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「あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた」という本は、人間の腸内にはマイクロバイオータと呼ばれる100兆個もの共生微生物があり、実はそれらが必須ビタミンを合成したり、頑丈な植物繊維を分解するなど重要な役割を担っており、それらの微生物環境が健康を左右するということについて書かれています。
実は人間の細胞1個につきそれに乗っかっているヒッチハイカーの細菌と菌類等は9個もあることから、書名にもなっている通り、実は人間の体は9割は細菌類であり、それら無しでは人間は生きていけないとは驚きましたね♪
実は1940年代にペニシリンという抗生物質が発明され、それら抗生物質が進化して感染症による死を大幅に減らすことができ、人間の平均寿命を長くすることができましたが、本書では実はその抗生物質によりターゲットの細菌だけでなく、腸内に4000種類もいるという細菌類に影響を及ぼしていることが判明し、以下の病気が急増しているとは驚きました!
現在はその因果関係が徐々に明らかになりつつあるようです。
・花粉症
・アトピー性皮膚炎
・ぜんそく
・1型糖尿病
・多発性硬化症
・関節リウマチ
・腸のセリアック病
・クローン病
・過敏性腸症候群
・筋炎
・狼瘡
・強皮症
・肥満→心臓病・脳卒中・糖尿病・高血圧・がん
・自閉症
・注意欠陥症
・トゥーレット症候群
・強迫性障害
・うつ病
・ニキビ
また自然分娩や母乳が赤ん坊の腸内に母親の微生物をもたらし健康となりやすく、逆に帝王切開で生まれるとアレルギーになりやすいとは驚きましたね。
そして、では乱れてしまった腸内環境を正常に戻すにはヨーグルトなど体に良い細菌類を含むものを食べるだけでなく、腸内へ健康な人の糞便移植をすることが有効とは驚きましたね!
「あなたの体は9割が最近 微生物の生態系が崩れはじめた」とい本は、健康の真実に迫り、とてもオススメです!
さすがAmazonでもこの分野でNo1の売れ行きだと思います。
以下はこの本のポイントなどです♪
・21,000個の遺伝子だけがあなたの体を動かしているのではない。人体は、共存共栄しながらあなたの体を維持している生物種の「集合体」である。ヒト細胞は確かにサイズや重量の点では大きいが、数で比べれば共生微生物の細胞のほうが10倍も多い。マイクロバイオータと呼ばれる100兆個の共生微生物はおもに、たった一つの細胞でできている細菌だ。微生物には細菌以外にもウイルス、菌類、古菌類などがいる。人体に棲むこれらの微生物を合わせると、遺伝子の総数は440万個になる。これがマイクロバイオータのゲノム集合体、つまりマイクロバイオームである。微生物の440万個の遺伝子は、21,000個のヒト遺伝子と協力しながら私たちの体を動かしている。遺伝子の数で比べれば、あなたのヒトの部分は0.5%でしかない。
・平均すると長さ8cm、直径1cmの管状の虫垂は、消化管通過する食べ物の流れにじゃまされない位置にある。だが、しなびた見た目とは裏腹に、内側には特殊化した免疫細胞と分子がぎっしり詰まっている。虫垂は役に立たないどころか免疫系に必須の部位で、微生物共同体を守り、育て、情報を伝達し合っている。虫垂の中で微生物はバイオフィルムを形成している。バイオフィルムとは、互いに支え合い、有害な細菌を侵入させないよう守る層のことである。どうやら虫垂は、人体が微生物のために用意している隠れ家のようなのだ。巣の中の卵が雨の日も守られるように、虫垂に隠れている微生物は消化管に危機が生じたときも守られる。食中毒や感染症で荒らされた消化管はその後、虫垂に隠れていたいつもの微生物で再び満たされる。これを過剰補償のついた保険のように感じたなら、あなたは恵まれた環境にいる。赤痢やコレラ、ジアルジア症のような消化管感染症が先進国でほぼ姿を消したのは、ここ数十年のことだ。先進国では下水設備や水処理プラントなどの公衆衛生対策がこうした病気を防いできたが、地球全体で見れば、いまだに子どもの死因の5件に1件は感染性下痢症である。死なずにすんだときは、虫垂のおかげで回復が早まる。虫垂に何の機能もないように見えるのは、こうした病気が身近な者で亡くなったからだ。虫垂を切除することの不利益は、現代の衛生水準のおかげで表面化せずにすんでいる。
・現代の先進国でも、少なくとも成人になるまで虫垂は保有していたほうがいいことがわかっている。再発性の消化管感染症や免疫機能障害、血液の癌、一部の自己免疫疾患、さらには心臓発作まで予防してくれるからだ。虫垂が微生物の隠れ家であることが何らかの形で役に立っているのだろう。虫垂は無駄な器官ではなかったという発見は、もっと重要なことを教えてくれる。私たちの体にとって微生物はなくてはならない存在だという事実だ。微生物は単にヒッチハイクをしているのではない。微生物はヒトの腸のために尽くし、ヒトの腸は微生物のために尽くすというように互いに進化してきた。
・糞便の中身は食物の残骸というよりほとんどが細菌だ。生きている細菌もあれば死んでいる細菌もある。糞便の重量の75%は細菌で、食物繊維のカスは17%だ。あなたの腸は常時、肝臓と同じ重量に相当する1.5kgの細菌を抱えている。細菌の個体の寿命は数日か数週間だ。糞便から見つかる4,000種の細菌が語ってくれる人体についての情報は、ほかの場所から得られる情報すべてを合わせたよりも多い。糞便に見つかる細菌は私たちの健康状態と食生活の指標となる。糞便中に圧倒的に多い細菌のグループはバクテロイデス属だが、あなたの腸内細菌はあなたが食べるものを食べているので、腸内細菌の組成比は人それぞれで異なる。しかし腸内微生物はただの残飯あさりではない。微生物は私たちの食べ残しを利用しているが、私たちも微生物を利用している。進化で得ようとすればとてつもなく長い時間がかかる機能を、私たちは微生物にアウトソーシングする。脳の働きに不可欠なビタミンB12をつくるタンパク質のための遺伝子がなくても、クレブシエラがその仕事代わりにやってくれる。腸壁を形成する遺伝子がなくても、バクテロイデスがやってくれる。進化で一から遺伝子をつくるより、微生物にやらせたほうがずっと安上がりで簡単だ。腸内に棲む微生物はビタミン合成にとどまらず、もっと多くの働きをしている。
・バクテロイデーテス門とフィルミクテス門の細菌における存在量の違いが肥満の原因なのかもしれないと思ったレイは、期待に胸を膨らませながらヒトについても調べた。マウスと同じ結果が出た。太ったヒトにはフィルミクテス門の細菌が、痩せた人にはバクテロイデーテス門の細菌が多かった。
・AD36は感染したニワトリを太らせた。別のアデノウイルスに感染させたニワトリは太らなかった。いちばん重要なのは、AD36がヒトでも同じ作用をするかどうかだ。ヒトもこのウイルスに感染すると太るのだろうか?このウイルスを意図的にヒトに感染させることはできない。その被験者が肥満になった場合に元に戻す治療法がないからだ。ドゥランダハル戸アトキンソンは次善策として、霊長類の仲間であるマーモットという小型のサルで実験することにした。そして、マーモットもAD36に感染すると太った。確かな手応えを感じたドゥランダハルは、ヒトの肥満とこのウイルスの関連性を見るために、自主的に提供に応じた数百人から集めた血液にAD36の抗体反応を示すものがないか調べてみた。なんと、肥満者の30%が過去にこのウイルスに感染していたことがわかった。太っていない人では11%である。ニワトリがこのウイルスを保有していると、食事量や運動量を変えないまま、同じ食事からより多くのエネルギーを脂肪として蓄える。太った人の腸内細菌と同じように、AD36のウイルスも通常のエネルギー貯蔵システムを改変してしまう。このウイルスが肥満の流行にどの程度関与しているのか正確なところはまだわからないが、肥満は生活習慣病というよりエネルギー貯蔵システムの機能障害と言ったほうが良さそうだ。
・痩せた人と太った人の腸内で存在量の違いが見られる微生物に、アッカーマンシア・ムシニフィラという細菌がいる。痩せた人にはこの細菌が多くいて、この細菌が少ない人ほどBMI値が高い。この細菌は、痩せた人では腸内微生物全体の4%を占めているのに対し、太った人ではほとんどゼロだ。アッカーマンシアが痩せた人の腸内に多いのは、この細菌が粘液好きで、粘液層が厚いほど繁栄するからだと思うだろう。実際はその逆で、この細菌が腸壁細胞に働きかけて、より多くの粘液を分泌させている。アッカーマンシアはヒトの遺伝子に化学信号を送って粘液の分泌を促し、それによって自分たちの棲み処を得て、結果的にリボ多糖が血液中に入り込むのを阻止している。
・もし腸内微生物が、幼い脳が発達する重要な時期に影響するのなら、アンドルーの自閉症は腸内感染症が原因だというエレン・ボルトの仮説を裏付けることになるかもしれない。遅発性自閉症は正常に成長したあと1~3歳になって発症する。これは脳の大半が発達する時期と重なる。この時期は、大人とほぼ同じ安定した腸内マイクロバイオータが確立する時期でもある。アンドルーが幼いころ耳の感染症を疑われて受けた抗生物質の治療は、まだ安定していないマイクロバイオータを乱し、神経毒素を産生する破傷風菌の増殖を許したのかもしれない。エレンは、アンドルーの腸内に巣食っていると思われる破傷風菌を抗生物質で滅ぼせば、息子の脳へのダメージが治まるのではないかと期待した。リチャード・サンドラーが破傷風菌を殺す抗生物質の投与を開始して2日後、アンドルーの多動は驚くほど落ち着いた。エレンはそのときのことをこう語る。「これほどまでに効くとは思っていませんでした。2週間目に入ると、正しいランプが1つまた1つ点灯していくように戻っていきました。私は息子のトイレ訓練を開始しました。4歳になってやっとですよ。2週間ほどで習得しました。そしてこの3年ではじめて、息子は私の言うことを理解できるようになったんです。」アンドルーは家族の愛情に応え、共感を示す子どもになり、それまで2,3言しか話せなかった言葉をたくさん覚えるようになった。着替えを嫌がらなくなり、Tシャツの前面がどろどろになるような食べ方をしなくなった。
・重要なことがわかった。自閉症児は健康児に比べて、平均すると腸内にクロストリジウム属の細菌が10倍も多くいたのだ。おそらく破傷風菌の菌種も幼い脳にダメージを与えるような神経毒素を出すのだろう。さて、腸内細菌の組成が違うだけで、本当に子どものふるまいが変わるのだろうか。自閉症児のように平手打ちを繰り返し、体を前後にゆすり、何時間も叫び声をあげるようになってしまうのだろうか。どうやらその可能性は高い。トキソプラズマに感染したラットが恐怖心を失って、広々した場所に出ていったりネコの尿のにおいに引き寄せられたりするように、トキソプラズマに感染したヒトもふるまいが変わる。ネコ好きの人はトキソプラズマに感染しやすい。ペットとして家の中で飼われているネコであってもこの原虫に寄生されていることはあるので、飼い主がトイレ砂を始末しているときなどに、引っかき傷から簡単に感染する。フランスのパリで妊婦を対象に検査したところ、なんと84%がトキソプラズマに感染していた。ほかの都市の妊婦ではニューヨークで32%。ロンドンで22%だった。検査対象が妊婦に限られているのは、妊娠中にトキソプラズマに初回感染すると胎児に危険が及ぶからだ。妊婦以外の成人感染者に健康の影響が出ることはめったにない。しかし、健康に影響は出なくても性格が変わる。
・不思議なことに、トキソプラズマに感染すると男と女では性格が逆向きに変わる。感染した男性は陰気になり、社会ルールや道徳を無視するようになる。そして疑り深く、嫉妬深く、不安になりがちだ。一方、感染した女性は明るくおおらかになり、心が広く決断力のある自信家になるこの変化は不特定多数との性行為を許す環境になると考えれば納得がいく。女性がガードを緩め、男性が他人へのリスペクトやモラルをなくせば、人の男女もラットと同じように大胆になるということだ。トキソプラズマ感染の影響は性格の変化にとどまらない。感染者は男女とも、反応が鈍くなり集中力を失うことが多くなる。このことは実験室内ではさほど問題にならないが、外界では深刻な問題となる。プラハのカレル大学の調査によると、交通事故を起こして入院した患者150人は、交通事故を起こしたことのない市民に比べて高い割合でトキソプラズマに感染していたという。つまりトキソプラズマに感染すると3倍も事故を起こしやすくなる。トルコでも似たような調査結果が出ている。交通事故を起こした運転者はそうでない人の4倍も多くトキソプラズマに感染していた。
・多くの微生物が心の病気と関係あることが明らかになったが、なかでもトキソプラズマは、心の病気の多くに関連していることが判明した。この原虫にはじめて感染したとき、幻覚や妄想などの症状を呈する人がときどきいる。この症状から、統合失調症という最初の誤診が生まれる。実際、統合失調症の患者集団におけるトキソプラズマ感染の有病率は一般集団におけるそれの3倍も高い。統合失調症とトキソプラズマとの相関関係はこれまでに明らかになっている統合失調症と遺伝子との相関関係よりずっと強野田。面白いことに、統合失調症のみならず心の病気の患者集団全般で、トキソプラズマ感染は多くみられる。強迫性障害や注意欠陥多動性障害、トゥーレット症候群の患者にトキソプラズマ感染が見つかるケースはここ数十年でどんどん増えている。
・キスは、ヒトに固有の文化的なしぐさだと思われることが多い。この人は自分の所有物だということをそれとなく示すためのもの。だが実際には、唇と唇を重ね合う行為をする動物はヒトだけでない。チンパンジーなどの霊長類はもちろん、ほかの動物もキスに相当することをしており、その目的はかなりの部分が生物学的なものだ。関係を深めるために唾液とその中にいる微生物を交換するというのは、けっこう危険な行為だ。とりわけ、どんな病気をもっているかわからない他人と舌をからめるディープキスは危うい。しかし、そこが重要なのかもしれない。自分の子の父親となるかもしれない相手がどんな細菌を有しているのか、確かめるための手段になるからだ。自分よりもさらに弱い存在である未来の子どもに代わって確かめるという意味もあるのだろう。それだけではない。キスは互いのマイクロバイオータを試食することでもある。キスは、相手の遺伝子や免疫型の味見のようなもので、私たちはその行為を通して感情的に生物学的に信頼できる相手かどうかを判断しているのかもしれない。
・生きた細菌を食べるとなぜ幸福感が増すのか。一つには、気分の調節をつかさどる化学物質であるセロトニンが関係している可能性がある。神経伝達物質のセロトニンはおもに腸内にあり、腸の働きを円滑にしているが、全体の10%ほどのセロトニンは脳にあり、気分や記憶を調整している。但し、食べた細菌が腸内で工房を開いてセロトニンを増産してくれるというほど単純な構図ではない。生きた細菌を体内に入れるとそれが合図となって、まずは別の物質であるトリプトファンの血中濃度が上がる。トリプトファンはセロトニンに直接変換されるので、幸福感を得るのに欠かせない物質だ。うつ病患者ではトリプトファンの血中濃度が低いことが多く、トリプトファンを含むタンパク質をあまり食べない国では自殺率が高いという。トリプトファン含有食品の摂取をやめると一時的に重症のうつ病になる。トリプトファン不足はセロトニン不足を意味し、セロトニン不足は幸福感不足を意味する。ここで注目すべきは、細菌を加えるとトリプトファンが増加するのは細菌がトリプトファンを産生しているからではないということだ。細菌は、トリプトファンを破壊していた免疫系の過剰反応を抑えるのだ。このことはこれまでになかった着眼点で、微生物学者のみならず他の分野でも受け入れられつつある考え方だ。アレルギーや肥満がそうであるように、うつ病も免疫系の機能不全が原因なのかもしれない。
・抗生物質が免疫系のふるまいを変えたぐらいで新たな病気になることはないだろうとみなさんは思っているかもしれない。だが8万5千人を対象にした試験では、ニキビの治療に抗生物質を長期間服用した患者群は、抗生物質を使わなかった対照群に比べて2倍も多く、風邪その他の気道感染症に感染していた。大学生を対象とした別の似たような試験では、抗生物質治療群が風邪を引くリスクは対照群の4倍という結果が出た。
・プリストル大学の研究グループは、2歳になる前に抗生物質を当てられた小児(なんと全体の74%が2歳までに抗生物質の治療を受けていた)は、8歳になるまでにぜんそくを発症する率が2倍近くも高いことを見出した。抗生物質の治療回数が多い子どもほど、ぜんそくや皮膚炎、花粉症を発症しやすかった。
・セリアック病を発症するには、その患者が8歳だとうと80歳だろうと、グルテンと悪い遺伝子一式だけでは不充分で、グルテンを「通す」何かが必要だ。セリアック病では腸壁にすき間ができていることをファサーノは知っていて、ゾヌリンが関係しているに違いないとぴんときた。彼はセリアック病の小児とそうでない小児の腸組織を検査した。案の定、セリアック病患者の腸組織にはゾヌリンが高濃度で存在しており、腸壁にすき間ができてグルテンを血液中に通していた。それが自己免疫反応を引き起こしていたのだ。現在、欧米人口のおよそ1%がセリアック病を患っている。
・腸壁にすき間ができて高濃度のゾヌリンが存在しているのはセリアック病患者だけではない。1型糖尿病患者でも腸の透過性が上がっており、ファサーノはその背景にゾヌリンがあることを見出した。なお、遺伝的に1型糖尿病になりやすい系統の研究用ラットには、糖尿病発症の数週間前から腸壁のすき間が出現する。このことは、腸の透過性の上昇が自己免疫疾患の発症の引き金となっていることを示唆している。これらのラットにゾヌリンの作用を阻害する薬を与えると、3分の2のラットが1型糖尿病に進行しなかった。
・リボ多糖は比較的大きな分子で、通常は腸壁を通過できない。だが腸の透過性が上がると、つまりリーキーガットになると、すき間を通って血液中に入る。その途中で、境界を突破する者がいないか見張る役目をしている受容体を刺激する。受容体はリポ多糖が入ってきたことを免疫系に警告する。免疫系はサイトカインという化学物質のメッセンジャーを送り、警戒態勢を敷いて軍を出動させるよう全身に伝える。この過程で、全身が炎症を起こしうる。免疫細胞の一種である食細胞が、脂肪を蓄積している脂肪細胞のまわりに集積し、ふつうなら細胞分裂する脂肪細胞をそうさせずに細胞そのものを肥大化させる。肥満患者では、こうした細胞の容量の最大50%を脂肪ではなく食細胞が占める。過体重および肥満になっている人の体は、低レベルの慢性的な炎症状態に陥っている。この状態が体重増加を促進するのに加え、血液中のリポ多糖がインスリン・ホルモンに干渉し、2型糖尿病や心臓病を誘発する。
・血液中のリポ多糖の過剰と心の病気との関連性を示された。うつ病や自閉症、統合失調症の患者には、腸の透過性の高まりと慢性的な炎症が見られるケースが多かった。興味深いことに、赤ん坊のときに母親と引き離されたり愛する人を失ったりするようなトラウマ的な出来事があると、腸にすき間ができることがあるようだ。ストレスによる苦悩がうつ病の発症に移行するときに、腸のすき間が関係しているのかどうかはまだ断定できない。だが、どうやらそうらしいという研究データは、腸とマイクロバイオータと脳のつながりを示す研究データと同様に増えつつある。うつ病には肥満や過敏性腸症候群やニキビをともなうことが多いが、これまでそうした不具合はうつ病そのものの苦悩から派生するものと考えられてきた。リーキーガッドが慢性的な炎症を引き起こし、体と心の健康問題を共に発症させるのかもしれないという考え方は医学研究に一石を投じるものとなっている。
・抗生物質の投与はごく一般的なニキビ治療法で、多くの人は何ヶ月も何年もその治療法を続ける。しかし抗生物質は皮膚の細菌だけに作用するのではない。腸の細菌にも作用する。これまでにも語ってきたように抗生物質は免疫系のふるまいを変える。ひょっとすると、それがニキビにかえってよくないのかもしれない。
・炎症性腸疾患であるクローン病と潰瘍性大腸炎についても同じことが言える。マイクロバイオータの通常の組成比が変わると、どうやら腸の免疫細胞が、いつもなら大事に世話している腸内コロニーに対して無関心になってしまうようだ。鎮静作用を担う制御性T細胞が、免疫軍の好戦的な成員を制御するのに疲れて全面的に世話を放棄してしまうからかもしれない。その結果、有益な微生物を受け入れて慈しむのではなく、逆に攻撃してしまうのだろう。
・炎症性腸疾患の患者は健康な人と比べて結腸直腸癌になりやすいという事実は、マイクロビオータのバランスの乱れを指すディスバイオシスと健康が深く関係していることを示唆している。ある種の感染症が癌を誘発することは昔から知られていた。たとえば子宮頸癌の原因の大半はヒトパピローマ・ウイルスだ。胃潰瘍の原因であるヘリコバクター・ピロリ菌は胃がんの引き金になる。炎症性腸疾患と同時に生じるディスバイオシスは、更なるリスクを付加するようだ。ディスバイオシスが引き起こす炎症が、腸壁のヒト細胞のDNAをなんらかの形で傷つけて癌を誘発してしまうからである。
・マイクロバイオータが関与する癌は、消化器系の癌に限らない。ディスバイオシスがリーキーガットと炎症を促進するのなら、他の臓器でも癌が発生しやすくなる。肝臓癌はそのことを明快に示す例だ。肥満や高脂肪食と癌との関係を調べようと、痩せたマウスと肥満マウスを発癌性物質にさらす実験をしたところ、痩せたマウスはほとんどが癌にならなかったのに対し、肥満マウスでは3分の1が肝臓に癌ができた。消化管以外の臓器における癌を高脂肪食がどのように誘発したのかは定かでないが、二種類のマウスの血液を比較すると、肥満マウスの血液にはDNAを傷つけることで知られている有害なデオキシコール酸が高濃度で存在していた。デオキシコール酸は胆汁酸の一つで、食物中にある脂肪の消化を助けるために産生される物質だ。だが、胆汁酸がデオキシコール酸に変わるのを助けているのはクロストリジウム属の細菌群である。デオキシコール酸は肝臓で分解される。肥満マウスは痩せたマウスに比べて、腸内にクロストリジウム属の細菌が飛び抜けて多くいる。そのせいで肝臓癌になりやすくなっている。クロストリジウム属の細菌を標的とする抗生物質を肥満マウスに投与すると、そのマウスが肝臓癌になるリスクは減少した。
・喫煙と飲酒が癌のリスクを高めることは誰でも知っているが、太りすぎだと癌になりやすいことはあまり知られていない。癌で死亡した男性の14%は過体重と関連づけられ、女性ではその数字はもっと高く20%になる。乳癌、子宮癌、結腸癌、腎臓癌の多くは太りすぎと関連しており、それは「肥満型マイクロバイオータ」が少なくとも一部に関与していると思われる。
・過体重と肥満が伝染病のように広まるのは1980年代以降だが、その兆しは1950年代にすでにあった。ニコルソンは肥満件数が上昇し始める数年前の1944年に抗生物質の公共利用が導入されたことを単なる偶然の一致ではないと考えた。年代的に一致するというだけではない。食肉用の家畜を太らせるために農家が抗生物質をずっと使ってきたことをニコルソンは知っていた。1940年代後期、アメリカの科学者たちは思いがけず、ニワトリに抗生物質を与えると成長が50%近く促進されることを見出した。当時、アメリカでは都市に人口が流入し、市民は生活費の高さに辟易していた。戦後の「欲しいものリスト」の上位に安価な食肉が挙がった。抗生物質によるニワトリへの成長促進効果はまさに天からの贈り物で、農家はウシやブタ、ヒツジ、七面鳥の飼料に毎日少量の薬を混ぜるだけで食肉家畜がどんどん大きくなるのを見て上機嫌だった。農家は、薬が成長を促すメカニズムについても、その結果についても知らなかった。食糧不足で価格が高騰していたこの時代、薬の費用よりもニワトリが太ることで得られる利益が大幅に上回った。以来、「治療量以下」の抗生物質を投与するのは畜産業での日常業務となった。ざっと推定すると、アメリカでは抗生物質の70%が家畜用に使われているという。おまけに抗生物質を使えば感染症を心配せずに狭い場所に多くの家畜をつめこむことが可能だ。アメリカでは、この成長促進剤なしに同じ重量の食肉を出荷しようとすると、4億5200万羽のニワトリと、2300万頭のウシ、1200万頭のブタが毎年余分に必要となる。ニコルソンは懸念した。抗生物質が家畜を太らせるのなら、それがヒトを太らせないという保証はない。ヒトの消化器系はブタの消化器系と同じではないにせよ、まったく違うということもない。ブタもヒトも雑食性で、単純な胃をしており、小腸で消化しきれなかった残り物を、大腸で微生物に分解させている。抗生物質は若いブタの成長を1日におよそ10%早める。農家にとっては育てたブタを2、3日早く食肉として出荷できることを意味し、何千頭ものブタとなれば莫大な利益をもたらす。ついでに消費者側のヒトも抗生物質で太るから、おかげで食肉の需要が高まっているという可能性はないだろうか?
・1944年にノルマンディーに上陸した第二次世界大戦の連合軍負傷兵たちに使われたのを皮切りに、奇跡的な回復の話が一般市民にも伝わるようになった。抗生物質の需要は高まった。1945年3月にペニシリンの生産ペースが向上すると、アメリカではこの薬をほしいと思えば誰でも町の薬局で買えるようになった。1949年には、10万ユニットのペニシリンの薬価が20ドルから10セントにまで下がった。それから65年でさらに20種類の抗生物質が開発された。それぞれ異なる種類の細菌に異なる作用をする抗生物質だ。
・2歳以下で抗生物質の治療を一度も受けたことがないという子どもを探す方が難しい。生後6ヶ月以内に3分の1が、1歳までに2分の1が、2歳までに4分の3が抗生物質を投与される。先進国の子どもは18歳になるまでに、10クールから20クールの抗生物質治療を受けるのが普通だ。
・抗生物質による治療は絶対に必要なものではない。アメリカの疾病管理予防センターの推定によれば、同国で処方されている抗生物質の半分は不必要または不適切なものだという。その多くは風邪またはインフルエンザを1日でも早く治したいと切望する患者に、半ば気休めで処方されている。風邪もインフルエンザも細菌ではなくウイルスによる病気であり、抗生物質は効かない。それにほとんどの風邪は命を危険にさらすことはなく、数日か数週間で治る。
・抗生物質が家畜の体重を増やすことはさておき、抗生物質がヒトの体重をも増やすことは1950年代から知られていた。当時は肥満がまだそれほど流行しておらず、抗生物質はヒトの成長を促進する目的で使われていた。家畜を成長させるという抗生物質の効用に気づいた一部の医者が、早産で栄養不良の赤ん坊に抗生物質を与えることを試みた。効果てきめんで、いつ死んでもおかしくなかった赤ん坊の体重がみるみる増えた。しかし、太りすぎの人があふれかえっている現在の状況から見ると、この試験結果はむしろ警鐘ととらえるべきだったかもしれない。
・家畜に関しては、抗生物質への耐性が家畜からヒトに移行するという証拠が出たことで、少なくともヨーロッパでは抗生物質による成長促進剤の使用をやめる動きにつながった。2006年以降、EU加盟国の農家は家畜を太らせるために抗生物質を使うことを禁じられている。病気の治療目的の場合は当然ながら使ってもいい。アメリカその他の多くの国では、抗生物質の成長促進剤はいまも毎日のように使われている。
・菜食主義者ならそんな心配をせずにすむかというと、そんなことはない。野菜は家畜の糞を肥料に使った土壌で育てられることが多い。家畜の糞は富んでいると同時に薬も含んでいる。家畜に問うよされた抗生物質のおよそ75%はそのまま糞となって排出される。有機肥料とは、そういうもののことだ。抗生物質の種類によっては、有機肥料1リットルにつき1回の服用分に相当する抗生物質が含まれているという。これはつまり、農地10平方メートルにつき抗生物質1錠か2錠のカプセルの中身を撒くことに等しい。
・自閉症児はアンバランスな微生物集団を抱えているように見える。このディスバイオシスが幼児期の発達中の脳に干渉し、それが過敏性、対人関係の困難さ、反復的な行動を生じさせている可能性はある。
・もっと明白でもっと直感的に理解されやすいのは抗生物質とアレルギーの関連性だろう。2歳になるまでに抗生物質の治療を受けた子どもはのちにぜんそく、アトピー性皮膚炎、花粉症を発症する率がそうでない子どもと比べて2倍も高い。抗生物質を多く与えられるほどアレルギーになりやすく、4クール以上の治療を受けた子どもは3倍もアレルギーを発症しやすくなる。
・この推測は自己免疫疾患のことを考えるとますます真実味が増してくる。自己免疫疾患もまた抗生物質の使用と足並みをそろえて増加している病態だが、そのきっかけはつい最近まで感染症だと思われていた。1型糖尿病がいい例だ。医者たちは何十年もこんなパターンを見てきた。10代の若者が風邪かインフルエンザで診察を受けに来る。数週間後にまたやってきて、異常なのどの渇きと疲労を訴える。膵臓のベータ細胞が働くなっていて、インスリンの分泌が止まっていることがわかる。このホルモンが欠けていると、ブドウ糖が変換・貯蔵されずに血液中にどんどんたまっていく。ブドウ糖は腎臓内で水分を吸収するため、それが多尿を引き起こす。数日または数週間のうちに症状は激化し、何も治療しなければ昏睡に陥るか死に至る。
・ここからは推測の域に入る。医者達が抗生物質を細菌性の病気ではなくウイルス性の病気にまで過剰処方していることを私たちは既に知っている。1型糖尿病になるのは感染症そのもののせいではなく、感染症治療のための抗生物質のせいなのでは?家族や医者からは1型糖尿病のスイッチを入れたのは、風邪やインフルエンザ、たった一度の急性胃腸炎のように見える。抗生物質の薬は無実の傍観者というわけだ。しかし1型糖尿病の引き金をひいたのは感染症ではなく薬である可能性、もしくは感染症と薬の組み合わせの可能性も考えられる。
・生まれたばかりのコアラの腸にはユーカリの葉を分解する微生物がいない。その腸に微生物の「苗」を植えるのは母親の仕事だ。そのときが来ると、母コアラは「パップ」という糞便に似た離乳食を出す。消化しやすく分解されたユーカリの葉と腸内細菌の混合物であるパップは、生まれたばかりのコアラの腸に微生物を届けると同時に、その微生物が群生するのに必要な微生物の餌を与える。腸内にコロニーが定着すれば、幼いコアラは消化能力を備えたミクロな協働集団を得て、ユーカリの葉を食べられるようになる。母が子にマイクロバイオータを授けることはほ乳類以外の動物もやっている。母ゴキブリは自分のマイクロバイオータを「菌細胞」という特別な細胞に保存しておき、産卵直前に菌細胞の中身を体内で放出する。産み落とされた卵にはすでに微生物がとりこまれているというわけだ。一方、カメムシはコアラと似ていて、産卵後の卵の表面に微生物入りの糞を塗りつけておく。卵から孵ったカメムシはすぐさま母の糞を食べる。鳥類や魚類、は虫類などでも卵の段階で、または卵が孵ってからマイクロバイオータが母から子に受け継がれることが知られている。
・細胞の数だけで言うなら、赤ん坊はこの世に生まれて最初の数時間で「大半がヒト」の状態から「大半が微生物」の状態に切り替わる。子宮内部の羊水につかっているとき、胎児は外界の微生物からも母親の微生物からも守られている。だが、破水と同時に微生物の入植が始まる。赤ん坊は産道を通るとき、微生物のシャワーを浴びる。ほぼ無菌状態だった赤ん坊を、膣の微生物が覆っていく。産道から顔を出すとき、赤ん坊は膣の微生物とはまた別のタイプの微生物を受け取る。そう、誕生直後に母親の糞便を摂取するのはコアラだけではないのだ。子宮収縮ホルモンの作用と降りてくる胎児の圧力を受けて、陣痛中や出産時にほとんどの女性は排便する。赤ん坊は顔を母親のお尻の側に向けて頭から先に出てくる。そして母親が次の陣痛に備えて体を休めている間、赤ん坊の頭と口はうってつけの位置に来る。あなたは本能的に顔をしかめるかもしれないが、これは幸先のいいスタートだ。母から子への最初の贈り物、糞便と膣の微生物が無事に届けられることになるのだから。これは進化的に「適応した」誕生だ。肛門が膣口のすぐそばにあるのも、子宮収縮ホルモンが直腸を刺激して排便を促すのも、別段悪いことではない。自然選択は、それが赤ん坊の役に立つから選んだのだろう。あるいは、少なくとも害にはならないから排除しなかった。微生物とその遺伝子、母のゲノムとうまく調和して働いていた遺伝子を受け取った赤ん坊は、希望に満ちた人生のスタートを切る。新生児の腸内細菌を、母の膣と糞便と皮膚、父の皮膚から採取した4種類のサンプルと比べると、新生児の腸内でコロニーをつくっている菌種や菌株は、母の膣内のそれと最も近い。一番多いのはラクトバチルス属とプレボテラ属の細菌だ。これらの膣内細菌は少数精鋭で、母親の腸内細菌と比べると多様性はずっと少ないが、新生児の発達途上の消化管で特別な任務を負っているのだろう。
・帝王切開で生まれた子の長期的な影響まで言及されることはめったにない。以前はさして害のない代替手段と思われていた帝王切開だが、母子ともに健康リスクがあることが徐々に明らかになってきた。早くにわかったこととして、帝王切開で生まれた赤ん坊は感染症になりやすいというのがある。MRSAに感染した新生児の80%は帝王切開で生まれている。帝王切開で生まれた子は幼児期にアレルギーを発症しやすい。母親がアレルギーで(おそらく遺伝因子があり)、なおかつ帝王切開で生まれた子は、そうでない子より7倍もアレルギーになりやすい。帝王切開で生まれた子は自閉症と診断される割合も高くなる。アメリカの疾病管理予防センターの研究者達は、帝王切開という出産方法がなければ自閉症の発生率は現状より8%下がったのではないかと試算している。強迫性障害の患者でも、帝王切開で生まれた患者がそうでない患者の2倍いる。一部の自己免疫疾患でも帝王切開との関連性が示されている。1型糖尿病とセリアック病は、帝王切開で生まれた子のほうがなりやすい。肥満さえも帝王切開による出産との関連性が示されている。
・粉ミルクで育つ赤ん坊は感染症にかかりやすい。母乳だけの赤ん坊に比べ、粉ミルクだけの赤ん坊は、耳感染症になるリスクが2倍、呼吸器感染症で入院するリスクが4倍、胃腸感染症になるリスクが3倍、そして腸の組織が死ぬ壊死性腸炎になるリスクが2.5倍とそれぞれ高くなる。乳幼児突然死症候群で死亡するリスクも2倍だ。アメリカでの乳児死亡率は母乳で育つ赤ん坊より粉ミルクで育つ赤ん坊の方が1.3倍も高い。粉ミルクで育つ赤ん坊は2倍、皮膚炎とぜんそくを発症しやすい。免疫系の癌である小児白血病になるリスクも高い。1型糖尿病にもなりやすい。おそらく虫垂炎、扁桃炎、多発性硬化症、関節リウマチにもなりやすいはずだ。おそらく最も心配なのは、粉ミルク育児は母乳育児に比べて子どもが過体重になりやすいことだ。リスクは2倍ほど高くなる。
・一部の科学者は、高齢者の腸内細菌を改善することで健康維持と長寿を実現できるのではないかと期待している。
・プロバイオティクスに関しては、気をつけるべきことが3つある。1つ目は、その製品にどんな筋種のどんな菌株が含まれているかだ。この点については詳細に記載されていないことが多く、また、実際に培養やDNA解析をしてみると、中身が記載どおりでなかった製品もいくつか見つかっている。菌種や菌株の違いがどう影響するのかはまだほとんどわかっていないが、基本的にはなるべく多様な細菌が入っているほうがいいだろう。2つ目は、その製品にどれだけの量の細菌が入っているかだ。その量はコロニー形成単位(CFU)の数値で示される。3つ目は、細菌がどうパッケージされているかだ。プロバイオティクスはさまざまな形で売り出されている。粉末、錠剤、棒状の菓子、ヨーグルト、飲料。肌用クリームや塗布剤まである。マルチビタミンなど別のサプリメントに混ぜ合わされたものもある。こうした加工が細菌にどんな影響を与えているかはまだ不明だ。ヨーグルトの形をとるプロバイオティクスの多くは相当量の砂糖が加えられており、それはバランスを健康的なほうではなく不健康なほうに傾けるかもしれない。
・ペギーは体重が急減し、抗生物質による治療の可能性が消え、途方に暮れていた。このままだと「中毒性巨大結腸症」に進行するおそれがある。結腸が膨張して破裂し、内容物が腹腔内にまき散らされると死亡リスクが一気に高まる。雨零下では、クロストリジウム・ディフィシル感染症による死亡者は過去1年で3万人にのぼっている。エイズによる死亡者数をはるかに上回る数字だ。ペギーは3万人の1人になりたくなかった。もう一つ別の治療選択肢があった。発端は友人からのまた聞きだ。友人の身内は病院で看護師をしており、なかなか治らない下痢患者に新しい治療法が試されているという話を耳にした。その治療法は全世界で数カ所の病院でしか実施されていなかったが、治療を受けた患者はそこそこ具合がよくなっているという。この方法は糞便移植、便微生物移植、あるいは細菌製剤療法とよばれている。その名の通り、ある人の糞便を採取して別の人の大腸に入れるという治療法である。聞こえは悪いがこの方法を採用したのはヒトが最初というわけではない。トカゲからゾウまで「食糞」をする動物は多くいる。
・ゾウの群れを率いるメスのリーダーが軟便を出すことがある。これは、群れにいる幼い子ゾウたちに鼻ですくわせて食べさせるためのものだ。チンパンジーも互いの糞を食べる。チンパンジーは森の中で熟したばかりの果実を腹いっぱい食べると下痢になる。そのチンパンジーの腸内細菌が目新しい食料、つまり果実にまだ順応していないからだ。パラスという名のメスは、10年にわたり治ったり治らなかったりを繰り返す慢性的な下痢に陥っていた。パラスは下痢がはじめるたびに食糞行動に出た。バラスは健康なチンパンジーの糞を食べて自分の腸内微生物バランスを元に戻そうとしているのだと考えられる。
・自閉症やトゥーレット症候群、強迫性障害の患者を診ている精神科医なら、こうした行動に自分の患者と動物園の動物の共通点を見るかもしれない。糞便を食べたり、なすりつけたりすることに強い興味を示す長江は、重症の自閉症児や統合失調症、強迫性障害の患者にも見られる。反復行動を生じさせているマイクロバイオータの不具合を元に戻すには、より健康な他の個体の糞を食べるのが近道だ。つまり、食糞は異常行動でも何でもなく、病んだ動物が自分のディスバイオシスをただすための適応行動だと考えられる。ためしに動物園のチンパンジーに繊維質の葉を餌として与えると、食糞行動が減るという。だがよく見るとチンパンジーは葉を食べておらず、しゃぶったり、舌の下にしまいこんだりしているというのだ。これは単なる推測だが、チンパンジーはその葉についている共生菌を唾液にからめて吸っているのではないだろうか。そうすることで地震音マイクロバイオータにその細菌の「苗」またはその遺伝子を取り込んで、食料を消化するときの助けにしようとしているのかもしれない。日本人が海藻の共生菌の遺伝子を含むマイクロバイオータをもっているのと同じ仕組みである。
・私たちも健康的な細身の体になるために食糞したほうがいいのだろうか?ご心配なく、他人の健康にあやかるために糞便を食べる必要はない。私たちには食べる代わりに糞便移植という手段があるからだ。糞便移植の方法は、簡単に言うと、健康なドナーの糞便と生理食塩水を料理用ミキサーで混ぜ合わせて患者の大腸内に注入する。そのときカメラのついた長いプラスティック製のチューブ(内視鏡検査のときの大腸ファイバースコープ)をお尻の穴から挿しこむ。これは下から入れる方法だ。注入液を上から入れる方法もある。鼻腔チューブで鼻から喉、胃に流し込むのである。
・糞便に宿る特別な力を最初に発見したのは、マイクロバイオータという新しい科学分野に通じた21世紀の医者たちではない。4世紀の中国で、伝統医学の師だった葛洪は「肘後備急方」という救急処置の手引き書に、食中毒やひどい下痢を起こした患者には健康な人の糞便を飲料にして与えれば奇跡的に回復すると書いている。同じ治療法は1200年後の中医学手引書にも出てくる。このときは「黄色い汁」と表現されている。
・カリフォルニアの病院で夫の糞便を濾過した注入液をファイバースコープで送り込んでもらい、数時間ほど体を休めているうちに具合がよくなっているのにペギーは気づいた。数ヶ月ぶりにトイレに行く必要を感じなくなった。丸々40時間、トイレに行かずにすんだ。数日後、下痢が治った。2週間後、ふたたび髪が生えてきた。40歳の彼女の顔からニキビが消え、激減していた体重が戻り始めた。
・友人が7クール目の抗生物質治療に失敗し、ついにルームメイトの糞便を自分で自分に塗布しようとしていたころ、マーク・スミスはMITで経営学修士のコースにいたジェイムズ・バージェスと手を組んだ。二人はスミスの指導教官であるエリック・アルム教授の支援を受け、オープンバイオームという非営利の糞便バンクを立ち上げた。オープンバイオームは、ドナーの募集、スクリーニング、注入液の調合、サンプルの出荷までをする。患者がしなければならないのは、ファイバースコープを使ってくれる医者を見つけ、糞便サンプルの費用250ドルを支払うことだけだ。現在アメリカでは33の州にまたがる180の病院がオープンバイオームのサービスを利用している。アメリカ人なら80%が車で4時間以内の場所で、冷凍された安全な糞便を入手できることになる。すでにおよそ2000人のクロストリジウム・ディフィシル感染症患者が、オープンバイオームのおかげで治癒している。
・オープンバイオームに糞便を提供するボランティア(1回につき40ドルと、それにより2~3人の命を救えるかもしれない明るい見通しが報酬となる)の適性審査はあなたが想像する以上に厳しいものではない。しばらく抗生物質を飲んでいない、しばらく海外旅行に行っていない、アレルギーや自己免疫疾患など腸内細菌がらみの病気になっていない、代謝異常症候群や大うつ病性障害になっていない、HIVや大腸菌O157のような微生物に感染していない、それだけだ。だが、この条件をすべて満たせる人は意外に少ない。オープンバイオームでは、50人の応募者に質問と検査をして一人の適格者を得られるのがやっとだ。
・太った人の腸内細菌をマウスに入れるとマウスが太るのなら、健康で痩せた人の糞便を太った人に移植すると肥満関連の症状を改善させられるのではないか、とフリーゼとニュードープは考えた。二人を含む研究チームは臨床試験を開始した。この試験では、やせ型マイクロバイオータの糞便移植によりインスリンの感受性を上げることができるかどうか、また細胞のグルコース貯蔵速度が上がるかどうかを見る。9名の肥満男性に痩せたドナーから採取した糞便の液を入れ、別の9名の肥満男性に地震の糞便の液を入れると、6週間後、やせ型マイクロバイオータを受け取った男性達はインスリンへの感受性が上がっていた。彼らの細胞は以前より2倍近い速さでグルコースを貯蔵していた。健康で痩せたドナーのインスリン感受性とほぼ同じになるほどの改善である。自身の糞便を戻し入れられた対照群のグルコース貯蔵速度は以前とまったく変わらず、インスリン感受性は低いままだった。自分の腸内に棲みついている微生物集団のタイプが違うだけで、健康でいられるか、それとも心臓病で死ぬ確率が80%になるかに分かれるというのは驚きだ。新たにインスリン感受性を獲得した男性たちの腸内細菌の菌種は178~234種類も増えていて、多様性が増していた。増えた菌種の中には、短鎖脂肪酸の酪酸をつくる細菌グループがいた。酪酸は肥満予防に重要な役割を果たすと考えられている。大腸の細胞は酪酸によって強化される。細胞同士をつないでいるタンパク質の鎖が堅くなり、厚い粘膜層で覆われることにより腸壁にすき間ができるのを防ぐ。
・フリーゼとニュードープは次に、やせ型マイクロバイオームの糞便移植で太った人が減量できるかどうかを知りたくなった。マウスでは可能であることが確認されている。太ったマウスに痩せたマウスの微生物を与えると体脂肪が30%減るのだ。現在、同じことがヒトでも作用するかどうかを調べるための二度目の臨床試験が進行中だ。この試験の結果によっては、肥満と代謝異常症候群の治療法が根本的に変わるかもしれない。うまくいけば、医療費の削減と患者の生活の質の向上につながるだろう。
・持続的な効果を得るには、外から補充しなくても細菌が自力で増殖する環境を用意してやらなければならない。そこで登場するのがプレバイオティクスだ。プレバイオティクスは生きた細菌ではなく、有益な細菌の全個体数を増やすよう促す「細菌の餌」だ。フラクトオリゴ糖、イヌリン、ガラクトオリゴ糖といった名前は、まるでできあい食品のパッケージの裏に書かれている合成添加物のように思えるかもしれない。実際それらは化学物質ではあるのだが、ニンジン(βカロチン、グルタミン酸、ヘミセルロースなど)や牛肉(ジメチルピラジン、アセトインその他)の成分と同じで、人工的なものではない。プレバイオティクスは、どのみち食べるべきである難消化性の食物繊維に含まれている。
・糞便移植の行く末は、言うまでもなく一人一人のニーズに合わせたパーソナライゼーションだ。精査され、スクリーニングされたドナーの糞便を使うという道筋の先には、もう一歩進んだ方法が待っている。精子ドナー選びの場面を思い浮かべてみよう。女性は、自分の子の生物学的父親になるかもしれない男性へのインタビューのビデオを見ることができる。そのビデオで、本人のそれまでの人生や物の見方を確認できる。その男性の学生時代の成績や職歴を含む履歴書を読むこともできる。身長、体重、病歴、長寿家系かどうか(祖父母、曾祖父母の情報)に関するデータを調べることもできる。精子ドナー選びで女性がチェックしているのは、最終的には相手にどんな遺伝子があるかだ。彼女たちは、自分の遺伝子と混ぜるための、そして自分の遺伝子を補完するための遺伝子を選んでいる。糞便ドナーについても同じことがいえる。ヒト細胞の群れ(精子)か、微生物の群れ(糞便)かの違いはあっても、いずれにせよあなたが受け取るのはその中にある遺伝子だ。身長や体重、寿命にさえ貢献する遺伝子、あなた自身の遺伝子に混ぜられて補完される遺伝子、健康と幸福につながる遺伝子である。糞便移植が普及するのは避けられず、そうなると消費者の側の私たちはドナーへの要求を高めていくはずだ。現状のドナーに対しても、腸内細菌関連の病気(心の病気の一部も含め)などのスクリーニング検査は行われている。ただ、レシピエント側がドナーを選んだり、レシピエントとドナーの組み合わせを考えたりするところまではいっていない。遺伝子の選別とまではいかなくとも、少し差別化した要素があればそれがプラスに働くことは容易に予想できる。たとえば、ベジタリアンのレシピエントにはベジタリアンのドナーを組み合わせるというように。移植するならあなたの食生活に合ったマイクロバイオータのほうがスムーズにいくだろう。あるいは、太ったレシピエントに痩せたドナーを組み合わせれば、健康向上に役立つかもしれない。性格で選ぶことも考えられる。外向型の微生物はいかが?楽観主義者の排泄物で、あなたの人生を明るくしませんか?スパイスとしてトキソプラズマのサイドディッシュもご用意しております。
・私たちと微生物との関係は3つの側面から脅かされている。抗生物質を使いすぎていること、食物繊維の摂取が足りないこと、赤ん坊のマイクロバイオータの植え付け方と育て方が皮ってしまったことだ。
・抗生物質が必要かどうか迷ったときのためにいくつかポイントを紹介しよう。まず、このままでも病状がよくなるかどうか様子をみるため、1日か2日待ってみることを考える。ここでいう「考える」というのは常識に照らすという意味だ。また、医者から抗生物質を出すと言われた時は、次のような質問をしてみるといい。
1 この病気がウイルス性ではなく細菌性だという確率はどのくらいでしょう。
2 抗生物質を使うと明らかによくなるか、回復スピードが上がると思われますか。
3 抗生物質を使わず、自分の免疫力だけに任せた場合、どんなリスクがありますか。
・出産方式と赤ん坊への授乳方法についてもきちんと考えて選択しよう。昨今、妊娠と子育てについての情報とアドバイスはあふれんばかりで、私たちに生まれつきの本能がわずかに残っていたとしても風前のともしびのようになっている。しかし、マイクロバイオータ研究のおかげで出産と授乳に関しては、経過が順調であれば自然に任せるべきだという簡潔な選択基準ができた。もちろん順調でない場合には、帝王切開や粉ミルク育児という補助手段がある。だれもができる最善策は、自覚して準備しておくことだ。出産についてきちんと考えて選択し、生まれてくる赤ん坊に健全なマイクロバイオータの「苗」を植え付けることを考えて出産計画を立てる。最も効果的なのは経膣出産することだ。帝王切開を選ぶ場合は、やむを得ず帝王切開になった場合には、マリア・グロリア・ドミンゲス=ベロが研究している膣内をガーゼでぬぐって新生児に塗りつける方法を採用することを考えよう。あなたの計画をパートナーや医者、助産師にあらかじめ伝えておこう。赤ん坊は出産時にマイクロバイオータの苗を受け取る。母乳はその苗に栄養を与える役目がある。母乳育児をするつもりなら、知識を蓄え、決意表明をし、周囲の支援を事前にとりつけておくほうがいい。情報や助言はWHOのウェブサイトを含め、インターネット上でたくさん見つかる。赤ん坊の健康と幸せのために母乳をいつまで与えればいいかについての助言も載っているので、見てみるといい。完璧にできなくても自分を責めないように。あなたの子どものマイクロバイオータを育てる方法はいくらでもある。ほかにも子育てに関していいニュースがある。私たちは「バイ菌」に対してそんなに神経質にならなくていいのだ。赤ん坊が日々の暮らしで出会う細菌の大半は有害ではない。というより、赤ん坊の免疫系を教育するのに役立っている。抗菌剤入りスプレーやティッシュを使うことのほうが、むしろ有害かもしれない。
・私のサンプルからはステレラ属の細菌が異常に高い割合で見つかり、これには興味を引かれた。私は病気の期間中、疲れるとよくチックが出た。顔や首の筋肉が勝手に引きつるチックは、自分が困るだけでなく他人にも迷惑をかける。あとで知ったことだが、自閉症患者も腸内にステレラの細菌が過剰にあり、私と同じようなチックを起こすという。ひょっとすると、ステレラの過剰が私のチックの原因だったのだろうか。
良かった本まとめ(2018年上半期)
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