極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

核心を掴む。

2012年11月04日 | 開発企画

 


 

 

   空が興奮の色に染まったその朝、一刻も早く机に向かいたくて
   早いうちから彼は目を覚ました。トーストと卵を食べ、煙草をふかし
   コーヒーを飲みながら、これからとりかかる仕事についてずっと考えていた。
   森を通り抜ける険しい道のり。風が空の雲を
   吹き飛ばし、窓の外の枝にわずかに残った木の葉を
   ぱたぱたとふるわせた。彼らに残されているのはあと数日。
   数日ののちには、木の葉は消えてしまう。そこにはひとつの詩があるな、たぶん。
   そのことを考えてみなくては。彼は机の前に
   座り、長いあいだ迷っていたのだが、やがてひとつの
   決断をした。それは結局、その日に彼がなした
   もっとも重要な決断であった。彼の欠陥だらけの人生が彼のために用意した
   何ものか。彼は詩の収められた紙ばさみをわきに押しやった。 

   とくにその中のひとつの詩は、寝つかれぬ夜を過ごしたあとでも、彼の心をまだ
   しっかりとつかんでいたのだけれど(でも結局のところ、ひとつくらい増えても
   減っても、なんていうことないだろう。どうせまだしばらく日にちはかかる
   んだものな)。彼の前には手つかずの一日が広がっていた。
   まずは周辺を整理しておいた方がいいな。現実の用事をいくつか片づけて
   しまおう。長いあいだほったらかしにしていた家の雑用もすませて
   おこう。さあやるぞ。その日一日、彼は必死に働いた。
   そこには愛憎乱れる感情が入り込み、憐れみの心が少し(ほんの少し)あり、
   仲間意識があり、絶望と喜びさえあった。
   彼の人生の遥か彼方にいる人々とか、これまでに会ったこともなければ
   これから会うこともないであろう人々に向かって手紙を書いていると、
   そして「イエス」とか「ノオ」とか「ことと次第によって」とか返事をし
   許諾の、拒絶の理由をいちいち説明していると、時折憤怒の念が勢いよく
   燃え上がったが、それもやがてすうっと消えていった。こんなことって
   果たして大事なのかな? 何かそこに意味があるのかな?



    大事な場合もあるにはある。彼は電話を受け、電話をかけた。おかげで
    追加の電話をかける必要ができてしまった。誰々さんに電話をかけると、
    すみません今は話せないんです。明日こちらからかけますから、という答えが返ってきた。
    日が落ちる頃にはもうくたべた、一日かけてまっとうな労働に似た
    ようなことをしたという手応え(でももちろんそいつは錯覚)を感じつつ
    一服して目録を作り、もし物事をおろそかにしたくなかったなら、
    そしてもうこれ以上手紙を書きたくなかったら
    -書きたくなかった-明朝かけなくてはならない
    二、三の電話をメモした。そうこうするうちに、
    やれやれこんなこともううんざりだな、と彼はふと思った。でもとにかく最後まで
    やっちまおう。数週間前から延ばし延ばしにしていた手紙の返事をひとつ
    書いてしまうのだ。それから彼はふと顔を上げた。外はもう暗い。
    風はやんだ。木々も-今ではもうしんとしている。木の葉はあらかた
    もぎとられてしまった。でもこれでようやく、一件落着。
    彼が目をそらしつづけている詩の紙ばさみをべつにすればという

    ことだが。彼はとうとう紙ばさみを引き出しに入れて、目につかない
    ようにする。うん、これでよし。引き出しの中なら安全だし、その気になれば
    すぐに取り出せる。すべては明日だ。今日できることは洗いざらいすませた。
    あと何人かに電話しなくちゃならないし、
    よくわからない誰かから電話がかかってくるはずだ。電話のおかげで
    短い手紙を何通か書くことになった。
    でもやれやれ、やっと片づいた。これでなんとか森の中からは抜け出せた。
    お疲れさま。これで枕を高くして寝られるというものだ。
    やらなくてはとずっと気になっていたことなのだ。彼の義務感は満たされる。
    彼は誰をも失望させなかった。
    でも整頓された机に向かっているそのときに
    朝のうち書こうとしていた詩の記憶がさわさわと
    彼の心を悩ませた。それにもうひとつそこには、置き去りに
    してしまった詩があるのだ。

    大事なのはそいつじゃないか。それ以外のあれこれなんて実に
    取るにもたりないことだ。なのにこの男は一日じゅう電話でべらべら
    お喋りをしたり、阿呆な手紙を書いたりしていて、そのあいだ
    ずっと彼の詩は投げ出され、放りだされ、見捨てられI
    それどころじゃない、試みられてさえいない。この男には詩なんてもったいないぞ。
    こんなやつに仮にも詩心と名のつくものが宿ってよいものか。
          この男の詩が、もしこれ以上この世に生み出されるとしたら、
    そんなもの鼠にでも食われてしかるべきだな。


                                                             レイモンド・カーヴァー “ One more”        
                                                             村上春樹 訳 『もうひとつぐらいは』

 

  Brasato

 【イタリア版食いしん坊万歳:ブラサート】 

ブラザートとは、北イタリア・ピエモンテ州の郷土料理。ピエモンテ州の郷土料理は肉と野菜、
バターやチーズなどの乳製品が中心。ブラザートは牛肉の塊を赤ワインに漬け込み、周りに焼
き色を付けて、コトコト煮て作る。Brasato とは、イタリア語で(炭)という意味のブラーチェ
brace の古い呼び方のブラーザ brasaが語源。山間の地方の典型的な家庭のごちそう料理で暖
炉の炭の上に鍋をのせ肉を煮込む。ピエモンテ州のワインのバローロをふんだんに使って作る
ブラザート・アル・バローロ(Brasato al Barolo) が有名。付け合わせの定番はポレンタやマ
ッシュポテト。


材 料:牛肩肉(塊肉)1kg、赤ワイン1本、玉葱1ヶ、人参 1/2本、セロリ 1/2本、ニンニク
    2片、ローリエ3枚、クローブ3ヶ、ベーコン100g、バター50g、オリーブ油 適量
    水 200cc、小麦粉 適量、塩、胡椒

作り方:人参、セロリは皮をむき、1cm角位にカットし、玉葱も同様に切りとる。牛肉はタコ
    糸等で縛り、全体に塩、胡椒をすり込むようにして肉となじませる、器に肉と野菜と、
    にんにく、ローリエ、クローブを入れ、ワインを注ぎ、ラップなどをかぶせる。途中、
    肉を裏返して、冷蔵庫で一晩寝かす。肉を取り出し、野菜と漬け汁をザル等で分ける。
    漬け汁は捨てない。肉の水分をよくふき、小麦粉をまぶしテフロンのフライパンにオ
    リーブ油、バターを入れて、ベーコンと肉をこんがりと焼く。途中、野菜も加え焼き
    焼けたら、漬け汁とともに、鍋の中に入れ、水も入れ、いったん沸騰させアクを取る。
     弱火にして約3時間煮る。肉が柔らかくなったら、取り出して、煮込んだ汁をザル等
    で漉する。




さて、短歌が書けず、カーヴァーの詩のみを選び掲載してきたが、いましばらくこれを続けて
いこう。今朝、やっと中間バンド型量子ドット太陽電池の考察をすませた。これで太陽光発電
る再生可能エネルギーで自立する目途がつき、贈与経済の実現が可能となる。爽やかな気持ち
で満ちる。さぁ~~~行動だ!

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