<金曜は本の紹介>
「生活保護の謎(武田知弘)」の購入はコチラ
この「生活保護の謎」という本は、生活保護制度の真相を分かりやすく説明したもので、特に以下について書かれています。
・地域別生活保護受給者数、受給率
・生活保護が激増した理由
・生活保護を受ける条件
・生活保護を受ける条件の誤解
・実際の生活保護の支給額や特典
・生活保護申請時の実態
・不正受給や餓死事件の真相
・生活保護の過剰診療
・生活保護を使った貧困ビジネス
・生活保護を受給する具体的方法
・生活保護の海外との比較(制度は遅れ、費用は少ない)
特に驚いたのは、日本の生活保護費は支給総額も受給者の人口割合も先進国の中では断トツに低いという事実と、生活に困っていても簡単に受給できない仕組みになっていて、餓死者も出ているということですね。
実際に生活保護を受けている人は200万人ですが、実はその受給条件を満たしているのは現在でも約900万人はいるようです。
また、生活保護を受ければ医療費は健康保険料が不要なだけでなく自己負担分も免除されるとは驚きました。しかも、生活保護に関する国の支出で医療関係費が50%を超えているようです。そもそも支給の大部分を占めなければいけない生活費を医療費がはるかに超えているとは異常です。
それから、具体的な生活保護を受ける条件の誤解や、実際の支給額、申請時の実態、悪徳貧困ビジネス、具体的な生活保護受給申請方法、海外との比較、日本の制度の問題点なども興味深かったですね。
生活保護についてとても分かりやすく、よくまとめられていて、そして日本の生活保護制度の問題点、解決方法についても言及されていて、日本の将来を考えるうえでも、とても良い本だと思います。
この「生活保護の謎(武田知弘)」という本は とてもオススメな本です!
以下はこの本のポイント等です。
・実は、生活保護というのは本来は国の業務だが、運用は自治体に任されている。生活保護費用の4分の3は国が出すが、4分の1は実質的に自治体が負担しなければならない。そのため、自治体としては、なるべく生活保護の受給者を減らしたい。経済的に余裕のある自治体などは、ほとんどないからである。だから役所は、生活保護の申請希望者を窓口で追い返すなど、乱暴な方法で生活保護の受給者を減らしたりもしている。
・あまり知られていないが、実は日本の生活保護費というのは、先進国の間では最低レベルなのである。支給総額も、受給者の人口割合も、先進国の中では断トツに低い。生活保護受給者が200万人を突破したなどと大騒ぎされているが、世界的に見れば、日本の生活保護費はまだまだ少ないほうなのである。それは何を意味しているか?日本では生活保護という制度が、社会保障としてまだ機能していないということなのだ。生活保護を必要としている人はもっとたくさんいるのに、きちんと行きわたっていないということなのである。そして、さらに生活保護に関して恐ろしい問題が待っている。それは、生活保護予備軍が、実は2000万人単位でいいる、ということだ。統計的に見て、あと30年後には、必ず2000万人単位で生活保護受給者(資格保持者を含む)が生じる。現在の10倍である。
・現在、生活保護を受給できるレベルの人は、1000万人以上と推定されている。2007年、厚生労働省は、生活保護を受ける水準の家庭がどのくらいあるかという調査を行い、その結果を発表した。この調査結果によると、6~7%は、生活保護の受給要件を満たしていることが判明した。仮に国民の7%とするならば、約900万人である。実際に生活保護を受けている人は200万人なので、700万人が生活保護の受給から漏れているということになる。この700万人が生活保護の申請をすれば、その多くは生活保護を受けられるはずである。2010年度の生活保護の不正受給件数は全国で2万5355件である。つまり生活保護には不正受給の二百数十倍の「もらい漏れ」があるのだ。
・現在の日本では、まともな収入を得られる「正規雇用」の枠が非常に小さくなっている。もし、今、非正規雇用で貧しい生活を余儀なくされている人が、まともに努力して正規雇用となり、生活が安定したとする。しかし今の日本経済の現状を見れば、一人が正規雇用になった場合、正規雇用の誰かが非正規雇用になっているわけであり、非正規雇用の総数には変化はないのだ。つまり、「安定した生活ができる人」の枠が限られているのだから、個人の努力で解決できる問題ではないのだ。しかしもし彼らが努力をして生活を立て直したとしても、今度は次に能力がない人たちと立場が入れ替わるだけなのだ。今の日本経済では、「まともな生活が営めない人たち」というのは、必ず生じるような仕組みになっている。しかも、そういう人たちが増えるような仕組みになりつつある。この部分を改善しなければ、生活保護の問題というのは、今後どんどん巨大化し、日本を苦しめることになるはずだ。
・現行の法制では、生活保護を受ける条件は次の4つとなっている。
1日本人であること
2生活保護の申請がされていること
3収入が基準以下であること
4資産が基準以下であること
この4つの条件さえ、クリアしていれば、生活保護は誰でも受けることができるのだ。
・生活保護の大原則として「申請主義」というものがある。言い換えれば、「生活保護は申請しなければもらえない」ということである。生活保護を受けたいと思っている人は、自らの意思で申請しなければならない。申請をせずに、役所のほうから「あの人は生活が苦しいみたいだから、生活保護を受けさせてあげよう」などということは絶対にないのだ。
・3の「収入が基準以下であること」については、その人の収入が、厚生労働省が定める基準額を下回っているということだ。都心部の一人暮らしの健常な50歳の男性の場合、収入が家賃を差し引いて月8万1610円以下の収入であれば、生活保護を受けられることになる。だからこの人がもし家賃4万円のアパートに住んでいた場合は、月12万1610円以下の収入であれば生活保護が受けられるということである。市区町村によって基準額の差はあるが、おおむね月12万円以下の収入ならば生活保護を受けることができるといえる。
・4番目の条件「資産が基準以下であること」については、生活保護の建前として、資産がある人は、その資産がなくなってからしか受給できないということになっている。その資産とは具体的に言えば、預貯金、車などである。預貯金は、生活費の半月分以下までは認められる。
・生活保護の受給者は、ぜいたく品を持ってはならないとされている。世間では「テレビがダメ」とか「エアコンがダメ」などと言われることもある。確かに以前はテレビやエアコンは不可だとされていたが、現在では許されている。テレビはほとんどの世帯が持っており、すでに贅沢品とは呼べないからであり、またエアコンも、以前は所有を禁じられていたが、ケースワーカーからエアコンを取り上げられた生活保護受給者が脱水症状で入院するという事件が起きてからは、認められるようになったといういきさつがある。
・また生命保険も入っていてはならない。生活保護は、「生活のための費用」だけしか認められないことになっており、生命保険は当座の生活には関係ないということで認められないのだ。生命保険に加入している人は、解約してからでなければ生活保護は受給できない。ただし、学資保険の一部と、掛け捨て保険の一部は入ってもいいことになっている。目安としsては、掛け金が生活費の1割程度までとなっている。家は、今住んでいるところで、ローンが残ってなければいい。分譲マンションなどでも同様である。だから、マンションに住んで生活保護を受ける、ということも可能なのである。しかしローンが残っている家は、処分しなくてはならない。
・生活保護受給者には、生活費の支給だけではなく、さまざまな特別待遇がある。まず社会保険料が全額免除となる。国民健康保険や国民年金の掛け金は払わずに、掛け金を払ったのと同じ待遇を受けられる。生活保護を受給している間は、年金は払っているものとしてカウントされる。そして、医療費は、健康保険料がいらなだけではなく、自己負担分も免除される。だから薬代も含めて医療費はまったく無料ということになるのだ。ただし、自己負担分を免除にする場合、福祉事務所からそのつどチケットをもらわなければならないために、急患のときなどには利用できない。また住民税や固定資産税などの税金も免除される。NHKの受信料や高校の授業料なども無料である。その他に自治体によって、交通機関の無料券などの特典がある。
・生活保護の臨時的に支払われるものに、「家具什器費」というものがある。これは炊事器具、家具などが必要なときに、その購入費用が支給されるものである。生活保護の受給者が、「冷蔵庫がないから冷蔵庫を買いたい」という具合に申請し、認められれば最大3万9700円が支給されるのである。この「家具什器」に含まれる品物の範囲が自治体によって違うのだ。冷蔵庫が認められる自治体もあれば、認められない自治体もある。洗濯機もしかりである。
・「生活保護は働いている人は受けられない」とはよくいわれていることだが、嘘なのである。普通に働いていても国が定める基準以下の収入であれば、生活保護を受けることができる。たとえば、年収90万円の人がいたとする。この人の生活保護の基準額は140万円だった。となれば、差額の50万円を生活保護として受給することができるのだ。こういう誤解が生じたのは、役所が生活保護を受給させないたえに、「あなたは働いているのだから、受けられない」などとミスリードしてきたからである。
・働けるかどうか、収入を得られるかどうかは、生活保護の認定のときに必ず問われることだ。若くて健康で、働くには何の支障もないのに、働いていない、働く努力もしていないような場合は、生活保護が認定されないケースもある。しかし子供を抱えている若いシングルマザーなどのように、働けない事情がきちんとあれば、生活保護は受給できるのだ。
・生活保護は、借金の返済には使えないということになっている。これは「生活困窮者が借金を背負ったまま生活保護を受ければ、生活費を支給してもそれは借金の返済に回されてしまう」からである。それを防ぐために、生活保護のお金が借金の返済には使えないことになている。だから、金融業者も生活保護受給者から借金の取り立てをしてはならないことになっているのだ。これは本来は、受給者の生活を守るための制度だが、これを役所側が悪用している現実がある。生活保護の申請者に借金があれば「あなたは借金があるから、生活保護は受給できない」と言って、窓口で追い返すのである。これもまったくデタラメなことである。ただ現実的には弁護士や司法書士にお願いして、自己破産をしてから生活保護を申請したほうが、その人の今後の生活のためにもいいと思われる。
・生活保護は、「住民票がなければ受けられない」と言われることがある。しかし、実はこれも嘘なのである。生活保護の窓口は、自治体(市町村)になっているため、住民票がなければどこが窓口になるか特定できないため、役所がそれを言い訳にして、生活保護を受け付けていないだけである。生活保護というものは、憲法で定められた国民の権利であり、国が保障するものだ。自治体というのは、あくまで窓口にすぎない。だから、住所地がなく、窓口となる自治体がないからといって、生活保護を受ける権利が消失したわけではないのだ。たとえば、ホームレスの人は、自分が住んでいる公園の自治体に生活保護の申請をすればいいのだ。
・「家を持っていると生活保護を受けられない」というのも嘘である。持っている家が、自分の住んでいる家なら生活保護を受けることができる。ただし、ローンの残っている家は、手放さなければならない。もしローンが残ったまま生活保護が支給されれば、生活保護がローンの支払いに充てられることになり、実質的に「家の購入費を生活保護で出している」ということになるからだ。だから、ローンが残っている家は、原則として売却しなければならないということになる。
・小学生、中学生の子供二人がいる夫婦(東京・千代田区)をモデルにしてみよう。この4人家族の生活保護の支給額を算出すると月30万6710円という数字が出た。小中学生には、学費などの名目で、上乗せがあるので、ふつうの4人家族よりも若干高い。また家族の中に高校生がいたり、障害があって施設に入っている人がいればさらに加算される。この数字は、東京・千代田区ということで、全国平均よりはかなり高めだといえる。生活保護では各地域によって住宅扶助の額が違ってくるが、東京・千代田区の場合は、住宅扶助の最高額が月6万9800円である。当然のことながら、東京以外の地域では、住宅扶助の額はもっと減る。だから、その分を差し引くと小中学生の子供二人がいる夫婦の場合、およそで月27~28万円程度もらえるといえる。また生活保護の受給者は、社会保険料を支払わなくていい。国民健康保険も国民年金も免除されるのだ。それを含めれば、税込み月35~36万円の収入とほぼ同等の生活ができるといえる。
・一人暮らしの生活保護の支給額を見てみよう。東京・千代田区に住んでいる40歳の人の生活保護の支給額は、住宅扶助を含めて月13万3700円となっている。東京・千代田区の一人暮らしの人の家賃の上限は5万3700円であり、ここでは家賃を5万円として算出した。もちろん東京なので若干高めだが、地方でもだいたい月12万円程度の生活保護の支給額はもらえることになる。また国民健康保険、国民年金の免除を考慮すると、月収15~16万円、年収にして180万円から200万円相当(税込み)の暮らしができるといえる。
・東京・千代田区の70代の老夫婦二人暮らしの場合の生活保護の額は、月18万2550円である。家賃は千代田区の二人暮らしの住宅扶助の最高限度額の月6万9800円として計算している。社会保険料を払わなくていいことを考えれば、20数万円程度の収入と同等の生活ができると考えられる。東京以外の地域でも、だいたい月20万円程度の収入と同等の生活ができると見ていいだろう。この20万円という数字を、年金と比べてみてよう。夫がサラリーマンで40年間、平均的な収入で厚生年金に入っていたとするなら、夫がもらえるのは老齢基礎年金が月6万6000円、厚生年金から月10万円程度、これに妻の老齢基礎年金が月6万6000円。合わせて月23万2000円程度である。つまり、夫が平均的なサラリーマンを40年間続けてきた夫婦の年金と生活保護の額はほとんど変わらないのである。またもし自営業で国民年金にしか加入していなかった夫婦の場合は、基礎年金しかもらえないので、年金は二人合わせても月13万2000円にしかならない。生活保護支給額のほうが7万円も多いことになる。
・30万円という数字も、納得できない数字ではないはずだ。家賃分を除けば、月20数万円である。月20数万円で、育ち盛りの子供二人を抱えた家族4人で生活するのは、ギリギリだといえるだろう。そうとう節約しても食費だけで、5万円以上はかかるはずだ。光熱費、電話代などの固定費で3万円以上はかかるだろう。となると、食費以外に使えるお金はがんばって捻出しても、だいたい月10万円程度になる。この10万円で4人家族の日用品や衣服、子供たちの学用品などを整えなくてはならない。また家財道具などの費用は、なかなか支給してくれないので、それらの費用も捻出しなければならない。これでは、ギリギリの生活だろうし、小遣いに使えるお金などはほとんどないだろう。しかし、月30万円という数字をパッと見せられたとき、われわれは「え~そんなにもらえるの?」と思ってしまう。これだけの金額を稼ぐのは、今の日本社会ではけっこう大変なことだからだ。つまり、日本の経済情勢が、生活保護の価値を高めているということである。
・生活保護の受給者が、いったん受給を始めると、なかなか抜け出せなくなる要因の一つに、「働いて収入を得たら、その分の生活保護の支給額を削られる」という仕組みにあるといえる。現在の制度では、生活保護の受給者が仕事をして収入を得た場合は、その収入の分だけ生活保護の支給額が削られてしまうことになる。建前上は、いちおう控除額というものが定められており、その控除額分は自分の収入とすることができる。しかし控除額は非常に低く設定されており、働いた分のほとんどは自分の手元には戻らない計算になる。たとえば、生活保護の受給者にアルバイトが見つかって、月に5万円ほどの収入を得ることになったとする。となると月5万円の場合の控除額は、1万5222円である。つまり、1万5222円だけは自分のものにできるが、残りの3万4778円分は生活保護の支給額か減額されてしまうのだ。5万円分働いても、生活費の足しになるのは1万5000円程度ということにならば、働かないほうがましということになる。もちろん、生活は税金から拠出されているのだから、収入があった分を控除するというのは、当然のことである。だが、制度がこうなっている以上、生活保護が必要ないくらいの収入を一挙に得られる人でないと、現実にはなかなか生活保護から抜け出すことはできないのだ。
・あまり表面化することはないが、生活保護費用として税金から出されている金のうち、半分以上が医療費なのである。2011年には、生活保護費が3兆円を超えたということは社会的に大きな問題となった。生活保護費というと、「貧困者の生活費」というイメージがある。しかしこの生活保護費のうち、半分以上は医療機関などに渡っているのだ。これは異常なことである。普通の家庭での医療費は、社会保険から支払われている分も含めてだいたい収入の10%程度である。確かに生活保護受給者の中には、病人や身体に障害がある場合も多い。だから普通の家庭よりも医療費が、若干高めになることは考えられる。しかし、いくら高めになるといっても、家庭の支出の半分が医療費になるなどは常識では考えられない。では、なぜ医療費がこれほど跳ね上がったのか?それは生活保護のシステムが大きく関係している。生活保護受給者の医療費というのは、全額が生活保護費から支給される。医療機関にとってみえば、請求すればした分だけ、自治体が払ってくれるということだ。受給者にとっても、まったく負担感はない。だから、どれだけ診療費がかかろうとおかまいなしである。最近では、精神疾患を装って生活保護を不正受給するという手口も増えているが、その背景にも、この生活保護と医療費のシステムがあるのだ。つまり、病院が精神疾患の診断書を簡単に出すことによって、生活保護受給者を作りだし、病院の「顧客」を増やそうという算段である。医療機関にとって生活保護費というのは、実は重要な収入源になりつつある。
・悪質な貧困ビジネスの一つとして、病院の過剰診療というものもある。生活保護では医療費が全額公費負担とされている。そのため、病院側としては、生活保護の受給者が受診しに来れば、お金の取りっぱぐれはまったくない。むしろ病院としては上客といえる。そのため、生活保護の受給者に対して、過剰な診療を施して、多額の診療報酬を得る悪徳病院もかなりあるとされている。
・国や自治体が支出している生活保護費というと、われわれは、「困窮者の生活費に充てられている」とイメージしているが、実態はそうではないのだ。困窮者の生活費に充てられているのは、生活保護支出の半分にも満たないのである。生活保護費のうち、医療費が異常に多いというのは、生活保護受給者には高齢者や病人が多い、ということも関係している。しかし、支出額の半分も占めるというのは、やはり異常である。生活保護費3兆円のうち、実に1.5兆円が医療費なのである。これは概算で日本の医療費全体の5%程度になる。つまり、医療機関というのは、収入の5%を生活保護費から得ているということだ。生活保護で一番儲かっているのは、実は病院なのである。大阪市の橋下市長が、生活保護受給者の医療内容を厳重にチェックすべし、という方針を打ち出したのは、このことがあるからなのだ。
・福祉アパートと似たケースに、NPO法人による収容施設がある。NPO法人というと、貧困者のために活動している福祉団体というイメージがある。もちろん、NPO法人の多くはそのイメージ通りのものである。しかし、一部にはNPO法人の皮を被っている「貧困ビジネス業者」もいる。やり方は、福祉アパートとほとんど変わらない。NPO法人が建物を借り、ホームレスなどを集めて住まわせ、生活保護を受給させるのである。これだけならば立派な福祉活動である。しかし彼らの場合は、入居者から多額の家賃を徴収する。家賃は生活保護で認められた住居扶助費の限度額ギリギリに設定されていることも多い。かといって入居者たちは、いい部屋に住んでいるというわけではない。トイレ、風呂は共用の寮のような部屋がほとんどである。中には、一つの部屋に複数名が入るドミトリータイプもある。そんな部屋で多額の家賃を取るのだから、ぼったくりである。この構造は、福祉アパートとまったく変わらない。NPO法人の皮を被っているだけに、余計悪質だともいえる。NPO法人というのは、実は不正がはびこりやすい土壌を持っている。NPO法人は、それを監視するシステムというのがほとんどないのだ。一般の企業とは異なり、決算書を作って株主に営業内容を報告するような義務はない。一応、管轄の役所に一定の報告書を提出することになっているが、それは形式的なものである。また一般企業であれば、税務署の厳しいチェックにさらされるが、NPO法人の場合は、それもあまりない。つまり、NPO法人は、ある意味、法の抜け穴的な存在になっているのだ。
・福祉事務所というのは、都道府県や市などが設置している福祉行政を専門にしている”役所”のことである。生活保護のほか、児童福祉や母子福祉、老人福祉、障害者福祉なあど、福祉行政全般を担っている。生活保護を受けたいと思っている人は、この福祉事務所にまず相談に行かなければならない。生活保護の相談や申請、受給後の生活指導なども、すべてこの福祉事務所が窓口になって行われる。この福祉事務所は、自治体から独立した組織ではなく、自治体の機能の一部といえるものである。だから自治体の意向が強く反映される。簡単にいえば、福祉事務所といっても、実態は”役所”そのものなのである。この福祉事務所にはケースワーカーと呼ばれる生活保護に関する指導員がいて、このケースワーカーが相談に乗ることになる。ケースワーカーが、生活保護の希望者と面談し、必要と判断すれば生活保護の申請をさせるのである。ただ勘違いされやすいのだが、ケースワーカーが生活保護の申請に関する受理や却下の判断を任されているわけではない。ケースワーカーというのは、あくまで相談役としての存在であり、生活保護の申請をするかどうかというのは、本人が決めることである。しかし財政が悪化している自治体などでは、このケースワーカーが面談したときに、いろいろと難癖をつけて、受給希望者を追い返したり、申請書を渡さなかったりする。
・ケースワーカーは、生活保護の申請時の相談だけではなく、生活保護の受給が開始された後の受給者に対する生活指導などの役割を担っている。また、生活保護行政での判断については、ケースワーカーに委ねられている部分が大きい。そのため、生活保護受給者にとっては、ケースワーカーが閻魔大王のような存在となっているのである。たとえば、所有に関する成否も、ケースワーカーの判断による場合が多い。生活保護受給者が、仕事に使うのでどうしても自動車を所有したいと願い出た場合、その成否を判断するのは、事実上、ケースワーカーなのである。ケースワーカーの仕事は、大変なわりにあまり報われない仕事であり、希望者もほとんどいない。だから必ずしも有能な人が入ってこず、生活保護行政がさらに悪化するという悪循環となっている。ただし、このケースワーカーという存在はそれほど恐れるものではない。ケースワーカーといっても、しょせんは役人である。知識がない者、弱い者などに対しては、役人は適当に言いくるめようとするが、しっかりした根拠をもって、正当な主張をしてきた場合は、抗いようがない。そのためにも、生活保護の基本情報に関してしっかりした知識を身につけていただきたい。
・資産の処分などの準備が終わったら、福祉事務所の窓口に行くこととなる。福祉事務所に行く際には、あらかじめ話すことを自分で整理しておこう。福祉事務所で聞かれることは、だいたい次のようなことで。
・現在の収入状況
・仕事があるかどうか(探しているかどうか)?
・資産がどのくらいあるか?
・家族や親戚は助けてくれるのか?
これらの質問には必ず答えられるようにしておきたい。また福祉事務所では、話をしながらメモを取ることをお勧めする。メモというのは公的な記録にはならないが、もし何かで裁判になったときには、証拠になりうるのだ。メモを取っている場合、福祉事務所の職員は、下手なことは言えなくなるからだ。役人は、記録が残らない場所と、記録が残る場所では、態度がまったく違うので、記録を残すというポーズは効果があるのである。可能であれば録音してもいい。
・生活保護の申請に行くとき、劇的に有効なのは、「しかるべき人」と一緒に行くことである。「しかるべき人」というのは、生活保護申請に関する専門知識を持っている人のことであり、弁護士、NPO法人、政党関係者などである。これは役所のもっとも嫌な部分なのだが、専門知識がない人に対しては、適当に誤魔化して門前払いを食らわせるが、専門知識がある人に対しては厳正に法に則した対応をするのである。だから、条件さえクリアしていれば、簡単に生活保護を受けることができる。また役所は、当事者だけが訪れた場合は、横暴な態度に出るが、第三者が同席している場合は、丁重な対応をするのである。
・もっとも確実にお勧めできるのは、弁護士である。弁護士ならば、生活保護受給の法的な条件を満たしてさえいれば、確実に手続きをとってくれる。福祉事務所や役所の窓口でも、普通の市民が相談に来た場合は、なかなか申請書をくれないなどの意地悪をされるが、弁護士が同伴で来た場合は、そういうことはまずない。また生活保護の申請に関しては、弁護士は無料でやってくれる。これは、各地域の弁護士会が申し合わせて、生活保護の弁護士費用については無料にすることにしているのだ。各弁護士は、生活保護の申請を代行してやった場合、弁護士会から報酬のようなものが支払われることになっているので、弁護士としても損はない。だから、気楽に相談すればいいのである。弁護士を頼むには、直接、弁護士事務所に電話などでコンタクトを取ってもいいが、もっとも確実なのはその地域の弁護士会に連絡してみることである。また各弁護士会では、無料法律相談会を行ったり、「法テラス」という低所得者のための無料法律相談窓口を設けたりしている。それらを利用して、自分が生活保護を受けられるかどうかを打診し、受けられそうならば手続きの代行をお願いすればいい。「法テラス」の詳細は、インターネットで「法テラス」と検索すればすぐにわかる。
・驚くべきことかもしれないが、日本はほかの先進国と比べれば、生活保護の支出も受給率も非常に低いのである。他の先進国と比べた場合、日本の生活保護に関する支出は断トツで低く、自由の国アメリカの10分の1程度なのである。イギリスやドイツでは、生活保護を受けるべき貧困者の70~80%が実際に生活保護を受けているとされている。しかし、日本の場合、20~30%程度しか受けていないとされている。
・アメリカは子供のいない健常者(老人を除く)などに対しては、現金給付ではなく、フードスタンプなど食費補助などの支援が中心となる。現金給付をすると、勤労意欲を失ってしまうからである。フードスタンプとは、月100ドル程度の食料品を購入できるスタンプ(金券のようなもの)が支給される制度である。スーパーやレストランなどで使用でき、酒、たばこなどの嗜好品は購入できない。1964年に貧困対策として始められた。このフードスタンプは申請すれば比較的簡単に受けられる。日本の生活保護よりは、はるかにハードルが低い。2010年3月のアメリカ農務省の発表では、4000万人がフードスタンプを受けたという。実にアメリカ国民の8人に1人がフードスタンプの恩恵に与っているのである。もし日本にフードスタンプのような制度があれば、生活保護行政全体がかなり充実するし、不正受給もかなり防げるはずである。生活保護までは受けたくないけれど、国にちょっと援助してほしい、という人はかなり多いはずだ。また、ちょっと援助してもらえば、生活保護を受けなくてすむ人、路上生活に陥らなくてすむ人もかなりいると思われる。フードスタンプがあれば、そういう人たちを救うことになるのだ。行政側も、生活保護には慎重になるが、フードスタンプならば支給しやすいだろう。
・欧米は、昔から移民や難民を多数受け入れてきた。つまり外国人が非常に多いのである。欧米のホームレスの多くは、移民や難民なのである。欧米では、ホームレスの支援をするとき、もっともオーソドックスな方法は、国籍を取らせることである。国籍さえ取れば、国の保護が受けられるからだ。つまり、欧米のホームレスのほとんどは、自国の国籍を持たない、不法移民、不法滞在者なのである。正真正銘の自国民が、これだけ多く路頭に迷っているのは日本だけなのである。
・日本は、低所得者への住宅支援の面でも、先進国とは思えないほど遅れているのだ。日本では、住宅支援は公営住宅くらいしかなく、その数も全世帯の4%にすぎない。支出される国の費用は、わずか2399億円である。他の先進諸国の1~2割に過ぎないのだ。しかも、昨今、急激に減額されているのであれう。2399億円というのは、国の歳出の0.3%程度しかない。また国の公共事業費の2%にすぎない。住む家がない人が大勢いるというのに、橋や道路を造っている場合ではないだろうという話である。他の先進国ではこうではない。フランスでは全世帯の23%が国から住宅の補助を受けている。その額は、1兆8000億円である。またイギリスでも全世帯の18%が住宅補助を受けている。その額、2兆6000億円。自己責任の国と言われているアメリカでも、住宅政策に毎年3兆円程度が使われている。日本で公営住宅に入れる基準は「月収15万8000円以下」となっている。この基準では、子育て世代はまず入れない。子供が多くて、生活に困っている世代には、まったく用をなさないのである。しかも、月収15万8000円以下の人なら誰でも入れるというわけではない。公営住宅の総戸数が圧倒的に少ないので、抽選に当たった者しか入れない。2005年の応募倍率は9.9倍である。つまり、公営住宅は、貧困対策としてはまったく機能していないといっていい。生活保護受給者やネットカフェ難民、ホームレスなどが増えたのも、この住宅政策の貧困さゆえである。
・欧米の社会保障は、生活費全般の面倒を見ることよりも、「足りない分を補う」ということに重点が置かれている。住宅支援であったり、食事の支援であったりの部分的な扶助が充実しているのである。金銭的な扶助も、生活費を丸々面倒見るよりも、子供の養育費として支給したり、最低基準の所得と、現在の収入を比較して不足している部分を補う、というような形がとられている。それは、勤労意欲を保持しつづけるという面でも効果がある。つまり欧米の生活保護は多くの人が受けられる上に、勤労意欲を損なわない工夫がされているのだ。
<目次>
まえがき
序章 生活保護を受けるにはコツがいる
●「次長課長」河本氏の母親は、なぜ生活保護が受けられたのか?
●なぜ役所は、河本家の生活保護を止めなかったのか?
●一方で、餓死者も生活保護が受けられないことも?
●コツを知っていれば、生活保護は簡単に受給できる
●親族は扶養する義務はないのか?
●本当の問題は生活保護の不正受給ではない!
第1章 生活保護が激増した本当の理由
●なぜ生活保護受給者は激増したのか?
●生活保護受給率がもっとも高いのは大阪府
●「高齢化社会」「不況」が、生活保護のキーワード
●高齢者は貧富の差が大きい
●年収100万円以下の人が激増
●その一方で億万長者が激増
●小泉時代に激増した生活保護受給者
●株主の収入は4倍に
●生活保護受給者は努力不足か
第2章 生活保護の誤解と真実
●生活保護はどんなときに受けられる?
●日本人であれば、誰でも生活保護を受けられる(外国人も一部可)
●生活保護は申請しなければ絶対にもらえない
●おおよそ月12万円以下の収入ならば、生活保護を受けることができる
●半月分以下の生活費のお金しか持ってはいけない
●テレビ、エアコンもOK
●自動車の所有は原則としてダメ
●NHK受信料、社会保険料も無料・・・生活保護受給者の特典
●生活保護の内容は自治体によって違う
●仕事をしていても生活保護は受けられる
~ワーキング・プアのほとんどは本来、生活保護を受けられる~
●生活保護受給者は貯金があってはならないのか?
●生活保護の申請時に資産調査が行われる
●生活保護は借金があれば受けられないのか?
●住民票がない人でも、生活保護を受けられる
●生活保護を受けている人はどこに住んでもいい?
第3章 家族4人なら月30万円も、もらえる!
●生活保護の支給額は高いのか、安いのか
●家族4人(東京・千代田区)の生活保護の支給額は、月30万円!
●40歳、一人暮らし(東京・千代田区)では13万3700円
●年金より生活保護支給額のほうが月7万円も多い
●生活保護の支給額はなぜ高いのか?
●「まったく働けない人」を基準に作られた生活保護
●生活保護受給者がなぜパチンコに行ける?
●金だけ出して、アフターフォローをしない
●勤労意欲を奪う仕組み
~働けば、その分の生活保護の支給額を削られる~
第4章 「餓死者」「不正受給」・・・生活保護の闇
●餓死者、不正受給・・・生活保護はいったいどうなっているのか?
●なぜ餓死事件が頻発するのか?
●なぜ市は、彼らに生活保護を受けさせなかったのか?
●「水際作戦」~生活保護の申請をさせない~
●「硫黄島作戦」~生活保護を辞退させる~
●「水際作戦」も「硫黄島作戦」も、違法行為
●「闇の北九州方式:とは?
●温泉付き豪華マンションに住みながら生活保護を受給
●役所は強い者には弱く、弱い者に強い
●いまだに生活保護は、暴力団の資金源の一つとなっている
●「不正受給」も「餓死事件」も、最大の要因は役所の怠慢
●役人も個人の責任が問われる時代
●暴力団関係者への対処は、普通の役人では無理
●「国の責任ではない」-厚生労働省の呆れた言い分
第5章 病院、貧困ビジネス・・・生活保護が食い物にされている
●生活保護費の50%以上に相当する額が、医療機関に流れている
●生活保護法等指定病院の過剰診療とは?
●橋下市長の生活保護医療費対策とは?
●精神疾患を装って生活保護を不正受給
●精神疾患で障害年金を受け取りながら風俗店へ
●精神医療と生活保護の怪しい関係
●貧困地区に増殖する「福祉アパート」とは?
●貧困ビジネスの功罪
●NPO法人の貧困ビジネスとは?
第6章 生活保護を必ず受給する方法
●生活保護を受けるにはどうすればいいか?
●とにかく早く決断する
●闇金に手を出す前に
●車は処分し、預貯金は半月分以下の生活費程度にとどめる
●住居はとにかく確保しておく
●「福祉事務所」って何?
●生活保護受給者にとっての閻魔大王”ケースワーカー”とは
●福祉事務所の窓口へ行く
●福祉事務所に騙されるな!
●窓口では弱気ではダメ
●申請用紙をくれないなら自分で作ればOK
●市長(首長)あてに内容証明郵便を出す
●しかるべき人(団体)と一緒に行けば、一発で受理される
●もっとも確実なのは、弁護士に相談すること
●弁護士費用はほとんど無料
●ホームレスやネットカフェ難民の申請
●借金がある場合は?
第7章 日本の生活保護費はアメリカの1割
●日本の生活保護制度は遅れている
●日本の生活保護費はアメリカの10分の1
●日本の社会保障は発展途上国並み
●低所得者に補助金、食事券が出る欧米諸国
●日本にもフードスタンプがあれば、餓死事件は防げた
●欧米と日本では、社会保障の意味合いが違う
●貧困者向けの住宅も圧倒的に少ない
●日本の生活保護制度は勤労意欲を失う
●日本の失業保険は役に立たない
●年金の不備が生活保護受給者の激増を招く
●失業保険、年金、生活保護がバラバラで非効率
●「生活保護費が財政を圧迫している」というウソ
●日本は社会保障のことを真剣に考えたことがない
●先進国として恥ずかしくない社会保障制度を
第8章 生活保護予備軍1700万人の恐怖
●日本の生活保護は爆弾を抱えている
●非正規雇用が増えた理由
●先進国で最悪の非正規雇用割合
●最低賃金も先進国で最悪
●この10年間、日本ではほとんど最低賃金が上がっていない
●人件費削減の一方で、企業は300兆円もため込んでいる
●自殺者の激増と生活保護の関係
●最低保障年金など何の役にも立たない
●普通に働けば普通の生活ができる国へ
あとがき
面白かった本まとめ(2012年下半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。