<金曜は本の紹介>
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「日本人というリスク」という本は、戦後の日本人が信じている以下の4つの神話について分かりやすく詳しく説明があり、そしてその4つを前提としたポートフォリオはリスクがあって個人の人生にとてつもない災厄をもたらす可能性が高いと警鐘しています。
(1)不動産は上がりつづける
(2)会社はつぶれない
(3)円はもっとも安全な資産だ
(4)国家が破産することなどありえない
確かに日本ではマイホームを持つのが普通というか安心という風潮ですが、無理をしてマイホームを買ったとしても不動産価格が下がれば負の資産ですし、それで働いている会社が潰れればローンを払えなくなり、家を売ったとしても借金が残り、飛んでもないことになってしまいますね。
また、アベノミクスでの金融緩和がもっと進んだり国家財政破綻になれば、円安・インフレとなって銀行預金やタンス預金は大きなダメージを受けることになります。
今までは円高だったから、タンス預金は正解だったんですね。
本書では、ではこれからどのような金融資産を持てばよいかについて書かれています。
その中で、少しでも豊かになりたいという欲望によって株式市場は拡大するのであるから、株式投資はゼロサムではなくプラスサムとして優れた金融資産であり、その中でも世界株投資は個人にとって最強の投資法とのことです。
世界全体の視点で株式市場が拡大するのであるから世界全体で投資できれば、個別銘柄のように倒産するリスクは限りなく少ないためです。
具体的には、ACWIはエマージングを含む世界中の主要株式市場を時価総額に応じて保有したもので、しかも通貨の分散まで勝手にやってくれるので特に優れているようです。
また、日本株を別に持っているのであれば、そのACWIから日本市場を除いた株価指数に連動するETFとして「上場MSCI世界株(1554)があるので、それを持つのが良いとのことで、私もこれから検討したいと思います^_^)
また本書では、以下の提言についても書かれていて、考えさせられます。
・日本のこれからの政策としては、厚遇となっていることから国だけでなく地方も含めた公務員の給与の減額が必要
・物価水準に合わせて年金の支給額を減額すること
・年金の世代間格差の不公平性をなくすこと
・定年制廃止、同一労働同一賃金を原則化、一定額の金銭を支払うことを条件に整理解雇を認め、流動化を図ったほうが日本全体でプラス
「日本人とうリスク」という本はとてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・1697年にオーストラリアでブラックスワン(コクチョウ)が発見されるまで、西欧のひとたちはスワン(ハクチョウ)とは白い鳥のことだと信じていました。英語ではブラックスワンは「ありえないこと」「起こり得ないこと」の比喩で、無駄な努力をすることを「ブラックスワンを探すようなもの」といったのです。旧世界では、何千年にもわたって何百万羽ものハクチョウが観察され、羽根の色が白いことが確認されてきました。この当たり前のことが、たった一羽のブラックスワンによって完全に覆されてしまったのです。文芸評論家でヘッジファンドのトレーダーでもあるナシーム・ニコラス・タレブは「ブラック・スワン」(ダイヤモンド社)で、黒い鳥の特徴を3つ挙げています。
①異常であること。つまり、過去に照らせば、そんなことが起こるかもしれないとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。
②とても大きな衝撃があること。
③異常であるにも関わらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。
タレブは歴史上のブラックスワンの例として、インターネットの普及や1987年の株式大暴落(ブラックマンデー)、2001年9月の同時多発テロを挙げ、「ひと握りのブラックスワンで人間の世界がほとんど説明できてしまう」と述べます。もちろん今回の大震災と、それにつづく福島第一原発の事故も典型的なブラックスワンです。黒い鳥が現れるまで、私たちはずっと「原発は安全でクリーンなエネルギー」だと聞かされてきました。スリーマイル島やチェルノブイリで過去に深刻な原子力災害が起きていますが、これらは原子炉の仕組みが違っていたり、安全基準が劣っていたためで、日本では直下型の大地震が起こっても原子炉は安全に停止し、放射能が外部に漏れ出るようなことはありえないとされてきました(定義①)。原発の安全性がことさらに強調されたのは、いったん大事故が起これば、その影響ははかりしれないからです(定義②)。事故が現実に起きると、「想定外」との弁明を繰り返す政府や電力会社に対して強い批判が起きました。日本では1970年代から反原発・脱原発の市民運動があり、事故が起きてみれば、それを「予測」していたひとはいくらでも見つかりました(定義③)。ブラックスワンの発見が、「ハクチョウは白い鳥」という常識を覆したように、福島第一原発の事故は、原子力発電の安全神話を跡形もなく葬り去ってしまいました。
・ほとんどの人が忘れてしまっているでしょうが、1997年にも私たちは巨大な黒い鳥と出遭っています。97年7月、タイのバーツ暴落をきっかけに東アジア・東南アジア諸国を未曾有の通貨危機が襲いました。不動産バブルが崩壊したタイは失業者が街に溢れ、IMFの救済を仰いだ韓国ではほとんどの財閥が消滅し、インドネシアは食料価格の高騰で暴動や内乱が頻発し国家解体の瀬戸際まで追い込まれました。金融危機は日本にも飛び火して、11月には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が相次いで経営破綻しました。翌98年8月にはロシアが資本流出に耐えられずデフォルトに陥り、世界の金融市場はふたたび大混乱に陥りました。これがいったん収まりかけていた日本の金融不安を再燃させ、10月には日本長期信用銀行が、12月には日本債権信用銀行が破綻しました。人類史上はじめてのグローバル経済危機が起きた翌年、日本の自殺者数は前年の2万4391人から3万2863人へと大きく跳ね上がりました。この現象は当初、経済不安による一過性のものとして、たいして気にもされませんでした。しかしその後も日本では、年間3万人超が自殺する異常事態が続いているのです。
・月額家賃30万円で家を借りていると聞けば、だれもがもったいないと思うでしょう。しかしこの物件の市場価格が1億円だとすれば利回りは年3.6%で、実質利回りの平均(5%)を大きく下回っています。これが高額の賃貸物件に住む資産家がいる理由で、彼らは割安な不動産物件を借り、資金をより利回りの高い収益機会に投じたほうが有利だということを知っているのです。不動産業界の人たちが賃貸物件に住んでいる理由もここから説明できます。
・日本には借り手に極めて有利な借地借家法があり、いったん賃貸借契約を結んでしまえば、借り手が賃料を払い続けている限り、家主は退去を求めることはもちろん、賃料を値上げすることすら極めて困難です。これは借り手が実質的に不動産を所有しているのと同じことですから、安い賃料で家を借りられた人にとっては法外に有利な取引です。戦後すぐに都心の一等地で借家生活を始めた人たちが典型で、バブル期には億を超える立ち退き料を手にすることができました。しかしその一方で、家主が借り手に不動産を「所有」されるリスクを織り込むため、それが賃料に上乗せされて家賃が高くなるという問題が指摘されてきました。日本の不動産賃貸市場では、契約時に礼金を支払い、その後2年ごとに更新料を払うのが一般的ですが、こうした慣習は海外にはないため、日本で暮らす外国人が増えるにつれてトラブルが頻発しています。礼金や更新料が消費者契約法に違反するのではないかという訴訟も数多く起こされ、礼金は賃料の一部として認められたものの、更新料については高裁で違法との判断も出ています。礼金や更新料によって、家主は不動産を実質所有されるリスクを減らし、借り手の回転率を上げて収益を最大化できます。そのために最適なのは長く住むと不快になる物件ですが、さすがにこれでは借り手がつかないので、転居の多い一人暮らし用のワンルームマンションに投資が集中することになりました。これが、日本にはファミリー向けの良質な物件が少なく賃貸事情が劣悪だといわれる理由ですが、それはわずかな賃料で不動産を「所有」できるメリットと背中合わせなのです。
・首都圏でも、かつては分譲用だった物件が大量に賃貸市場に出回るようになり、たとえば東京都下で鉄道の駅からバス便が必要な地域なら、月額5万~6万円で2LDKのマンションが借りられます。これはバンコクやクアラルンプールとほぼ同じか、それよりも安い水準ですかr、賃貸物件の供給過剰と不動産市況の悪化によって、「世界一高い」といわれた日本の生活コストが大幅に下がったことがわかります。地価が恒常的に下落している日本では、賃貸生活が有利になる一方で、マイホームはますますハイリスクな投資になってしまったのです。
・私たちが家の「所有」に特別に高い価値を置くのは、「縄張りをつくれ」と本能が命じるからです。マイホームを購入した人が、「賃貸のときは不安だったけれど、思い切って家を買ったことで安心できた」と口々にいうのも、この縄張り感覚から理解できます。ところがこの感情(縄張り感覚)は無意識のものですから、論理的に説明することができません。そこで、(家を買うという)自分の判断を正当化するために、「男は家を持って一人前」とか、「マイホームは私のお城」とか、さまざまな後付けの理屈が生まれてくるのです。
・日本の地価はバブル最高値から15年間で4分の1に下落してしまいました。それから考えれば、80年代後半から90年代はじめにマイホームを購入した何百万人ものひとたちが債務超過のバランスシートを抱えていることになります。もちろんバランスシートが債務超過になっても、住宅ローンを払い続けている限りは不動産投資のリスクは顕在化しません。しかしいったん職を失ってしまうと、マイホームを売っても住宅ローンの残債を返済できませんk、人生の経済的な基盤を一挙に失ってしまいます。私たちがマイホームのリスクから目を逸らすのは、この事実を直視するのが不快だからです。いちど、地元の裁判所に不動産競売物件を見に行くといいでしょう。そこには夢の残骸が、墓標のように並んでいるはずです。
・私たちがこの世界で生きるために富を獲得する方法は、次の二つしかありません。
①人的資本を労働市場に投資して、労賃を得る。
②金融資本を金融市場に投資して、利子・配当や譲渡益を得る。
この発想が画期的なのは、(相続やギャンブルなどを別にすれば)私たちはこれ以外の方法でお金を稼ぐことはできない、という事実を明らかにしたことです。人的資本と金融資本は、市場経済で生きていくために私たちが持っている資源のすべてなのです。ところでこの人的資本には、ヒトの生き物としての物理的制約から、若いときほど大きく、一定年齢を超えて働けなくなるとゼロになる、という特徴があります。それに対して金融資本は、年齢に関係なく蓄積することが可能です。若いときは金融資本(貯金)はほとんどありませんから、個人のポートフォリオのほぼすべてが人的資本によって占められています。この人的資本は年齢とともに減っていきますが、そのかわり金融資本が増えてきて、預金や株式、不動産などで運用するようになります。80代になれば、ほとんどの人は労働市場で富を獲得することはできないでしょうから、人的資本はゼロになって、年金を含めた金融資本からの収益で生きていくことになります。すなわち人はみな、最後は一人の投資家なのです。ポートフォリオに占める人的資本と金融資本の構成は、年齢に応じて自然に変化していきます。人生設計とはすなわち、この人生のポートフォリオを適切に管理することなのです。
・厚生年金や組合健保は保険料を労使で折半することになっていますが、会社側が支払う保険料も人件費の一部ですから、それを含めて計算すると、平均的なサラリーマンの(会社が支払う保険料も含めた)総収入の25%が税・社会保障費に消えていくことになります。生涯年収3億円のうち7000万円以上が日本国に徴収されるのですから、これは人生最大の買い物といわれるマイホームを上回る巨額の出費です。これを差し引いた額が手取り(ネット)の所得で、退職金を除けば約40年間で2億円弱、年平均500万円になります。これでも多すぎると思うなら、それはあなたがまだ「貯金」の段階だからです。サラリーマンの人生というのは、40代までひたすら会社に貯金して、50代から回収をはじめ、満額の退職金をもらってすべての帳尻が合うようにできています。20代や30代では低賃金、長時間労働が当たり前ですから、経済的な余裕など生まれるはずはありません。10年、20年先にならなければ、サラリーマン人生の本当の良さはわからないのです。サラリーマンが競って住宅ローンを組んでマイホームを買ったのは、若いうちにまとまった金融資本がつくれない以上、それ以外に効率的な資産運用の方法がなかったからです。すなわちサラリーマンとマイホームこそが、戦後の日本人の人生設計における最強戦略でした。定年までに住宅ローンを完済し(地価が上昇すれば何度か買い換え)、退職金をほぼ無税で受け取り、その後は年金で悠々自適の暮らしをする・・・。たしかに計画どおりなら、これほど素晴らしい人生はありまえん。しかしこの戦略には、ひとつ重大な問題があります。サラリーマンとはすべての人的資本をひとつの会社に投資することですから、これは「タマゴをひとつのカゴに盛る」のと同じです。誰もがすぐに気づくように、この投資が成功するには、そのカゴが壊れないことが絶対条件になります。ところがこの10年で、会社が倒産するのは珍しいことではなく、大手企業でも頻繁にリストラが行われるようになりました。こうして突然、サラリーマンでいることのリスクが顕在化してきたのです。
・人的資本は会社に完全に依存していますから、いったん職を失えばその大半が毀損してしまいます。金融資本はレバレッジをかけて不動産に投資されているので、地価が下落したり、天変地異で不動産の価値がなくなればたちまち債務超過に陥ってしまうでしょう。そして恐ろしいことに、日本にはこうしたハイリスクな人生のポートフォリオを持つひとたちがものすごくたくさんいるのです。もうおわかりのように97年のブラックスワンを機に累計で10万人以上の自殺者を出す「見えない大災害」が起きたのは、戦後の高度成長に最適化された人生設計のリスクがあらわになったためです。人は誰でも生きていたいと望むはずですが、それでも彼らが死を選択せざるをえなかったのは、人生の経済的な基盤を根こそぎ奪い去られ、かつての豊かさと安定を二度と取り戻すことができない絶望のとてつもない深さを表しています。そしてこの絶望は、日本の社会制度から構造的に生み出されるのです。
・株式投資がプラスサムなのは、人々の「少しでも豊かになりたい」という欲望によって市場が拡大していくからです。私たちは、一度手にした生活水準を手放したくないと強く思うので、市場には強固な下方硬直性があります。すなわ、いったん拡大した市場はめったなことでは縮小しません。景気が過熱すると貨幣の回転率が上昇し、市場に流通するマネーの総量が加速度的に増えていきます。こうして長期的にはインフレでモノの値段が上がっていきますが、このとき会社は、投資に対してレバレッジをかけている(負債を持っている)ので、その分だけ利益は大きくなって、株価がインフレ率を超えて上昇していくのです。このように資本主義は、人間の欲望を原動力として自己増殖していくメカニズムなのです。しかしこのことは、すべての株式市場が一律に成長することを意味しません。経済状況は国によって異なりますから、調子のいいときもえば悪いときもあるでしょう。日本経済は1960年代から80年代にかけて高度成長を謳歌しましたが、その間、中国は文化大革命の混沌に沈んでいました。しかし90年代以降、市場経済に大きく舵を切ったことで爆発的な経済成長がはじまり、今ではGDPで日本を上回る「世界二位」の経済大国になりました(ただし一人あたりGDPではいまだ先進国には及びません)。こうした有為転変をすべて足しあわせ、グローバル市場全体で見たときには、株式投資は確かに長期的にはプラスサムになっているのです。
・国家が国債を発行し、それを国民に配ると、錬金術とみまがう不思議なことが起こります。これは自然人とちがって国家に寿命がないためで、利息を払い続けることで(理屈のうえでは)永遠に借金を借り換えていくことができるからです。このことを個人の側から見ると、ありえないはずの錬金術が成立していることがわかります。個人の寿命は国家よりもずっと短いので、国家から受け取ったお金を(税金などで)返済する前に死んでしまい、結果的にお金をもらったのと同じことになるからです。これが国債の発行が人気を集める理由で、日本に限らず世界中の国が巨額の国債を発行して国民にお金を配っています。国家の借金は、しばしば家計の借金と比較されます。「年収400万円のくせに900万円も散財している」とか、「年収の25倍の1億円も借金していたら、消費者金融ですら相手にしてくれない」というのはわかりやすい比喩ですが、国家は貨幣の発行主体ですから、家計と同じに扱うわけにはいきません。日本が1000兆円もの負債をつくったのは経済規模がそれだけ大きいからで、神奈川県と同程度のGDPしかないギリシャと比較してもあまり意味はありません。しかしそれでも、借金を永遠に増やし続けることができないのは確かです。もしそんなことが可能になれば、国民は働くことをやめて、国から配られた円札で海外から好きなものを買って、面白おかしく生きていくことができるでしょう。そのような桃源郷が存在しないとすれば、借金生活はいずれ破綻します。それはいわば、地震や雪崩に似ています。小さな地震や雪面の崩落は毎日のように起きていますが、私たちはそれが大惨事の前兆であるなどとは思いません(気づくことすらほとんどありません)。しかしその間にも地殻や雪の斜面は臨界状態に組織化されていき、ある日突然、巨大地震や雪崩となって人々を襲うのです。日本国の財政も、借金が増えるにつれて臨界状態に近づいていることは間違いありません。このままでは、いつか必ず”黒い鳥”はやってきます。
・高度成長期には、総人口の増加とともに生産年齢人口(15~64歳)が急速に増えていきました。これが「人口ボーナス」で経済成長の最大の要因になったのですが、日本ではこの幸福な時代はすでに終わってしまい、「人口オーナス(総人口の減少と少子高齢化)」の時代がはじまりました(これが「人口負荷社会」です)。小峰氏によれば、人口オーナス(負荷)は先進国に共通の傾向ですが、とくにアジア諸国に顕著で、台湾、韓国、香港などは日本以上に出生率が大きく低下しています。とりわけ中国は、一人っ子政策のため日本とほぼ同じスピードで高齢化が進展し、2020年には早くも労働人口が減り始めます。これによって成長率が鈍化すれば、世界経済に大きな影響を与えることになるでしょう。
・最も効果的なのは、大連立政権をつくって、預金封鎖によって国民の金融資産を一時的に凍結し、資産税をかけて1400兆円の個人金融資産と国家の債務を相殺してしまうことです。もちろんこれは憲法で定めた財産権の侵害になるでしょうが、270兆円の対外純資産を含め金融資産のほとんどが国内の金融機関に預けられているのですから、技術的にはやってやれないことはないでしょう(たぶん)。しかしだからといって、過度に心配する必要はありません。国民の財産を奪い取ることが政府の仕事ではなく、持続可能な財政に戻すだけなら、20%程度の資産課税で300兆円ほど調達すれば十分でしょう。このやり方が気に入らないのであれば、もっと簡単な方法もあります。政府の無駄遣いが批判されますが、日本国の歳出は、国債費と地方交付税を除けば、その半分が社会保障費です。従って年金制度を廃止するか、健康保険・介護保険制度を民営化してしまえば、将来債務も大幅に減って財政危機は解決してしまいます。もしそれも無理だということなら、国家の財政赤字を解消する方法は、原理的に3つしかありません。増税で歳入を増やすこと、公共事業の抑制や社会保障費のカットで歳出を減らすこと、経済成長によって全体のパイを増やすことです。このうち最初のふたつは、民主制国家では有権者の反発が強く、実現は政治的に極めて困難です。そこで経済成長を目指すことになるのですが、財政支出を増やしても景気が上向かないと収支が合わなくなって、結局国債を増発して赤字を埋めるしかなくなります。バブル崩壊後の日本の「失われた20年」とは要するにこの繰り返しで、その結果、「人類史上未曾有」とまでいわれる借金を抱えることになってしまいました。
・「国家の錬金術」が破綻したとき、いったいなにが起きるのでしょうか。案に相違して国家破産の経済的な帰結はきわめてシンプルです。国家の財政赤字とは、要するに国家が通貨(円)を過剰に印刷して市場に供給することです。通貨もまひとつの商品ですから、当然、需要に対して供給が増えれば価値は下がります。財政破綻とは、円の信用が失墜して通貨の価値が大きく毀損することです。このように考えると、国家破産は原理的に3つの経済事象しか引き起こさないことがわかります。①高金利、②円安、③インフレ。国家破産というのは、この3つの経済現象が同時に、かつ異常なレベルで発生することです。日本はずっとデフレと低金利に悩まされてきましたが、07年の世界金融危機以降は、それに円高が加わりました。国家破産後は、いまとはまったくの逆の「インフレ・高金利・円安」世界がやってくるのです。ここで強調しておきたいのは、国家破産をいたずらに恐れる必要はないということです。財政が破綻すればなにが起きるかあらかじめわかっていて、なおかつそれ以外のことは原理的に起こりえないのですから、原発事故のように、放射能という未知の恐怖に襲われるわけではありません。
・日本経済が急激なインフレに見舞われれば社会は大きな打撃を受けますが、そのなかでも最大の被害者は貯蓄の少ない年金生活者になるでしょう。制度上、年金額はインフレを勘案して調整されることになっていますが、現在の「マクロ経済スライド」方式では、年金の支給額は加入者の減少や平均寿命の伸び率も考慮されるので、物価の上昇がそのまま支給額に反映されるわけではありません。さらにはその改定は年1回なので、急速な物価上昇に追いつけず、実質的な年金受給額は大きく目減りしてしまいます。次いで影響を受けるのは公務員で、失業率が10%に迫るようになれば公務員給与の引き上げは政治的に不可能となり、彼らの実質給与は大幅に減るでしょう。すなわち国家破産後の世界では、デフレ世界で得をしていたひとたちがみな損をする側に回るのです。
・戦後の日本人の人生設計は4つの神話の上に築かれてきました。「不動産神話」「会社神話」「円神話」「国家神話」を前提としたポートフォリオは、戦後の経済成長に最適化した人生設計でした。しかしここまで述べてきたように、いったんリスクが顕在化すれば、それは個人の人生にとてつもない災厄をもたらすことになります。ゼロ年代以降の日本が急速に閉塞感を強めていった理由のひとつは、多くの人がこの経済的なリスクに気づきはじめたからです。しかしそれでも”神話なき時代”の新しい人生設計を見つけ出すことができずに、耐用年数の切れた古くさい設計図にしがみつくしかありませんでした。そのことがますますリスクを高め、社会を閉塞させていったのです。
・リスクを回避し、安定した人生を送るために、私たちは偏差値の高い大学に入って大きな会社に就職することを目指し、住宅ローンを組んでマイホームを買い、株や外貨には手を出さずひたすら円を貯めこみ、老後の生活は国に頼ることを選んできたのです。しかし皮肉なことに、こうしたリスクを避ける選択がすべて、いまではリスクを極大化することになってしまいました。この事態は97年の金融危機(あるいは90年のバブル崩壊)からはじまっていたのですが、多くの日本人は”不都合な真実”に顔をそむけ、3.11によってはじめて自らのリスクを目の前に突きつけられたのです。とりわけ高齢者は、円預金と年金以外に生きていく術がないのですから、それが価値を失う恐怖はとてつもないものがあります。そのため彼らは既得権を守ろうと必死になりますが、それによって政府の財政健全化計画は頓挫し、ますます国家破産のリスクが高くなるという悪循環が起きています。国家破産を恐れる人々は政府を声高に批判しますが、自分自身がリスクを生む原因になっているのですか、どれほど叫んでも不安が去るはずはありません。これこそが、私たちの時代が抱える病なのです。
・金利が急激に上がっていくときに、もっとも確実に破産する方法は変動金利(短期金利)で多額の借金をすることです。ところが日本では、不動産販売業者が銀行と提携した低金利ローンを提案するため、新規契約者のうち変動金利を選択する人が9割を超えています。いったん金利が上昇しはじめたら、こうした契約ではたちまち返済額が膨らんで家計は破綻してしまうでしょう。住宅ローン破産を避けるもっとも簡単な方法は、不動産を持たないことです。また金利上昇に備えて固定金利型のローンに切り替えるという手段が残されています。
・金利が上がっていく世界で変動金利の借金が破滅への道なら、それとは逆に、固定金利の借金は素晴らしい「資産運用」になります。このことは、たとえば期間10年で2%の固定金利ローンを借りていて、普通預金の金利が5%に上がったらどうなるかを考えればすぐにわかります。2%で借りたお金を5%で銀行に預ければ、差し引き3%の利益が無リスクで手に入るのです。自営業者や中小企業経営者なら、日本政策金融公庫や自治体の制度融資が低利の長期融資を行っています。自治体にもよりますが、無利息かそれに近い条件で融資を受けることもできるので、来るべき金利上昇に備えてファイナンスしておくことはけっして無駄ではないでしょう。
・世界の株式市場には膨大な数の会社が株式を上場しており、国や地域によってパフォーマンスは大きく異なります。世界市場はこれまで「先進国」と「エマージング」に大きく分けられてきましたが、アメリカの株価が回復しても日本やヨーロッパは低迷していますし、新興諸国にちても、中国やブラジルの株価が上昇してロシアやインドが下落するということが起こります。そうなると「ローリスクの先進国株」「ハイリスクのエマージング株」とは単純にいえませんし、業種や規模によっても株価の推移はまったく異なります。これほどたくさんの選択肢があれば、なにをどうすればいいのかわからなくなるのも当たり前です。しかし世界の株式市場をまるごと買うことができるのなら、このような悩みはなくなります。なぜならその場合、理論上、選択肢は次のふたつしかなくなるからです。
①世界の株式市場は長期的には拡大する
②資本主義はもう限界で、これから市場は縮小するしかない
①が楽観論、②が悲観論で、どちらが正しいかは誰にもわかりませんが、もしもあなたが悲観論者なら、将来のためになにをすべきか悩んでも仕方ありません。未来がどんどん暗くなる一方ならいかなる投資も無駄で、今を精一杯楽しむのがもっとも合理的な生き方になるからです。同様にもしあなたが楽観論者でも、やはり難しいことを考える必要はありません。波風はあるとしても市場が長期的には拡大するのなら、待っていれば株価はそのうち上がるのですから、黙って世界市場を保有すればいいのです。このように世界株投資とは、「なにもしなくてもいい投資法」です。もちろん世の中には、これよりもパフォーマンスの高い投資法はいくらでもあるでしょう。しかし私が「世界株投資は個人にとって最強の投資法」と考えるのは、時間コストを加味すれば、これに優るものはありえないからです。ヒトという有限な生き物にとってもっとも貴重な資源は、お金ではなく時間です。
・ACWIはアメリカで1株49ドル(2013年1月現在)で取引きされており、わずか4000円でエマージングを含む世界中の主要株式市場を時価総額に応じて保有することができます。このなかにはマイクロソフトやグーグル、アップルはもちろん、トヨタやソニー、中国工商銀行やタタ・モーターズ、南アフリカで金を採掘するアングロ・アメリカン社に至るまで、思いつく限りほぼすべての会社が含まれているのです。さらに素晴らしいことに、ACWIの世界株ポートフォリオは、通貨の分散まで勝手にやってくれます。そこにはアメリカ企業dけでなく、ヨーロッパ(ユーロ)やイギリス(ポンド)、中国(中国元)、ロシア(ルーブル)、インド(ルピー)、ブラジル(レアル)んどの企業が株式市場の時価総額に応じて含まれているからです。すなわち世界株ポートフォリオは、為替リスクに対して中立なのです。もちろん「ドル崩壊」という経済的大事件が起きれば株価自体が下落するでしょうから、損失が生じないということではありません。しかし「世界の株式市場の時価総額に合わせて通貨を分散投資する」などということを個人で行うのは不可能ですから、それを勝手にやってくれるACWIはやはりものすごい金融商品なのです。さらに2011年3月、東証に「上場MSCI世界株」(1554)が上場されました。これはACWIから日本市場を除いた株価指数に連動するETFで、日本の個人投資家のニーズに最適化されています。(日本人投資家はたいてい日本株を別に保有しているので、ACWIでは日本株の比重が高くなってしまうのです)。日本株と同様に円建てで取引しながら世界市場に投資できるこのETFは、金融ポートフォリオをグローバルに分散したい個人投資家にとって”究極の金融商品”といえるでしょう。ここであらためて確認しておくと、「上場MSCI世界株」は円建てで取引されていても、すべての資産が外国株で構成されています。当然、円の価値が下落すれば外貨の価値は上昇しますから、円安で株価は上がります。(逆に円高で株価が下がります)。これによって個人の金融資本を日本国のリスクから完全に切り離したうえで、なおかつ世界市場の成長に賭けることができるようになるのです。ただし残念ながら「上場MSCI世界株」はまだ上場されたばきありで、売買高が1日1万株に満たないことがほとんどです。
<目次>
文庫版まえがき
はじめに
PART1 日本人の人生設計を変えた4つの神話
1 日本を襲った二羽の「ブラックスワン」
砂山に砂粒を落としたら
地震予知はやっても無駄
ロングテールとベルカーブ
1997年の黒い鳥
日本人はなぜ自殺するか
2 不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
マイホームは不動産投資
タマゴをひとつのカゴに盛る
「得する」秘密はレバレッジにあり
「所有する」というリスク
まやかしのセールストーク
賃料の高い大型物件を借りろ
バンコクより安い東京暮らし
ひとはなぜマイホームを求めるのか
夢の残骸
3 会社神話 大きな会社に就職して定年まで勤める
「現在価値」とはなにか?
債券価格が下がれば金利は上がる
23歳で1億3500万円
右側通行と左側通行の理論
雇用慣行はナッシュ均衡
均衡が崩れるとき
サラリーマンというリスク
ある日突然、1億円が消えたら
地獄への道は善意で敷き詰められている
4 円神話 日本人なら円資産を保有するのが安心だ
ギャンブルはゼロサムゲーム
投資はプラスサムのゲーム
保険は「不幸の宝くじ」
銀行預金は「投資」ではない
最後に笑った”金融の素人”
円高でミリオネア?
真のリスクはどこにあるのか
5 国家神話 定年後は年金で暮らせばいい
日本国に集中されたリスク
この世に錬金術はない
確定した未来
ニッポンはすでに債務超過
財政赤字のメルトダウン
預金封鎖と資産税
いまとは逆の世界
インフレはほんとうに起こるのか
時代の病
PART2 ポスト3.11の人生設計
6 伽藍からバザールへ 人的資本のリスクを分散する
他人と同じことをして、けっして目立たないこと
クリエイティブクラスとマックジョブ
「月並みの国」と「果ての国」
アメリカの労働者の世界
会社の庇を借りた自営業者
リスクを極大化するシリコンバレー企業
バックオフィスという選択
「知識層」は人口の10%
「マイクロ法人」という戦略
7 世界市場投資のすすめ 金融資本を分散する
人生をギャンブルにできるひとたち
個人のリスクを国家のリスクから切り離す
もっとも確実に破産する方法
インフレ対策に最適な金融商品
FXで外貨預金
世界の株式市場をまるごと保有する
世界株ポートフォリオは為替リスクに中立
ドルコスト平均法は正しいか
番外編 なぜふつうのおばさんが億万長者になるのか?
デフレなら通貨は上昇する
低金利の通貨はインフレにn
働かずに遊んで暮らせる夢の国
8 大震災の後で人生を語るということ
絵空事
私たちになにができるか
「世代間格差」という差別
被災者の”自己責任”を問う社会
成功はバザールに埋まっている
黒い鳥が現れるとき
おわりに
文庫版あとがき
面白かった本まとめ(2013年下半期)
<今日の独り言>
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(2)会社はつぶれない
(3)円はもっとも安全な資産だ
(4)国家が破産することなどありえない
確かに日本ではマイホームを持つのが普通というか安心という風潮ですが、無理をしてマイホームを買ったとしても不動産価格が下がれば負の資産ですし、それで働いている会社が潰れればローンを払えなくなり、家を売ったとしても借金が残り、飛んでもないことになってしまいますね。
また、アベノミクスでの金融緩和がもっと進んだり国家財政破綻になれば、円安・インフレとなって銀行預金やタンス預金は大きなダメージを受けることになります。
今までは円高だったから、タンス預金は正解だったんですね。
本書では、ではこれからどのような金融資産を持てばよいかについて書かれています。
その中で、少しでも豊かになりたいという欲望によって株式市場は拡大するのであるから、株式投資はゼロサムではなくプラスサムとして優れた金融資産であり、その中でも世界株投資は個人にとって最強の投資法とのことです。
世界全体の視点で株式市場が拡大するのであるから世界全体で投資できれば、個別銘柄のように倒産するリスクは限りなく少ないためです。
具体的には、ACWIはエマージングを含む世界中の主要株式市場を時価総額に応じて保有したもので、しかも通貨の分散まで勝手にやってくれるので特に優れているようです。
また、日本株を別に持っているのであれば、そのACWIから日本市場を除いた株価指数に連動するETFとして「上場MSCI世界株(1554)があるので、それを持つのが良いとのことで、私もこれから検討したいと思います^_^)
また本書では、以下の提言についても書かれていて、考えさせられます。
・日本のこれからの政策としては、厚遇となっていることから国だけでなく地方も含めた公務員の給与の減額が必要
・物価水準に合わせて年金の支給額を減額すること
・年金の世代間格差の不公平性をなくすこと
・定年制廃止、同一労働同一賃金を原則化、一定額の金銭を支払うことを条件に整理解雇を認め、流動化を図ったほうが日本全体でプラス
「日本人とうリスク」という本はとてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・1697年にオーストラリアでブラックスワン(コクチョウ)が発見されるまで、西欧のひとたちはスワン(ハクチョウ)とは白い鳥のことだと信じていました。英語ではブラックスワンは「ありえないこと」「起こり得ないこと」の比喩で、無駄な努力をすることを「ブラックスワンを探すようなもの」といったのです。旧世界では、何千年にもわたって何百万羽ものハクチョウが観察され、羽根の色が白いことが確認されてきました。この当たり前のことが、たった一羽のブラックスワンによって完全に覆されてしまったのです。文芸評論家でヘッジファンドのトレーダーでもあるナシーム・ニコラス・タレブは「ブラック・スワン」(ダイヤモンド社)で、黒い鳥の特徴を3つ挙げています。
①異常であること。つまり、過去に照らせば、そんなことが起こるかもしれないとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。
②とても大きな衝撃があること。
③異常であるにも関わらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。
タレブは歴史上のブラックスワンの例として、インターネットの普及や1987年の株式大暴落(ブラックマンデー)、2001年9月の同時多発テロを挙げ、「ひと握りのブラックスワンで人間の世界がほとんど説明できてしまう」と述べます。もちろん今回の大震災と、それにつづく福島第一原発の事故も典型的なブラックスワンです。黒い鳥が現れるまで、私たちはずっと「原発は安全でクリーンなエネルギー」だと聞かされてきました。スリーマイル島やチェルノブイリで過去に深刻な原子力災害が起きていますが、これらは原子炉の仕組みが違っていたり、安全基準が劣っていたためで、日本では直下型の大地震が起こっても原子炉は安全に停止し、放射能が外部に漏れ出るようなことはありえないとされてきました(定義①)。原発の安全性がことさらに強調されたのは、いったん大事故が起これば、その影響ははかりしれないからです(定義②)。事故が現実に起きると、「想定外」との弁明を繰り返す政府や電力会社に対して強い批判が起きました。日本では1970年代から反原発・脱原発の市民運動があり、事故が起きてみれば、それを「予測」していたひとはいくらでも見つかりました(定義③)。ブラックスワンの発見が、「ハクチョウは白い鳥」という常識を覆したように、福島第一原発の事故は、原子力発電の安全神話を跡形もなく葬り去ってしまいました。
・ほとんどの人が忘れてしまっているでしょうが、1997年にも私たちは巨大な黒い鳥と出遭っています。97年7月、タイのバーツ暴落をきっかけに東アジア・東南アジア諸国を未曾有の通貨危機が襲いました。不動産バブルが崩壊したタイは失業者が街に溢れ、IMFの救済を仰いだ韓国ではほとんどの財閥が消滅し、インドネシアは食料価格の高騰で暴動や内乱が頻発し国家解体の瀬戸際まで追い込まれました。金融危機は日本にも飛び火して、11月には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が相次いで経営破綻しました。翌98年8月にはロシアが資本流出に耐えられずデフォルトに陥り、世界の金融市場はふたたび大混乱に陥りました。これがいったん収まりかけていた日本の金融不安を再燃させ、10月には日本長期信用銀行が、12月には日本債権信用銀行が破綻しました。人類史上はじめてのグローバル経済危機が起きた翌年、日本の自殺者数は前年の2万4391人から3万2863人へと大きく跳ね上がりました。この現象は当初、経済不安による一過性のものとして、たいして気にもされませんでした。しかしその後も日本では、年間3万人超が自殺する異常事態が続いているのです。
・月額家賃30万円で家を借りていると聞けば、だれもがもったいないと思うでしょう。しかしこの物件の市場価格が1億円だとすれば利回りは年3.6%で、実質利回りの平均(5%)を大きく下回っています。これが高額の賃貸物件に住む資産家がいる理由で、彼らは割安な不動産物件を借り、資金をより利回りの高い収益機会に投じたほうが有利だということを知っているのです。不動産業界の人たちが賃貸物件に住んでいる理由もここから説明できます。
・日本には借り手に極めて有利な借地借家法があり、いったん賃貸借契約を結んでしまえば、借り手が賃料を払い続けている限り、家主は退去を求めることはもちろん、賃料を値上げすることすら極めて困難です。これは借り手が実質的に不動産を所有しているのと同じことですから、安い賃料で家を借りられた人にとっては法外に有利な取引です。戦後すぐに都心の一等地で借家生活を始めた人たちが典型で、バブル期には億を超える立ち退き料を手にすることができました。しかしその一方で、家主が借り手に不動産を「所有」されるリスクを織り込むため、それが賃料に上乗せされて家賃が高くなるという問題が指摘されてきました。日本の不動産賃貸市場では、契約時に礼金を支払い、その後2年ごとに更新料を払うのが一般的ですが、こうした慣習は海外にはないため、日本で暮らす外国人が増えるにつれてトラブルが頻発しています。礼金や更新料が消費者契約法に違反するのではないかという訴訟も数多く起こされ、礼金は賃料の一部として認められたものの、更新料については高裁で違法との判断も出ています。礼金や更新料によって、家主は不動産を実質所有されるリスクを減らし、借り手の回転率を上げて収益を最大化できます。そのために最適なのは長く住むと不快になる物件ですが、さすがにこれでは借り手がつかないので、転居の多い一人暮らし用のワンルームマンションに投資が集中することになりました。これが、日本にはファミリー向けの良質な物件が少なく賃貸事情が劣悪だといわれる理由ですが、それはわずかな賃料で不動産を「所有」できるメリットと背中合わせなのです。
・首都圏でも、かつては分譲用だった物件が大量に賃貸市場に出回るようになり、たとえば東京都下で鉄道の駅からバス便が必要な地域なら、月額5万~6万円で2LDKのマンションが借りられます。これはバンコクやクアラルンプールとほぼ同じか、それよりも安い水準ですかr、賃貸物件の供給過剰と不動産市況の悪化によって、「世界一高い」といわれた日本の生活コストが大幅に下がったことがわかります。地価が恒常的に下落している日本では、賃貸生活が有利になる一方で、マイホームはますますハイリスクな投資になってしまったのです。
・私たちが家の「所有」に特別に高い価値を置くのは、「縄張りをつくれ」と本能が命じるからです。マイホームを購入した人が、「賃貸のときは不安だったけれど、思い切って家を買ったことで安心できた」と口々にいうのも、この縄張り感覚から理解できます。ところがこの感情(縄張り感覚)は無意識のものですから、論理的に説明することができません。そこで、(家を買うという)自分の判断を正当化するために、「男は家を持って一人前」とか、「マイホームは私のお城」とか、さまざまな後付けの理屈が生まれてくるのです。
・日本の地価はバブル最高値から15年間で4分の1に下落してしまいました。それから考えれば、80年代後半から90年代はじめにマイホームを購入した何百万人ものひとたちが債務超過のバランスシートを抱えていることになります。もちろんバランスシートが債務超過になっても、住宅ローンを払い続けている限りは不動産投資のリスクは顕在化しません。しかしいったん職を失ってしまうと、マイホームを売っても住宅ローンの残債を返済できませんk、人生の経済的な基盤を一挙に失ってしまいます。私たちがマイホームのリスクから目を逸らすのは、この事実を直視するのが不快だからです。いちど、地元の裁判所に不動産競売物件を見に行くといいでしょう。そこには夢の残骸が、墓標のように並んでいるはずです。
・私たちがこの世界で生きるために富を獲得する方法は、次の二つしかありません。
①人的資本を労働市場に投資して、労賃を得る。
②金融資本を金融市場に投資して、利子・配当や譲渡益を得る。
この発想が画期的なのは、(相続やギャンブルなどを別にすれば)私たちはこれ以外の方法でお金を稼ぐことはできない、という事実を明らかにしたことです。人的資本と金融資本は、市場経済で生きていくために私たちが持っている資源のすべてなのです。ところでこの人的資本には、ヒトの生き物としての物理的制約から、若いときほど大きく、一定年齢を超えて働けなくなるとゼロになる、という特徴があります。それに対して金融資本は、年齢に関係なく蓄積することが可能です。若いときは金融資本(貯金)はほとんどありませんから、個人のポートフォリオのほぼすべてが人的資本によって占められています。この人的資本は年齢とともに減っていきますが、そのかわり金融資本が増えてきて、預金や株式、不動産などで運用するようになります。80代になれば、ほとんどの人は労働市場で富を獲得することはできないでしょうから、人的資本はゼロになって、年金を含めた金融資本からの収益で生きていくことになります。すなわち人はみな、最後は一人の投資家なのです。ポートフォリオに占める人的資本と金融資本の構成は、年齢に応じて自然に変化していきます。人生設計とはすなわち、この人生のポートフォリオを適切に管理することなのです。
・厚生年金や組合健保は保険料を労使で折半することになっていますが、会社側が支払う保険料も人件費の一部ですから、それを含めて計算すると、平均的なサラリーマンの(会社が支払う保険料も含めた)総収入の25%が税・社会保障費に消えていくことになります。生涯年収3億円のうち7000万円以上が日本国に徴収されるのですから、これは人生最大の買い物といわれるマイホームを上回る巨額の出費です。これを差し引いた額が手取り(ネット)の所得で、退職金を除けば約40年間で2億円弱、年平均500万円になります。これでも多すぎると思うなら、それはあなたがまだ「貯金」の段階だからです。サラリーマンの人生というのは、40代までひたすら会社に貯金して、50代から回収をはじめ、満額の退職金をもらってすべての帳尻が合うようにできています。20代や30代では低賃金、長時間労働が当たり前ですから、経済的な余裕など生まれるはずはありません。10年、20年先にならなければ、サラリーマン人生の本当の良さはわからないのです。サラリーマンが競って住宅ローンを組んでマイホームを買ったのは、若いうちにまとまった金融資本がつくれない以上、それ以外に効率的な資産運用の方法がなかったからです。すなわちサラリーマンとマイホームこそが、戦後の日本人の人生設計における最強戦略でした。定年までに住宅ローンを完済し(地価が上昇すれば何度か買い換え)、退職金をほぼ無税で受け取り、その後は年金で悠々自適の暮らしをする・・・。たしかに計画どおりなら、これほど素晴らしい人生はありまえん。しかしこの戦略には、ひとつ重大な問題があります。サラリーマンとはすべての人的資本をひとつの会社に投資することですから、これは「タマゴをひとつのカゴに盛る」のと同じです。誰もがすぐに気づくように、この投資が成功するには、そのカゴが壊れないことが絶対条件になります。ところがこの10年で、会社が倒産するのは珍しいことではなく、大手企業でも頻繁にリストラが行われるようになりました。こうして突然、サラリーマンでいることのリスクが顕在化してきたのです。
・人的資本は会社に完全に依存していますから、いったん職を失えばその大半が毀損してしまいます。金融資本はレバレッジをかけて不動産に投資されているので、地価が下落したり、天変地異で不動産の価値がなくなればたちまち債務超過に陥ってしまうでしょう。そして恐ろしいことに、日本にはこうしたハイリスクな人生のポートフォリオを持つひとたちがものすごくたくさんいるのです。もうおわかりのように97年のブラックスワンを機に累計で10万人以上の自殺者を出す「見えない大災害」が起きたのは、戦後の高度成長に最適化された人生設計のリスクがあらわになったためです。人は誰でも生きていたいと望むはずですが、それでも彼らが死を選択せざるをえなかったのは、人生の経済的な基盤を根こそぎ奪い去られ、かつての豊かさと安定を二度と取り戻すことができない絶望のとてつもない深さを表しています。そしてこの絶望は、日本の社会制度から構造的に生み出されるのです。
・株式投資がプラスサムなのは、人々の「少しでも豊かになりたい」という欲望によって市場が拡大していくからです。私たちは、一度手にした生活水準を手放したくないと強く思うので、市場には強固な下方硬直性があります。すなわ、いったん拡大した市場はめったなことでは縮小しません。景気が過熱すると貨幣の回転率が上昇し、市場に流通するマネーの総量が加速度的に増えていきます。こうして長期的にはインフレでモノの値段が上がっていきますが、このとき会社は、投資に対してレバレッジをかけている(負債を持っている)ので、その分だけ利益は大きくなって、株価がインフレ率を超えて上昇していくのです。このように資本主義は、人間の欲望を原動力として自己増殖していくメカニズムなのです。しかしこのことは、すべての株式市場が一律に成長することを意味しません。経済状況は国によって異なりますから、調子のいいときもえば悪いときもあるでしょう。日本経済は1960年代から80年代にかけて高度成長を謳歌しましたが、その間、中国は文化大革命の混沌に沈んでいました。しかし90年代以降、市場経済に大きく舵を切ったことで爆発的な経済成長がはじまり、今ではGDPで日本を上回る「世界二位」の経済大国になりました(ただし一人あたりGDPではいまだ先進国には及びません)。こうした有為転変をすべて足しあわせ、グローバル市場全体で見たときには、株式投資は確かに長期的にはプラスサムになっているのです。
・国家が国債を発行し、それを国民に配ると、錬金術とみまがう不思議なことが起こります。これは自然人とちがって国家に寿命がないためで、利息を払い続けることで(理屈のうえでは)永遠に借金を借り換えていくことができるからです。このことを個人の側から見ると、ありえないはずの錬金術が成立していることがわかります。個人の寿命は国家よりもずっと短いので、国家から受け取ったお金を(税金などで)返済する前に死んでしまい、結果的にお金をもらったのと同じことになるからです。これが国債の発行が人気を集める理由で、日本に限らず世界中の国が巨額の国債を発行して国民にお金を配っています。国家の借金は、しばしば家計の借金と比較されます。「年収400万円のくせに900万円も散財している」とか、「年収の25倍の1億円も借金していたら、消費者金融ですら相手にしてくれない」というのはわかりやすい比喩ですが、国家は貨幣の発行主体ですから、家計と同じに扱うわけにはいきません。日本が1000兆円もの負債をつくったのは経済規模がそれだけ大きいからで、神奈川県と同程度のGDPしかないギリシャと比較してもあまり意味はありません。しかしそれでも、借金を永遠に増やし続けることができないのは確かです。もしそんなことが可能になれば、国民は働くことをやめて、国から配られた円札で海外から好きなものを買って、面白おかしく生きていくことができるでしょう。そのような桃源郷が存在しないとすれば、借金生活はいずれ破綻します。それはいわば、地震や雪崩に似ています。小さな地震や雪面の崩落は毎日のように起きていますが、私たちはそれが大惨事の前兆であるなどとは思いません(気づくことすらほとんどありません)。しかしその間にも地殻や雪の斜面は臨界状態に組織化されていき、ある日突然、巨大地震や雪崩となって人々を襲うのです。日本国の財政も、借金が増えるにつれて臨界状態に近づいていることは間違いありません。このままでは、いつか必ず”黒い鳥”はやってきます。
・高度成長期には、総人口の増加とともに生産年齢人口(15~64歳)が急速に増えていきました。これが「人口ボーナス」で経済成長の最大の要因になったのですが、日本ではこの幸福な時代はすでに終わってしまい、「人口オーナス(総人口の減少と少子高齢化)」の時代がはじまりました(これが「人口負荷社会」です)。小峰氏によれば、人口オーナス(負荷)は先進国に共通の傾向ですが、とくにアジア諸国に顕著で、台湾、韓国、香港などは日本以上に出生率が大きく低下しています。とりわけ中国は、一人っ子政策のため日本とほぼ同じスピードで高齢化が進展し、2020年には早くも労働人口が減り始めます。これによって成長率が鈍化すれば、世界経済に大きな影響を与えることになるでしょう。
・最も効果的なのは、大連立政権をつくって、預金封鎖によって国民の金融資産を一時的に凍結し、資産税をかけて1400兆円の個人金融資産と国家の債務を相殺してしまうことです。もちろんこれは憲法で定めた財産権の侵害になるでしょうが、270兆円の対外純資産を含め金融資産のほとんどが国内の金融機関に預けられているのですから、技術的にはやってやれないことはないでしょう(たぶん)。しかしだからといって、過度に心配する必要はありません。国民の財産を奪い取ることが政府の仕事ではなく、持続可能な財政に戻すだけなら、20%程度の資産課税で300兆円ほど調達すれば十分でしょう。このやり方が気に入らないのであれば、もっと簡単な方法もあります。政府の無駄遣いが批判されますが、日本国の歳出は、国債費と地方交付税を除けば、その半分が社会保障費です。従って年金制度を廃止するか、健康保険・介護保険制度を民営化してしまえば、将来債務も大幅に減って財政危機は解決してしまいます。もしそれも無理だということなら、国家の財政赤字を解消する方法は、原理的に3つしかありません。増税で歳入を増やすこと、公共事業の抑制や社会保障費のカットで歳出を減らすこと、経済成長によって全体のパイを増やすことです。このうち最初のふたつは、民主制国家では有権者の反発が強く、実現は政治的に極めて困難です。そこで経済成長を目指すことになるのですが、財政支出を増やしても景気が上向かないと収支が合わなくなって、結局国債を増発して赤字を埋めるしかなくなります。バブル崩壊後の日本の「失われた20年」とは要するにこの繰り返しで、その結果、「人類史上未曾有」とまでいわれる借金を抱えることになってしまいました。
・「国家の錬金術」が破綻したとき、いったいなにが起きるのでしょうか。案に相違して国家破産の経済的な帰結はきわめてシンプルです。国家の財政赤字とは、要するに国家が通貨(円)を過剰に印刷して市場に供給することです。通貨もまひとつの商品ですから、当然、需要に対して供給が増えれば価値は下がります。財政破綻とは、円の信用が失墜して通貨の価値が大きく毀損することです。このように考えると、国家破産は原理的に3つの経済事象しか引き起こさないことがわかります。①高金利、②円安、③インフレ。国家破産というのは、この3つの経済現象が同時に、かつ異常なレベルで発生することです。日本はずっとデフレと低金利に悩まされてきましたが、07年の世界金融危機以降は、それに円高が加わりました。国家破産後は、いまとはまったくの逆の「インフレ・高金利・円安」世界がやってくるのです。ここで強調しておきたいのは、国家破産をいたずらに恐れる必要はないということです。財政が破綻すればなにが起きるかあらかじめわかっていて、なおかつそれ以外のことは原理的に起こりえないのですから、原発事故のように、放射能という未知の恐怖に襲われるわけではありません。
・日本経済が急激なインフレに見舞われれば社会は大きな打撃を受けますが、そのなかでも最大の被害者は貯蓄の少ない年金生活者になるでしょう。制度上、年金額はインフレを勘案して調整されることになっていますが、現在の「マクロ経済スライド」方式では、年金の支給額は加入者の減少や平均寿命の伸び率も考慮されるので、物価の上昇がそのまま支給額に反映されるわけではありません。さらにはその改定は年1回なので、急速な物価上昇に追いつけず、実質的な年金受給額は大きく目減りしてしまいます。次いで影響を受けるのは公務員で、失業率が10%に迫るようになれば公務員給与の引き上げは政治的に不可能となり、彼らの実質給与は大幅に減るでしょう。すなわち国家破産後の世界では、デフレ世界で得をしていたひとたちがみな損をする側に回るのです。
・戦後の日本人の人生設計は4つの神話の上に築かれてきました。「不動産神話」「会社神話」「円神話」「国家神話」を前提としたポートフォリオは、戦後の経済成長に最適化した人生設計でした。しかしここまで述べてきたように、いったんリスクが顕在化すれば、それは個人の人生にとてつもない災厄をもたらすことになります。ゼロ年代以降の日本が急速に閉塞感を強めていった理由のひとつは、多くの人がこの経済的なリスクに気づきはじめたからです。しかしそれでも”神話なき時代”の新しい人生設計を見つけ出すことができずに、耐用年数の切れた古くさい設計図にしがみつくしかありませんでした。そのことがますますリスクを高め、社会を閉塞させていったのです。
・リスクを回避し、安定した人生を送るために、私たちは偏差値の高い大学に入って大きな会社に就職することを目指し、住宅ローンを組んでマイホームを買い、株や外貨には手を出さずひたすら円を貯めこみ、老後の生活は国に頼ることを選んできたのです。しかし皮肉なことに、こうしたリスクを避ける選択がすべて、いまではリスクを極大化することになってしまいました。この事態は97年の金融危機(あるいは90年のバブル崩壊)からはじまっていたのですが、多くの日本人は”不都合な真実”に顔をそむけ、3.11によってはじめて自らのリスクを目の前に突きつけられたのです。とりわけ高齢者は、円預金と年金以外に生きていく術がないのですから、それが価値を失う恐怖はとてつもないものがあります。そのため彼らは既得権を守ろうと必死になりますが、それによって政府の財政健全化計画は頓挫し、ますます国家破産のリスクが高くなるという悪循環が起きています。国家破産を恐れる人々は政府を声高に批判しますが、自分自身がリスクを生む原因になっているのですか、どれほど叫んでも不安が去るはずはありません。これこそが、私たちの時代が抱える病なのです。
・金利が急激に上がっていくときに、もっとも確実に破産する方法は変動金利(短期金利)で多額の借金をすることです。ところが日本では、不動産販売業者が銀行と提携した低金利ローンを提案するため、新規契約者のうち変動金利を選択する人が9割を超えています。いったん金利が上昇しはじめたら、こうした契約ではたちまち返済額が膨らんで家計は破綻してしまうでしょう。住宅ローン破産を避けるもっとも簡単な方法は、不動産を持たないことです。また金利上昇に備えて固定金利型のローンに切り替えるという手段が残されています。
・金利が上がっていく世界で変動金利の借金が破滅への道なら、それとは逆に、固定金利の借金は素晴らしい「資産運用」になります。このことは、たとえば期間10年で2%の固定金利ローンを借りていて、普通預金の金利が5%に上がったらどうなるかを考えればすぐにわかります。2%で借りたお金を5%で銀行に預ければ、差し引き3%の利益が無リスクで手に入るのです。自営業者や中小企業経営者なら、日本政策金融公庫や自治体の制度融資が低利の長期融資を行っています。自治体にもよりますが、無利息かそれに近い条件で融資を受けることもできるので、来るべき金利上昇に備えてファイナンスしておくことはけっして無駄ではないでしょう。
・世界の株式市場には膨大な数の会社が株式を上場しており、国や地域によってパフォーマンスは大きく異なります。世界市場はこれまで「先進国」と「エマージング」に大きく分けられてきましたが、アメリカの株価が回復しても日本やヨーロッパは低迷していますし、新興諸国にちても、中国やブラジルの株価が上昇してロシアやインドが下落するということが起こります。そうなると「ローリスクの先進国株」「ハイリスクのエマージング株」とは単純にいえませんし、業種や規模によっても株価の推移はまったく異なります。これほどたくさんの選択肢があれば、なにをどうすればいいのかわからなくなるのも当たり前です。しかし世界の株式市場をまるごと買うことができるのなら、このような悩みはなくなります。なぜならその場合、理論上、選択肢は次のふたつしかなくなるからです。
①世界の株式市場は長期的には拡大する
②資本主義はもう限界で、これから市場は縮小するしかない
①が楽観論、②が悲観論で、どちらが正しいかは誰にもわかりませんが、もしもあなたが悲観論者なら、将来のためになにをすべきか悩んでも仕方ありません。未来がどんどん暗くなる一方ならいかなる投資も無駄で、今を精一杯楽しむのがもっとも合理的な生き方になるからです。同様にもしあなたが楽観論者でも、やはり難しいことを考える必要はありません。波風はあるとしても市場が長期的には拡大するのなら、待っていれば株価はそのうち上がるのですから、黙って世界市場を保有すればいいのです。このように世界株投資とは、「なにもしなくてもいい投資法」です。もちろん世の中には、これよりもパフォーマンスの高い投資法はいくらでもあるでしょう。しかし私が「世界株投資は個人にとって最強の投資法」と考えるのは、時間コストを加味すれば、これに優るものはありえないからです。ヒトという有限な生き物にとってもっとも貴重な資源は、お金ではなく時間です。
・ACWIはアメリカで1株49ドル(2013年1月現在)で取引きされており、わずか4000円でエマージングを含む世界中の主要株式市場を時価総額に応じて保有することができます。このなかにはマイクロソフトやグーグル、アップルはもちろん、トヨタやソニー、中国工商銀行やタタ・モーターズ、南アフリカで金を採掘するアングロ・アメリカン社に至るまで、思いつく限りほぼすべての会社が含まれているのです。さらに素晴らしいことに、ACWIの世界株ポートフォリオは、通貨の分散まで勝手にやってくれます。そこにはアメリカ企業dけでなく、ヨーロッパ(ユーロ)やイギリス(ポンド)、中国(中国元)、ロシア(ルーブル)、インド(ルピー)、ブラジル(レアル)んどの企業が株式市場の時価総額に応じて含まれているからです。すなわち世界株ポートフォリオは、為替リスクに対して中立なのです。もちろん「ドル崩壊」という経済的大事件が起きれば株価自体が下落するでしょうから、損失が生じないということではありません。しかし「世界の株式市場の時価総額に合わせて通貨を分散投資する」などということを個人で行うのは不可能ですから、それを勝手にやってくれるACWIはやはりものすごい金融商品なのです。さらに2011年3月、東証に「上場MSCI世界株」(1554)が上場されました。これはACWIから日本市場を除いた株価指数に連動するETFで、日本の個人投資家のニーズに最適化されています。(日本人投資家はたいてい日本株を別に保有しているので、ACWIでは日本株の比重が高くなってしまうのです)。日本株と同様に円建てで取引しながら世界市場に投資できるこのETFは、金融ポートフォリオをグローバルに分散したい個人投資家にとって”究極の金融商品”といえるでしょう。ここであらためて確認しておくと、「上場MSCI世界株」は円建てで取引されていても、すべての資産が外国株で構成されています。当然、円の価値が下落すれば外貨の価値は上昇しますから、円安で株価は上がります。(逆に円高で株価が下がります)。これによって個人の金融資本を日本国のリスクから完全に切り離したうえで、なおかつ世界市場の成長に賭けることができるようになるのです。ただし残念ながら「上場MSCI世界株」はまだ上場されたばきありで、売買高が1日1万株に満たないことがほとんどです。
<目次>
文庫版まえがき
はじめに
PART1 日本人の人生設計を変えた4つの神話
1 日本を襲った二羽の「ブラックスワン」
砂山に砂粒を落としたら
地震予知はやっても無駄
ロングテールとベルカーブ
1997年の黒い鳥
日本人はなぜ自殺するか
2 不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
マイホームは不動産投資
タマゴをひとつのカゴに盛る
「得する」秘密はレバレッジにあり
「所有する」というリスク
まやかしのセールストーク
賃料の高い大型物件を借りろ
バンコクより安い東京暮らし
ひとはなぜマイホームを求めるのか
夢の残骸
3 会社神話 大きな会社に就職して定年まで勤める
「現在価値」とはなにか?
債券価格が下がれば金利は上がる
23歳で1億3500万円
右側通行と左側通行の理論
雇用慣行はナッシュ均衡
均衡が崩れるとき
サラリーマンというリスク
ある日突然、1億円が消えたら
地獄への道は善意で敷き詰められている
4 円神話 日本人なら円資産を保有するのが安心だ
ギャンブルはゼロサムゲーム
投資はプラスサムのゲーム
保険は「不幸の宝くじ」
銀行預金は「投資」ではない
最後に笑った”金融の素人”
円高でミリオネア?
真のリスクはどこにあるのか
5 国家神話 定年後は年金で暮らせばいい
日本国に集中されたリスク
この世に錬金術はない
確定した未来
ニッポンはすでに債務超過
財政赤字のメルトダウン
預金封鎖と資産税
いまとは逆の世界
インフレはほんとうに起こるのか
時代の病
PART2 ポスト3.11の人生設計
6 伽藍からバザールへ 人的資本のリスクを分散する
他人と同じことをして、けっして目立たないこと
クリエイティブクラスとマックジョブ
「月並みの国」と「果ての国」
アメリカの労働者の世界
会社の庇を借りた自営業者
リスクを極大化するシリコンバレー企業
バックオフィスという選択
「知識層」は人口の10%
「マイクロ法人」という戦略
7 世界市場投資のすすめ 金融資本を分散する
人生をギャンブルにできるひとたち
個人のリスクを国家のリスクから切り離す
もっとも確実に破産する方法
インフレ対策に最適な金融商品
FXで外貨預金
世界の株式市場をまるごと保有する
世界株ポートフォリオは為替リスクに中立
ドルコスト平均法は正しいか
番外編 なぜふつうのおばさんが億万長者になるのか?
デフレなら通貨は上昇する
低金利の通貨はインフレにn
働かずに遊んで暮らせる夢の国
8 大震災の後で人生を語るということ
絵空事
私たちになにができるか
「世代間格差」という差別
被災者の”自己責任”を問う社会
成功はバザールに埋まっている
黒い鳥が現れるとき
おわりに
文庫版あとがき
面白かった本まとめ(2013年下半期)
<今日の独り言>
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