あの会社はこうして潰れた 日経プレミアシリーズ | |
帝国データバンク情報部藤森徹 | |
日本経済新聞出版社 |
「あの会社はこうして潰れた」という本は、1900年創業の民間信用調査会社で国内最大の企業情報データベースを保有する帝国データバンク情報部の藤森徹さんが著者で、2015年5月から日本経済新聞電子版で掲載が始まった「企業信用調査マンの目」で紹介された倒産事例を整理し、「あの会社はこうして潰れた」ことをまとめたものです。
倒産の裏側には、産業構造の変化、高齢化による人手不足、事業承継問題、為替変動、不正会計、人脈の問題などがあるようで、どうすれば企業は潰れるのか、なぜ倒産が防げなかったのか、倒産の予兆、倒産を予測するには何が必要かなどについて分かりやすく説明があります♪
それらについて以下の通り紹介したいと思います♪
「あの会社はこうして潰れた」という本は、倒産事例の紹介だけでなく、倒産しないポイント等について分かりやすく説明され、とてもオススメです!
・呉服業界では、生き残るために時代の変化に合わせた対応力がこれまで以上に重要になっている。ネット販売へのシフトを進めるほか、「洗える着物」を開発するなど、縮小する市場に対応すべく変化を遂げた会社もある。これは呉服業界だけの話ではない。和菓子、清酒などは老舗が多いが、外部環境や嗜好の変化に見舞われ低迷する企業が少なくない。一方で100年、200年と続く会社もあり、長寿企業の経営者はこう口をそろえる。「会社は長く続いても、経営、商品は絶えず変化させないと生き残れない」
・結局は中小といえども「これだけは負けない」という得意分野や人材をひきつける技術力を持つことが生き残りのカギとなる。岩本組の破綻後の展開がそれを物語っている。技術者の派遣を手掛ける夢真ホールディングスが技術力に目を付け、スポンサーに名乗りを上げたのだ。岩本組の事業を引き継ぐ新会社を子会社として、大工や左官などの職人を育成する新ビジネスを計画しているという。
・旅行業を行うには旅行業法に基づき登録を受ける必要があるのだが、その業務の範囲によって、第1種旅行業者、第2種旅行業者、第3種旅行業者、旅行業者代理業者に区分されている。第1種は海外・国内の企画旅行の企画・実施、海外旅行・国内旅行の手配など取扱の範囲が最も広く、第2種では海外の募集型企画旅行の企画・実施を除く業務に限定され、以下、業務範囲がさらに狭くなる。この登録は旅行業法の定めにより5年ごとに更新が必要で、さらにレックスロード社長の供述にあるように、顧客の保護を図るため一定の金額を営業補償金として供託することが義務づけられている。つまり、旅行業者が経営破綻し債務不履行が発生したとき、顧客は一定の金銭的な弁済を受けることができるのだが、楽しみにしていた旅行計画が台無しになることには違いはない。もちろん無登録業者の場合は、金銭的な弁済すら受けられないと考えてよい。個人が会社の経営状態を見抜くのは難しいが、情報収集には気を配りたい。何種の旅行業者で登録されているかを調べるだけでも、トラブルに巻き込まれるリスクをかなり軽減できるはずだ。
・本質は「信用」の意味を見失ったことにある。上場維持による信用と、500年を超える「のれん」の信用。どちらがより重要で、守るべきものなのか、駿河屋は取り違えてしまった。古くから続く老舗菓子店は多いが、上場しているところはわずかだ。「のれん」の果たす役割の一つに「保証」がある。「あののれんを掲げる店の羊羹は間違いない」。味、品質、といったものだけでなく、作り手の信用までイメージさせる、強力なマーケティングツールだ。しかし一方で、少しでも問題を起こすと、それは大きなしっぺ返しとなり、消費者からそっぽを向かれてしまうリスクもはらんでいる。だからこそ老舗は「信用=のれんに恥じないこと」にこだわる。破産が決定したのちに、駿河屋労働組合は同社の和歌山での存続、再生を希望する署名を和歌山地裁に提出した。その数、何と約1万2000人分。製法、菓子型・木型、店舗、工場や職人の散逸は歴史的、文化的に損失が大きいとの声が集まった結果だった。失って初めて分かった「のれん」のありがたみといえよう。
・着服事件は中小企業に限ったことではない。大手製紙メーカー北越紀州製紙の子会社、北越トレイディングの経理部長が15年に約24億円を着服した事件も記憶に新しい。企業規模の大小を問わず、特定の社員に経理をゆだねる危うさが改めて浮き彫りになった。加賀屋の場合、本業以外への過剰な投資、取引先の倒産による不良債権の発生、経理担当者の着服と甘い対応が重なった。これでは業歴の長い地場の老舗企業も生き残れない。事業を継続する難しさを改めて示すといえるが、地場の有力企業であっても安泰でない時代。小さな変調のシグナルを見落とさない姿勢が信用調査マンにはいっそう求められるだろう。
・過去に不正会計から経営が悪化した企業の行動をつぶさに見ると共通項が浮かび上がる。1つは過去にトラブルの起きた企業や人物との接点。石山GHの場合、架空取引のあったグループ会社の所在地などが別の上場企業でトラブルになった企業と重なっていた。過去に事件を起こした人物が入り込んでくることもある。またこうした会社はまっとうな監査法人からはマークされるため、おのずと特定の監査法人が関与する。実は公認会計士・監査審査委員会は金融庁長官に対し、複数の監査法人に行政処分などの措置を講じるように韓国を行っている。
・受付は全員黒のスーツにネクタイ。まるでお通夜のような雰囲気だが、実際に行ったある債権者集会はまさしくそれであった。もちろん参加者には毎回受付が頭を下げる。債権者へかけた迷惑を考えたうえでの対応であろう。別の債権者集会では、ハラハラさせられる質疑応答が繰り広げられていた。倒産企業の取引先からは、仕掛中の製品や完成済みの在庫を抱え、本当に引き取ってもらえるのかどうか、引き取ってもらえない場合どう処理したらいいのかという切迫した質問が殺到。スポンサーを探している最中ということもあり、代理人弁護士からはとても満足できるような回答はなく、はたから見ていても参加者のフラストレーションが溜まっていくのがよく分かる。それでも何とか滞りなく集会は終了。帰り支度をしていると、何人かの債権者が倒産した会社の代表のもとに集まり深々と頭をさげているのが見えた。一瞬「立場が逆じゃないか」と思ったが、その企業がこれまで業界で果たしてきた役割の大きさ、そして債権者との立場関係を考えると納得。債権者集会ひとつとっても人間ドラマが垣間見える。
・電力小売りの自由化によって参入した企業は約800社(16年3月末時点)。そのなかでも有力企業の1つと見られた日本ロジテックは急拡大する事業に対して組織が追いつかなかった。社会的な期待が高かったにも関わらず、身の丈を超えた経営をしたことが破綻につながったといわざるを得ない。急成長の陰には思わぬ落とし穴やワナがある。そのことを改めて示す破綻だったといえるだろう。
・エステサロン系、専業サロン系、医療機関系はそれぞれメリット、デメリットを抱えているといわれる。急成長を遂げてきた業界のため、広告表示や返金システム、安全性などについてリーダーとなる企業がこれまでなかった。低価格をうたい、大量集客するビジネスモデルをとる同業者も多い。脱毛サービスが定着しつつある今だからこそ、業界が協力して顧客にとって分かりやすく、安全・安心なサービスにするために、一定のガイドラインを示すべきだろう。一方、顧客はこれまで以上に業界動向に気を配らなければならない。急成長していた会社がこうした形で資金繰りの悪化に直面するのは、英会話教室などで起きたことがある。サービス内容だけでなく、もっと広い視点から企業を見つめる必要があるといえる。
・2014年6月、千葉県柏市にみらいの「柏の葉第2グリーンルーム(GR)」が本格稼働したとき、多くの関係者はわずか1年後の破綻を予想していなかっただろう。大手デベロッパーが総額6億円を投資して植物工場を設置。みらいが設備の賃貸借契約を結び、レタスやハーブなどを生産する計画だった。工場はレタス日産1万株を収穫する能力を持ち、国内最大級。出荷などはみらいのほか、デベロッパーやJAグループが出資するみらいトレーディングが行い、全国の小売店などに納入する形だった。04年に資本金わずか10万円で設立。その後、銀行、生保、ベンチャーキャピタルなどの出資を集め、資本金は最終的に約3億5000万円、総資産は16億円を超える規模となった。政府による農業の6次産業化政策、東日本大震災の復興支援、不動産事業の多角化、金融緩和など、様々な思惑があったとみられる。みらいは一気に拡大路線を走り、出資や金融機関からの借入金はあっという間に9億円を超えた。急速な事業拡大のひずみはバランスシートに表れていた。支払いの安全性を示す流動比率は75.3%で、危険ラインの100%を大きく割っていた。支払い能力を示す買入債務回転期間は6.9ヶ月、有利子負債月商倍率は9.8倍など、財務面だけでいえば、「枯れた野菜」並みの実態だった。柏の葉第2GRの本格稼働から1ヶ月後の14年7月。みらいは続いて宮城県多賀城市にLED証明を使った世界最大規模の植物工場「多賀城グリーンルーム(GR)」を稼働させた。4年前に稼働させた千葉大学環境健康フィールド科学センター内の「柏の葉第1グリーンルーム」(千葉県柏市)と合わせ、日産2万3000株の生産体制ができあがった。しかし、一連の大型投資の綻びは生産が計画通り進まない点から生じた。植物工場は光熱費などのランニングコストが大きく、ちょっとした計画変更が大きなコスト増につながる。しかも植物の人工栽培では光の当て方や波長など、きめ細かなノウハウが必要とされ簡単ではない。新設した2施設のうち、計画にずれが生じたのは蛍光灯による栽培の柏の葉第2GRだった。試作段階では問題なかったが、本格的に稼働し始めると、当初1株70グラム程度の大きさに育ったレタスが2毛作、3毛作を繰り返すうちにサイズが小さくなり、生産計画が下方修正となった。一方、LED栽培の多賀城GRは工場単体で何とか採算ラインに乗った。このため柏の葉第2GRのLED化を検討したが、2億円の追加投資が必要で実現できなかった。収穫した野菜の販路開拓が不十分だったことも重なり、15年3月期は売上高8億1100万円に対して6億3500万円の経常損失となった。脆弱な財務基盤に大きな赤字が重なったことで、15年6月29日付で東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約10億9200万円。再生に向けてモールメーカーのマサル工業がスポンサーとなり、みらいの事業を引き継ぐ新会社MIRAIを15年11月に100%出資で設立した。柏の葉第2GRでは課題が出たものの、保持する技術に対する評価は高く「資金面での手当てがつけば、再建は十分可能」とある関係者は話す。特に既に実績のあるロシア、モンゴル、中東などへのプラント輸出は需要が見込めるという。植物工場では温度、湿度、光量などのバランスが重要とされている。みらいはそうした技術面の課題はクリアするために奮闘していた反面、企業経営におけるバランスに課題があったことが今回の破綻につながったといえるだろう。
・タレントを広告塔にする場合、タレント事務所に払うギャランティーや広告宣伝費、販促イベントのスタッフの人件費などの費用がかさむ。つまり、これらのコストを上乗せして商品の価格を設定しなければならないわけで、広告塔が消費者に飽きられた場合、収益的には非常に厳しくなる。事業の安定性を考えると、話題のブランドがいずれ消えたとしても企業としてやっていける体力が備わっていることが重要だ。定番商品がきちんと売れており、そのうえで話題のブランドが寄与している、あるいは話題のブランドを複数そろえている状態が望ましい。
・老舗といわれる「業歴100年企業」において、生き残るために必要なものとして多くあげられることの1つに「進取の気性」がある。つまり変化を恐れないことが、企業としての「長生き」の秘訣でもあるのだ。
・老舗といわれる「100年企業」に多く継承される「社訓・社是」には「浮利を追わず」といった財テクに警鐘を鳴らす内容が数多く見られる。裏返せばそれだけ中堅経営者にとって陥りやすいワナなのだろう。こういった財テク失敗の事例を見ると、情報の非対称性、適合性、ガバナンスの3点に問題があることが多い。エドウインの場合は、腕利きディーラーを相手に、ドル・円、ユーロ・円の勝負を挑んだ格好だ。相場のプロを相手に、勝てる可能性は低かったはずで、これは情報の非対称性の問題に行き着く。またグループ売上高500億円、総資産700億円の規模にまで成長していたが、身の丈ともいえる純資産は40億円程度しかなかった。適合性という視点で見れば、巨額のディーリングを行うには不釣り合いな会社規模だった。ガバナンスについては既に述べたとおりだ。更に財テクが恐ろしいのは、社長自身が情報を抱え込む衝動を抑えられなくなることだ。「儲かったら人には言わない。ましては損をしたら絶対に外部には言わない」のだ。ゆえに発覚したときは、損失がとてつもない規模に膨らんでいることが多く、手遅れとなったケースが少なくない。財テクの失敗は、決して特別なことではなく、いつでも陥る可能性があり、致命傷になることを、企業経営者は肝に銘じなくてはならない。
・帝国データバンクが保有する企業データベースによれば、老舗といわれる「業歴100年企業」には3つの特長があることが分かっている。1つ目が事業承継(社長交代)の重要性。2つ目が取引先との友好な関係。3つ目が「番頭の存在」だ。社長一代の平均就任期間は約25年、100年では4回の事業承継が必要になる。初代社長の経営理念はほとんどの場合、三代先へは直接は伝えられない。そこで「社訓」「社是」といったものが約8割の老舗に存在する。
・今回の経営破綻の教訓は2つある。1つはリスク管理のあり方だ。活路を見出そうと始めた新事業が想定外のトラブルに巻き込まれるのは実は珍しいことではない。むしろ経験が少ない分、予想していない課題が浮上すると考えるべきだ。それだけに経営者は設備投資にあたっては既存事業とのバランスを見極めながら、手を打つ必要阿gあるといえるだろう。また新事業で一気に100人を採用していたが、組織の急激な膨張はマネジメントの乱れを招きやすい。そのことを経営者はどれだけ認識していただろうか。もう一つは消費者への説明責任の大きさだ。企業はトラブルに対して、これまで以上にしっかりした説明や対応が求められるようになっている。特に食に関わるビジネスでは、消費者に対する説明責任はかつてないほど重要視される。
・ハイテク企業やベンチャー企業は「当たれば大きい」ビジネスとして、ハイリスクマネーが流れることがある。経営者も「技術さえあれば、大丈夫だ」と油断して高金利など厳しい融資条件で資金調達することがある。「このヤマさえ乗り越えれば」といったワナだ。
・レセプト債は一般になじみがないが、病院関係者に知られていたほか、一部の投資家から注目を集めた金融商品だった。病院など医療機関は通常、患者に対する診療後、国民健康保険などから診療報酬を受け取るまで2ヶ月ほどかかる。このため、資金繰りの厳しい病院ではこの間、医師への給与や医療機器、薬品の支払いが滞りかねない。ここに目をつけたのがオプティ社だった。病院は診療報酬請求権をオプティ社の特別目的会社(SPC)に売却することで、通常の診療報酬の受け取りよりも迅速に現金を回収できる。このため赤字などで経営の苦しくなった病院が資金繰りの手段として活用してきた。一方、SPCは買い取った診療報酬請求権をレセプト債として証券化。オプティ社と関係の深いアーツ証券など証券会社7社を通じて投資家に販売していた。一部の証券会社は自らもレセプト債を購入していた。レセプト債は当初、診療を終え2ヶ月先に入金となる診療報酬を債権としてSPCに売却する仕組みだった。ところが関係者によると、実際には「2年先、3年先を見越した診療報酬までもSPCに売却」するようになっていたという。この場合、過去の実績に基づいて想定される診療報酬額を設定し、その80%をSPCが医療機関に支払っていたとみられる。だが医療機関は赤字経営が多いことなどから、例えば大手ノンバンクは警戒する傾向にあるといわれる。しかも先食いは長期間にわたって行われてきたとみられ、その分レセプト債のリスクは高まっていたことになる。気をつけたいのは破綻の影響が投資家にとどまらないことだ。いくつかの病院は2年先、3年先の診療報酬請求権を売ることによってオプティ社から月々の支払いを受けていた。しかし経営破綻によって、こうした病院は新たに診療報酬請求権を売却して、資金繰りを計画することが不可能になっている。それだけに、これをきっかけに廃業や倒産を検討する病院が出てもおかしくない状況にある。
・通称「パクリ屋」といわれる詐欺集団が、言葉巧みに取引を持ちかけ、数百万円、数千万円単位で商品などをだまし取る。大掛かりなケースだとその被害総額は十数億円にも膨らむことも。現在でも全国で10を超えるパクリ屋が暗躍していると見られる。その典型的な手口はこうだ。まずターゲット企業に電話やFAX、電子メールなどで「御社の商品を扱いたいのでサンプルが欲しい」と言って商談を打診する。昔はターゲット企業の選定に電話帳などが使われていたが、現在はインターネットのホームページが主流になっているようだ。大規模な展示会に潜り込み、その場で商談をまとめることも多い。パクリ屋は銀行、自治体が主催する商談会にも現れ、相手が自然に信用してしまうことを狙うなど、年々手口は巧妙化している。狙われる商品は日持ちする冷凍食品、食肉、水産品のほか、パソコン、ブランド品、急速に需要が高まった発光ダイオード(LED)関連商品など。共通するのは換金性が高い点だ。お歳暮の時期には贈答用に利用される食品や値崩れしにくい有名ブランドのノートパソコンが狙われやすくなる。
・「パクリ屋」は商談を設定してターゲットに接触できたら、次のステップは信頼の獲得だ。取引の前に、会社案内や登記簿謄本、決算書をFAXなどで送付。大手企業との取引、多額の資本金、黒字経営による支払能力の高さなどをアピールする。あの手この手で相手先を信頼させるのが常套手段だ。その後、取引開始に成功すると、最初は現金で、少額の商談を数か月続ける。ある程度の信頼を得たころに、大口商談を持ちかけ、一気に巨額の商品を取り込み、代金を支払わないまま逃げてしまうのだ。年末年始、大型連休、年度末などの直前に動きを活発化させるのもパクリ屋の特徴の一つ。決算直前やシーズンの節目に売上実績が欲しい企業にとって、新たな取引先からの大口受注は干天の慈雨に思えてしまう。これを逆手に取ったうえ、長期の休暇を挟めば、逃亡や証拠隠滅の時間を稼げるのがその理由だ。同じ複数のメンバーが、複数の会社を使いながら取り込み詐欺を重ねていくのもパクリ屋の特徴だ。大半のケースで休眠会社を手に入れた後に、会社の商号、役員、定款(営業目的)などを変更し、全く別の会社を作り上げる。実は「会社登記」マーケットなるものも存在する。インターネットで検索すれば会社を売買する業者があることが確認できる。長い業歴、各種の登録免許、銀行口座、手形帳などがそろっている会社が金を出せばすぐに手に入るのだ。それでは取り込み詐欺の被害から企業を守るにはどのような点に気をつければよいのか。最初に確認したいのは会社の商業・法人登記だ。今は各地の法務局に出向かなくてもインターネットで閲覧できる。ある食品会社の場合、商号は過去10年で4回変更。また代表取締役も4回と不自然な動きが見える。過去の倒産を隠すためにダミーの社長を登記することも少なくない。
・本業と明らかに異なる事業を開始した場合も注意したい。たとえば建設業者や印刷業者が食品、家電の販売を始めた、などといったケース。登記簿の「目的」の項目に大きな変化がないかチェックしてみよう。本店の移転も重要な確認ポイント。会社の登記には、法務局の管轄があって、それをまたぐとそれまでの変更内容が「閉鎖登記」に回され、表面的には「まっさら」の会社が出来上がる。疑念が湧いたら閉鎖登記も併せて閲覧するのがよいだろう。登記の確認に加えて励行したい基本動作は相手の会社への直接訪問だ。百聞は一見に如かず。社長が姿を見せない、事務所のレイアウトが不自然など、怪しい会社は独特の雰囲気を醸し出していることが多く、それに気づくだけでも相当数の詐欺は防げる。
・経営者にとって重要な資質に「情報力」がある。業界、同業者、経済など様々な外部情報があるが、忘れてはならないのが内部情報を集め分析する能力だ。悪い情報をあげさせ吟味する。苦言を呈し体を張って止める者に耳を貸す。これが出来なくなることが、ワンマン経営者の陥りやすいワナともいえる。もちろん、法律を順守するのは経営者の資質以前の原則であることは言うまでもない。
・出版業界は出版社、取次、書店の3業態で構成されている。出版科学研究所によると、出版社は中小を含めて約2000社。取次業者はいわば書籍の問屋にあたり、大手の日本出版販売、トーハンのほか、大阪屋、今回の倒産した栗田出版販売を含む中堅など合わせて約30社。書店は全国に約1万4000店ある。日本チェーンストア協会によれば、最近ではコンビニエンスストアの店舗数が書店の約4倍に拡大。大手取次の積極的な思索でコンビニが販売チャネルとしてシェアを伸ばしている。
・出版業界では再販売価格維持制度(再販制度)のもと、「返品条件付売買」で流通が成り立っている。書店が返品した場合、取次からの販売価格で返金。取次も出版社に対して同じ販売価格で返品、返金を行う。新刊本は約7割、雑誌などは約4割が返品されるといわれる。
・一方で出版業界は販売の減少にされされている。出版科学研究所によると、96年の2兆6564億円をピークに市場規模は減少傾向が続いており、16年には1兆4709億円まで落ち込んでいる。背景には主要購買層である若者の減少、携帯電話、ゲームなどへの支出、新古書籍販売店の進出、図書館利用の増加などがある。取次や書店を経由しないネット販売の急速な拡大、電子書籍の影響も出始めてきた。追い打ちをかけたのが14年の消費税増税で、雑誌の販売冊数の場合、増税後ほとんどの雑誌が1割近い落ち込みとなった。
・過去の他者事例として、えたいの知れない外部の人間が「御社を上場させるから」と言って企業に入り込み、上場という夢に舞い上がった社長が経理の全てを任せたために、いつの間にか決算が粉飾されていたというようなケースもある。経営者としてのバランス感覚が大事であるなどと簡単に言うつもりはないが、少なくとも計数面が不得手、関心を持たない経営者というのは破綻会社ではしばしば登場するものである。トップの自覚はもとより、トップの不見識を戒める人物が企業には必要だ。
・企業信用調査マンの世界では、「手形の出回り」は資金繰りの悪化を疑うシグナルの一つだ。60日後や90日後など一定期間後の期日に現金化されることを約束した「約束手形」を、いくつかの金融業者に持ち込むものの、割引(事実上の融資)を断られる事態を指す。振出人(資金を支払う側)や、持込人(手形を受け取り現金化した資金を受け取る側)どちらか、もしくは双方の信用不安が理由であることが多い。
・高齢者向け施設の需要の急拡大が見込まれているなかで、事業者の経営破綻が増える理由は、金融面でのサポートが難しいことが挙げられる。事業者が銀行などの金融機関に設備投資の融資を頼むケースは多いが、通常の住宅や病院と比較してまだ制度が確立されていないことから、積極的な融資が受けられているとは言い難い。銀行側から見ると、融資に消極的にならざるを得ない理由がある。介護事業は、介護報酬の引き下げや予防介護への転換など国の政策に大きく影響されるため、経営推移の予見が難しい。また入居者の募集の面でもマンションとは違い数か月で「完売御礼」とならないため、資金繰り悪化による事業者の破綻リスクが比較的大きくなりがち。従来の不動産融資とは異なった判断を要する場面が多いのだ。さらに入居保証金は、将来の負担増加を避けたい入居者や家族にとっては安心感のある制度だが、事業の安定性から見れば、一定期間ごとに利用料を払う「家賃」制度のほうが理にかなっていると指摘する専門家もいる。急速に拡張する高齢者施設のニーズに対して、事業者側の経営体力、金融機関の知見、行政側の制度などがうまくかみ合っていないのではないかという疑念がぬぐえない。
・では現時点で有料の高齢者施設を選ぶ場合、どのような点に注意すべきか。まず各都道府県の保健福祉局などが公表している「重要事項説明書」を確認することだ。これには各施設の状況が記されており、誰でもホームページなどで閲覧が可能だ。室数と定員が示されているので、事業者側に現在の入居者数を聞けば、入居率を自分で計算できる。一概には言えないが、おおむね80%以上であれば経営環境は安定しているといえる。入居率を左右するのは、その施設が「介護」サービスを提供しているかどうか。現在人気なのは「介護付き」物件なので、将来の入居率を予想するうえでもポイントとなる。さらに重要事項説明書では、従業員の配置もしっかり確認しておきたい。職員体制の項目で職員一人当たりの入居者数や看護、介護職員数、常勤、非常勤などの雇用状況が記されている。入居保証金の保全状況も確認できる。現在は法律によって500万円以下は保全措置が取られているが、2006年以前に設立された施設は保全されていないケースがある。また500万円を超える高額保証金も、不動産投資信託(REIT)が出資しているケースでは保全されていることもありチェックが必要だ。いずれにしても終のすみかになる可能性がある物件はしっかりと情報収集をして、場合によっては家族だけでなく専門家にも意見を求めて細心の注意で選択したいものだ。
・優秀な技術者や研究者、営業のプロなど現場で輝かしい結果を出してきた者が、管理・経営の立場に回った途端にぱっとしなくなるのはよくあることだ。
・帝国データバンクは企業の分析にあたって、ヒト、モノ、カネの3つの角度からみるチェックシートを用意している。倒産につながる情報も3つの角度でみていく。ヒトについては、会社の管理職が辞めるタイミングが倒産の予兆の一つだ。特に注目すべきは営業部長、経理部長。たとえば経理部長が銀行から来ている会社の場合、辞めた後に後任が銀行から来ない場合だ。また経営トップの肩書きがあまりに多いのは危険だ。業界団体の役職、政治団体などの肩書きが増えると、本業がおろそかになりがちだ。経営を部下に任せきりにしてしまい、会社が火の車になるのに気づかない経営者もいる。社内の雰囲気も重要だ。売上規模の割に会社の電話が鳴っていなかったり、来客が極端に少なかったりする場合や、大量採用・大量離職が起きている会社は要警戒だ。「予告もなく、突然店を閉めた」などの情報や従業員への給料遅配などの情報は重要な端緒となる。モノに関しては「△△会社が高価な商品をたたき売っている」といった商品の換金売りなどの情報が重要だ。同時に市場価格より高い価格でも原材料・商品の仕入れを行う会社は、ほかの仕入れ先から見放されるといった危険が潜む可能性がある。急激な製品発注の増加や購買量の増加には注意したい。経営が立ち行かなくなることを見込み、民事再生法などを申請した後に営業を継続するため、あらかじめ商品を大量に仕入れておくケースがある。流通大手などからの大口の返品やトラブルの情報などもキャッチしたい。カネについて、倒産の兆候はやはりお金の動きから分かることが多い。例えば「〇〇社から月末に払われるはずのお金が入ってこない」という情報はすぐに回ってくる。理由を直接聞きたいが「会社の力関係もあってなかなか聞けない」という場合が多く、信用調査会社に問い合わせが入る。月末に経理担当者や社長が見つからないのは危うい兆候だ。資金繰りが苦しい会社に対しては、取引先の銀行員が様子を見に行くことがある。このためそれも危険を知らせるシグナルになる。資金繰りの苦しい会社は従来取引のあるメガバンクや地方銀行、信用金庫で手形を割引してもらえなくなる。そういった場合、市中の割引業者(いわゆる市中金融)に手形を持ち込み、割引(額面より少ない価格での換金)で現金化しようとする。このため「手形割引」は信用調査マンが特に注目する情報だ。
・割引業者は手形の過去の履歴に詳しいほか、手形の成因にも注意を払う。たとえば建設会社が突然、異業種の食品会社と取引するといった手形には警戒する。手形の通し番号には注目。通し番号が大きいのは、それだけ手形を多く切っているからで、そこから資金繰り悪化の可能性を考える。さらに「収入印紙の貼り方」「チェックライターを使わず手書きで数字が書いてある」「社判がいつもはきちんと押してあるのに、今回は斜めになっている」などの些細な変化から、割引業者は手形が落ちるかどうかを見極める。それだけに信用調査マンは手形業者の動きに注目している。信用度の低い会社の手形は換金してくれない場合も多いため、割引率の高い(換金額が少なくなる)金融会社を回ることになる。そうした情報や業者間で手形割引を断られる「割り止め」の情報は重要だ。手形の期間が長くなることで経営の異変が分かる場合もある。昔から呉服業界には210日(約7ヶ月)の長い期間の手形があるが、一般的には支払い期間が長くなるのは危うい兆候だ。返済期間を延ばさないと資金繰り難しくなる現れだからだ。支払い期間が90日だったのが120日、150日になるのは重要な情報とみるべきだ。決済する銀行の変更には注意が必要だ。従来メガバンクのA銀行から振り出していた会社がB銀行に変更する場合、A銀行からの取引が難しくなっているケースがある。