『地平』一月号の特集は、「アメリカ選挙と民主主義」、「大阪デモクラシー 維新政治の次へ」である。
大阪周辺での「維新」という政治勢力がおこなっていることに、わたしは批判的である。
山口勝己は「次に来る大阪の民主主義」において、原則的なことを書いている。
「財政の本質を簡単にいうなら、みんなから集めたお金をみんなのために使うことにある」
この当たり前のことを、日本政府や地方自治体は怠ってきた。財政出動により、庶民の生活が実質的な平等に向かうように、そして庶民が豊かに健康に生活できるように、様々な施策を行うということである。ところが、日本政府は「お友だち」や経団連という政権政党に多額のカネを寄付してくれるところが、より有利になるように、よりカネ儲けが出来るようにカネをばらまいてきた。「マイナ保険証」に関わる騒動も、NECや富士通などの情報産業がカネ儲けできるようにという「利権政治」そのものである。地方自治体も、企業への補助金を積極的に支出してきた。工場などが立地したら何十億円というカネを与える、というように。
また「維新」が強行してきたベイエリアでおこなわれる大阪万博もそのひとつである。そもそも「維新」の「成り立ち」は、「カジノや都構想といった一丁目一番地の政策が、ベイエリア開発に絡んでいる」(武田かおり「維新政治と大阪市民」)、「湾岸の人工土地のうえに、副都心、あるいは副首都と呼ばれる構造物を建設するというプロジェクトを継続し、あるいは加速することであった。」(前川真行「大阪維新2009-2024」)とあるように、土建業界その他の要望を受けての事業を推進するためにできた政治勢力であり、みずからの政治勢力を拡大するためにおこなってきた政策が、「いわゆる既得権益層に投入されていた財源をひきはが」す、すなわち人件費を大幅に削減し、「公共」(保健所、公立学校など)を切り捨て、「頭割りの普遍主義にもとづく給付」をおこない「個人利益を優先させたい有権者の」歓心をかう、というものであった。
そうした「維新」の勢力拡大に貢献したのが「関西のテレビ局」である。まさに維新とテレビ局はほとんど一体である。批判されるべき「維新」の政治は大阪の有権者の支持を得て、推進されてきたのだが、その背後にはテレビ局の絶大な支援があった。「維新」がテレビ局の支援により生まれたとするなら、トランプ政権はSNSにより生みだされたといえよう。
バイデンとトランプのどちらがアメリカの大統領としてふさわしいかと問われたら、沈黙するしかない。どちらも支持できないからだ。バイデン政権によるイスラエルへの武器供与、その武器がパレスチナの人びとの頭上に降り注ぎ、多くのパレスチナ人を殺傷している。その一点でさえ、バイデン政権を支持できない。一方トランプの発言についてのファクトチェックは、「正しい」が3%、「おおよそ正しい」が8%、「半分正しい」が11%、「おおよそ誤り」が19%、「誤り」38%、「虚偽」19%で、つまり彼の発言は76%が「事実と異なる」という。そんな人がよくも大統領になった、と嘲笑してはならない。
わが日本も、総理大臣が息をするごとにウソをついていたではないか。それが国会で堂々とまかり通っていたではないか。
今は、「何がファクトかわからなくなっている」時代なのだ。「わからなくさせられている」と言うべきかも知れないが。
内田聖子は「偽情報・ディープフェイク」でこう書いている。
ディープフェイクや偽情報自体はもちろん問題ではあるが、皆が関心を持って拡散しなければ意味がない。つまり、問題の本質は、ディープフェイクが瞬時に大量に流通してしまう情報のエコシステムにある。そこでの原理は共感と共有だが、トランプ陣営はこれに加えて人々の不満や恐怖、攻撃性や憎悪を最大限煽り、偽情報をより効果的に流通させるエコシステムを築き上げることに成功した。
近年は、そうした動きが日本の選挙でも注目されている。
選挙時に限らず、私たちはネット言論空間における偽情報やディープフェイクをどう扱っていくのかという大きな課題に直面している。規制の強化や企業の自主規制が模索されてきたが、言論の自由との相克、プラットフォーム企業との攻防、法適用の範囲、技術的課題など難題ばかりで、現時点ではどこにも特効薬はない。研究者も市民社会も、そしてプラットフォーム企業内の技術者・開発者も、悩みながら対策を探る、まさにその途上にいる。
偽情報などがネット空間に飛び交っている現状をどうすべきかは、日本でも注視されなければならない。個人個人の賢明な判断が下されるような状態が出現することはあり得ないからこそ、その対策は急務である。
しかし、情報産業は、さらに人びとの意識を操作できるような研究を進めているという。
ビッグテック企業は心理学や神経科学とAIを組み合わせる形で、「マインドハッキング」「サイコグラフィクス」「デジタルコカイン」などの言葉で言われるように、人間の意思決定の操作を目的とする研究開発、実装を日々進めている。AI/アルゴリズムを使ったプロファイリング、ターゲティング等による人々の「部族化」は、特定の政治傾向の過激化・極端化をもたらし、異なる意見を聴く寛容性をますます困難にしている。
恐ろしい時代に、世界は入り込もうとしている。まさに、
ファクトをもとに熟議や意思決定をして行くという民主主義の根幹が危機に瀕している。
のである。
偽情報やフェイクに左右されないように、とりあえずはがんばることしかないかも知れないが、SNSに接触しないという選択肢もある。
「オレオレ詐欺」「ロマンス詐欺」など詐欺事件が多発しているが、電話に出ない、SNSをやらない、そうであれば、だまされることはないのだから。
すると自分の考えが、偏ってしまい、極端な考えに陥ってしまいます。そして分断を生み社会的な不安を呼び起こしてしまい、社会的不安定を生んでしまいます。少し古いですがジェイミー・バーレット氏の、「操られる民主主義」を読むと考えてしまいます。