90年代末~00年代前半にヨーロッパから様々なジャズの新しい形が出現した。その代表がドイツや北欧のフューチャージャズ。電子音響と生演奏の融合がコンセプトで、80年代の踊るジャズ・ムーヴメント以降のクラブ・シーンとジャズの親和性を推し進め、レトロなジャズのイメージを、エレクトロニカやテクノの近未来的要素で料理したスタイルだが、本格的なジャズ・ミュージシャンによる演奏は、いわゆるクラブ系アーティストがジャズっぽくやってみました的な似非ジャズとは違い、本物ならではのスウィング&グルーヴがあった。
そのおかげで北欧ジャズが注目され、ニルス・ペッター・モルヴェル(tp)やブッゲ・ヴェッセルトフト(key)などのフューチャージャズだけではなく、マッツ・グスタフソン(sax)やホーコン・コルンスタ(sax)、インゲブリクト・フラテン(b)、ポール・ニルセン・ラヴ(ds)といったフリージャズ/インプロ系にも陽が当たったことはたいへん有意義だった。現在彼らが毎年のように来日し日本の先鋭的ミュージシャンと共演を繰り返すきっかけにもなった。
アートワークもフリー系を含む旧来のジャズとは大きく違って、幾何学、抽象、モダニズム、シュールレアリズム、ダダイズム、フューチャリズムなどモダンアートの要素を取り入れたユニークなものが多く登場した。その頃CDショップでジャケットが気に入り購入したのがAKOSH S UNITだった。楔形の手書文字で綴られたクレジットは英語でもフランス語でもなく、参加ミュージシャンの名前も読めない。しかし、ジャケットに偽りなし。そのサウンドはエスノなスピリチュアル、暴力的なサックス、乱痴気集団即興、木管アンサンブルのチェンバーロック、アンビエントドローン、テープ操作によるカットアップ等がカオス状態で交錯する異境世界だった。当時はインターネットもなく、顔も国籍も謎のままだったが、彼らの偏執狂的アルバムを何枚か購入し愛聴していた。
すっかり忘れていたところ、別のジャズ・アーティストをググっていて、偶然にAKOSH S.の名前を見つけた。ジョセフ・ナジ振付・出演『カラス/Les Corbeaux』という舞踏公演の音楽担当として昨年来日していたのである。
アコシュ・セレヴェニ
1966年2月19日ハンガリー・デブレッセン生まれ。幼少よりクラシックや民族音楽を学び、17歳でジャズ・ミュージシャンとしてデビュー。1986年パリに移る。フリージャズ、即興ジャズの分野で活躍する一方、数々の舞台・映画への楽曲提供、伝説的ロックバンド ノワール・デジールのサポートメンバーを務めるなど、多方面で活動。
本人のサイトにはAKOSH S UNITの他、自己のトリオやカルテット、様々なミュージシャンとのデュオでの活動が記されている。昨年の来日は舞踏公演だったので音楽の世界ではほとんど紹介されていない。ユニークなコンセプトや演奏家としての実力は、ジャズは勿論、幅広い音楽ファンにアピールするに違いない。知られざる魔界のミュージシャン、AKOSH S.に要注目である。
世界から
ご当地ジャズが
やってくる
これだけネットが普及しても全貌が掴めない未知の音楽との出会いに心が弾む。