①、②は、新旧のボス・テナーといったところでしょうか。もっとも、タレンタインはボス・テナーと認知されているのかどうか。①は、遅い発売でしたが、内容は全く遜色ありません。③は、バードのアルバムですが、フランク・フォスターがテナーを吹いています。
返信する
誰かに見られている・・・ (SHIN(4438miles))
2013-07-23 12:51:44
・・・まるで覗きの常習犯のような題名だ。

ズート・シムス/ズート・シムズ&ザ ガーシュインブラザーズ(Pablo)
Stanley Turrentine / Comin' Your Away (Blue Note)
キース・ジャレット/メロディ・アット・ナイト・ウイズ ユウ

この三枚かな・・。
レーガン大統領の映画でも使われたり、色々な映画に挿入されることがある。

ところで、映画「誰かに見られている」の中でクラブシーンでテナー奏者がこの曲を吹くが、これはジーン・アモンズのレコードのアテレコだそうだ。
でもこのGene Ammons / Nice an' Cool (Moodsville)では無いような気がするのだが・・・・正解や如何に?

良い曲だけど、歌詞の意味を知ってしまうと、簡単にジャズオケなのでは歌えない曲。やはりインストでメロディラインを楽しむとするか・・・
返信する
釈迦に説法ながら・・ (BreakN’Bossa)
2013-07-23 19:19:52
“Watch Over”には「見守る」というニュアンスがあるんでは?大学受験で英語だけは得点源だったんですが・・。えっ?その頃がピークでした。。っていうオチなんですけど^^;
返信する
Watch Over (duke)
2013-07-23 19:38:50
BreakN’Bossa さん、こんばんは。

タイムリーなタイトルだったようですね。「やさしい伴侶を」という邦題はジーンときます。

YouTubeからの音源をご紹介いただきありがとうございます。

ベンは私も挙げましたがハンク・ジョーンズのイントロから訥々と語りかけるベンは深い味があります。

バードもありましたね。こちらもハンク・ジョーンズのピアノですが、エネルギッシュです。このアルバムはスターアイズがベストトラックと思いますが、こちらもいいバラード表現をみせます。

マッコイは80年代後半ということもあり、ソロピアノの奥深さを悟ったような演奏です。

“Watch Over”には「見守る」という意味もあるようですね。BreakN’Bossa さんのように私も英語力はその時代を超えられません。(笑)
返信する
テナーサックスがらみ (duke)
2013-07-23 20:00:04
azumino さん、こんばんは。

多くの名演がありますので、割れるのは予想しておりましたが、テナーサックスがらみできましたか。

タレンタインはボス・テナーと呼ばれることは少ないようですが、アモンズやジャケーの流れを汲んでおりますので、そう呼んでもいいのかもしれません。

タレンタインはホーレス・パーランのイントロが印象的ですね。アモンズはバラードの名手だけあり歌いますし、特に歌物は歌詞をかみ締めるようにじっくり吹いているようです。ともに本国に比べて人気もありませんし、評価もされませんが、このあたりを聴き込むとジャズの違った楽しみを味わえるような気がします。

フランク・フォスターはコンボではビッグバンドとは違う一面をみせますね。
返信する
恋の乱戦 (duke)
2013-07-23 20:13:07
SHIN さん、こんばんは。

タイトルは見方を変えるとそんな感じにもとれますね。

ズートは何を吹いてもズートらしさがありますが、この曲は特にそのらしさが出ております。

キースとは珍しい選出ですが、一応聴いておりますよ。(笑)何を弾いてもキースですね。

レーガン大統領の映画は「恋の乱戦」ですが、内容は想像付きます。映画「誰かに見られている」は観ておりませんが、ものの本によりますとジーン・アモンズのレコードを使ったとされておりますね。「Nice an' Cool」以外のアルバムでもこの曲を取り上げているのかもしれません。
返信する
良い曲ですね (KAMI)
2013-07-24 14:00:13
dukeさん、こんにちは。
お気に入りです。
Seldon Powell
Domino/Roland Kirk
My Favorite Instrument/Oscar Peterson(邦題 ソロ)
返信する
隠れ名盤 (duke)
2013-07-24 19:50:06
KAMI さん、こんばんは。

セルダン・パウエルがトップとは嬉しいですね。地味ながらこのアルバムは何度も再発されている隠れ名盤ですが、ベスト・トラックはこの曲と思います。短い演奏ながらドラマチックです。

カークはCDに収録されたものですね。レコードしか持っておりませんので聴いておりませんが、このアルバム自体好内容ですので良い演奏と思います。

そしてピーターソンのソロが挙がりましたね。MPSの録音の良さもあり鍵盤の一音一音が鮮明に響いてきます。
返信する
誰かにみとれている (BreakN’Bossa)
2013-07-25 20:46:18
dukeさま、たびたび失礼いたします、ちょっとお詫びを^^;

SHINさまは映画の題名のことを仰っていたんですね、失礼しました。“誰かがみとれている”であれば、それは僕のことです。神様が遣わされた天使のような方に出遭ったら、誰しもそうなるんじゃないでしょうか。彼女はクリスチャンではないのかもしれませんが、その理想とする生き方をあたりまえに実践されています。その眩いばかりの輝きに清々しい感動を覚えずにはいられません。彼女の存在そのものが“癒し”なのです。

僕はいずれ上智の神学部に学ぶことを考えています。学力的には問題ないにせよ、社会人の自分が受入れてもらえるかはわかりません。若い方をさしおいて自分のような者が少ない定員を占めてしまうのも気が引けます。でも学びたい。『坂道のアポロン』で神に仕える身となった千太郎ではありませんが、残りの人生、ささやかながら有意義なことに使って終えたいと思っております。独身で、却ってよかったのかもしれません^^;

そうそう、『坂道のアポロン』の律子の“律”は、「旋律」の“律”であるとともに「律法」の“律”ですね。彼女はクリスチャンでした。エデンの園を思い起こさせる、祝福すべき名前です。
返信する
ジャズコミック (duke)
2013-07-26 19:13:43
BreakN’Bossa さん、再度ありがとうございます。

上智の神学部に学ぶとはいいことですね。学びに歳は関係ないと思います。

「坂道のアポロン」は観ておりませんが、面白そうですね。ジャズを題材にしたコミックに細野不二彦の「Blow up!」がありますが、これも面白かったですよ。
返信する
最下位争い (M54)
2013-07-27 11:54:41
dukeさん、こんにちは。
今年はいけませんねーお互い(泣)

Bud Powell - Jazz Original(Norgran)
誰からも挙がりませんでしたので・・
パウエルは何を演っても味わいがありますね。

KAMIさんから挙がりました、カークは未聴です。是非とも聴きたいなー! また何本か咥えてますかね(笑)CDしかないのでしょうか?


返信する
今夜は勝とう (duke)
2013-07-27 13:07:47
M54 さん、こんにちは。

昨夜も福岡で負けました。負け癖がついたのかもしれません。今日はナイターですので、デイ・バイ・デイで経過を見ながらライブを楽しみます。

パウエルもありましたね。バップナンバーではありませんが、パウエルが弾くとそう聴こえますね。

カークはCDだけの収録です。何本か咥えているでしょう。こればかり聴いていると1本では物足りなくなります。(笑)
返信する
本日決定!サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー・ベスト3 (duke)
2013-07-27 13:11:06
今週もコメントをお寄せいただきありがとうございました。

Someone To Watch Over Me Best 3

Seldon Powell (Roost)
Stanley Turrentine / Comin' Your Away (Blue Note)
Zoot Sims and the Gershwin Brothers (Pablo)

やはり多くのプレイヤーが取り上げている曲ですので割れました。決定的名演がないかわり、どの演奏も高水準ということでしょう。
今宵はお気に入りの伴侶とこの曲をお楽しみください。
返信する
ギターがらみで3枚 (A.tomy)
2013-07-27 16:28:25
こんにちは。大好きな曲です!

が、送れちゃいました。滑り込みアウト!

・ステファン・グラッペリ「SKOL」
 オス・ピも、ジョー・パスも、ペデルセンのふっくらベースに包まれて。

・ジョニー・スミス「ムーズ」
 この季節、ギターの音色が似合うような気がします。

・ルネ・トーマ「ザ・リアル・キャット」
 「Jazz in Paris」シリーズにて。
返信する
自分を捨てること、人を信じること (BreakN’Bossa)
2013-07-27 20:57:11
> 学びに歳は関係ないと思います。

dukeさま、こんばんは。そう言って頂けて嬉しいです。何て言われるのか不安で貴ブログを見ることができないでおりました^^;

僕をそういう気持ちにさせてくれたのは件の娘さんです。一万人に一人とか、十万人に一人とか、そういう自分より遥かに上の方に出遭うと、人生観が変わります。彼女は人を信じることの大切さを知っている。いい人すぎて心配になるほど。でも、だからこそ、あんなに美しいのです。

一方で粗野でどうしようもない人間もいます。世の大半はそういう連中かもしれません。今日はdukeさま青春の地で、すれ違いざま何かが触れたとかで喧嘩になっていて悲しくなりました。それが現実です。やはり「自我意識」こそが諸悪の根源ではないのかと思わずにはいられません。

色々とコメントしてしまい失礼致しました。今後は控えますのでお許しください。それから細野不二彦さんのマンガ、御紹介頂きましてありがとうございました。読むのが楽しみです^^
返信する
ギターを伴侶に (duke)
2013-07-28 10:38:49
A.tomy さん、こんにちは。

ギターがらみで挙げていただきありがとうございます。

ステファン・グラッペリのアルバムは名手揃いですが、固さはなく温かい演奏ですね。

そして、ジョニー・スミスの音色は涼しげでおっしゃるようにこの季節にピッタリです。「ウォーク・ドント・ラン」はベンチャーズに限ると思ったアルバムです。(笑)

「Jazz in Paris」シリーズは何枚か持っておりますが、ルネ・トーマは聴いておりません。元音源をレコードで所有しているかもしれませんので探してみましょう。
返信する
夢とロマン (duke)
2013-07-28 10:46:28
BreakN’Bossa さん、幾つになっても学ぶことは大切なことだと思いますよ。そして、夢とロマンを忘れないのも大事ですね。

昨夜もススキノに出ておりましたが、つまらないことで揉めているのを見ました。酒が入ると気が大きくなるのでしょう。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事