Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

「私を離さないで」

2011年04月15日 | 映画


英国で最も権威ある文学賞と言われるブッカー賞を受賞した
カズオ・イシグロの同名小説を映画化。

カズオ・イシグロという人は、日本生まれの日本人であるのに(その後イギリスに帰化されたそうですが)
英語で小説を書き、その作品は翻訳物の棚に並べられています。
受賞作「日の名残り」は、没落した貴族の館に住む老執事と女中頭との
恋とも呼べないような淡い感情と、斜陽階級の誇りや伝統、哀れさを絡めた作品。
一体どんな人なのだろうと思っていたら
先日朝日新聞の記事に出ていました。
海洋学者の父親の都合で1歳の時に英国に渡り、いまや英国に帰化したのだそうです。
日本人でも英国人でもなく、いつも自分のアイデンティティを探していたと。
その彼の、目下最高作と言われている「私を離さないで」。

私は以前に本を読み、そして映画を観たのですが
なんとも複雑な感想で、文字にしにくいのです。
英国の郊外にある全寮制の学校「ヘールシャム」。
健康を厳重に管理され、世間から隔離されて育つ子どもたち。
キャシー、トミー、ルースの友情と恋愛と嫉妬が交錯するのですが
彼らは普通の子どもたちではなかった。
クローンとして生まれ、やがて臓器を提供する運命にある。
読みながら味わった、ざわざわと粟立つ不安、鳥肌が立つような恐怖が
映画では早くに理由が説明された分、少なかったような気がします。
でも、なんでそこで怒らないの?なんで逃げてしまわないの?と読みながら抱いた疑問が
映画でもまったく解明されなかった。
いかにクローン人間であるとはいえ、
彼らにも感情があり、怒りも悲しみもあり、当然恋愛もするのに。
しかし彼らは「提供者」「介護人」そして「終了」という運命を
粛々と受け入れている。


「宿命」を「受容」することの「諦念」がテーマか。
それは美しく気高いけれども、なんとも歯がゆく、無残で残酷です。
それでよい筈がないと叫びたい私がいる。
英国の緑深い田舎、船が打ち上げられている灰色の海辺の美しいシーンに重なって
なんとも後味の悪い、切ない気持ちがこみ上げてくるのです。
彼らには「提供者」になる以外、自分のアイデンティティを確かめる術が
なかったのかもしれない。
でも、他に選択肢はなかったのか、他に取る手段はなかったのか、
もっと暴れればよかったのじゃないかと彼らを責めたくもなる。
しかも、今はこんな時期だけに
福島原発の20キロ圏内の、あの荒涼とした景色にも思いが重なってしまう。
これでよい筈がない、と。


本の世界をそのまま映像化することに成功した珍しい作品の
ひとつであると言えると思います。
というより、本を読んだとき私が入り込めなかった世界が
映画の中にもそのまま存在したと言うべきかもしれない。
ギャラリーの存在は、私には最後まで謎でした。


「私を離さないで」 http://movies.foxjapan.com/watahana/
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする