どうなるわが町の美術館 NHKクローズアップ現代 2/22

どうなるわが町の美術館
NHKクローズアップ現代
2/22 19:30~

こんにちは。

先日の「クローズアップ現代」は美術館についての特集でした。厳しい美術館事情と、昨年オープンした金沢21世紀美術館の取り組みが取り上げられています。偶然、新聞のTV欄で発見して見ることが出来ましたので、今日はそれについて書いてみようと思います。

放送内容を、懐かしの講義ノート風にまとめてみました…。


美術館の冬の時代
 ・川崎市民ミュージアム
   入場者数の激減 S63/30万人→H5/10万人
   入場料収入減 運営コストの5%のみの入場料(適正水準は20%)
    ↓
   今度どのように運営するのか-市の危機感
    民間に調査依頼-慶大上山教授のグループ
     市民を惹き付けていない
     コンセプトが不明確
     川崎である必然性の欠如
     市民のための「物」という発想がない
  →調査提言を受け、市は一年以内に外部委託をするかどうか決断
 ・芦屋市立美術博物館
   現代美術を中心とした年十回の企画展開催
   専門筋からは高い評価も集客には結びつかず
    ↓
   経営危機→市の予算削減+冬期2ヶ月休館→民間委託計画発表→引受先なし 
  →来年度からの休館(売却、閉館の予定はない)を決定 
  存続運動も起こる
   経済性だけで美術館を閉鎖して良いのか?
   お金に換えられない価値こそ美術
   芸術のある街芦屋を維持すべき
  →市民NPOでの存続を模索

地域密着、参加型で好評の金沢21世紀美術館
  →入場者50万人突破(開館4ヶ月で平日3000人/休日5000人)
 ・人気の秘密
   体験型アート-訪れた人がアートとなる試み(巨大マフラーで美術館を巻くプロジェクト)
   アミューズメント的感覚
   無料展示スペースを大きく取り入れたスタイル
   →開放感(有料スペースの外側が無料/図書館やカフェスペース等々)
 ・力を入れた取り組み
   市内全95小中学校生徒を全員招待=ファンになってもらうきっかけ
    「もう一回券」と呼ばれる無料券も配布→後で大人と来てもらう狙い
   専門スタッフ(市民ボランティア)によるユニークな解説
 ・館長蓑豊氏によれば…
   「市民参加=体験型」を充実させる
   10年先を見通したアートとの向き合い-感性を育む金沢の子どもたち
   本物の楽しさに触れてもらう
   美術館が生活の一部となるよう今後も努力

美術館の問題
 ・そもそも入場料収入だけでは運営が不可能
   例-金沢21世紀美術館
     運営料4億7千万=入館料収入1億3千万+市の予算3億4千万
 ・「箱物」としての美術館
   莫大な初期投資→それに見合わない運営費(予算不足)
 ・「公」としてのマネジメント力の欠如
   リピーターがいない←もてなしの精神の欠如
   「美術館な何故必要か?」に答えていない運営側の姿勢
   それこそ「箱」を作って終わり=作ることが目標に

美術館の今後=指定管理者制度
 NPOや企業へ業務委託(外郭団体によらない運営)
  ↓
  経済性の観点からの運営
  企業市民としての公共性ももたせる
  サービス精神


こんな感じです。少し長くなりました。

番組は、金沢21世紀美術館から生中継されていて、随分と同館を持ち上げているような印象を受けましたが、まだ開館4ヶ月です。この美術館の取り組み例が、他に当てはまるかどうかはまだ判断できる段階にはないと思います。また、「指定管理者制度」という外部委託に関しても、枠組みとしてはそんなに目新しい方策ではありません。確かに厳しい状況です…。

ところで、番組を見ていて少し違和感を感じる部分がありました。それは、そもそも美術館というものは、入場料収入で成り立たない構造の上にあるのに、結局入場者数の増減が美術館の評価につながっているということです。もちろん、芸術性を確保しながら、多くの方に足を運んでもらうのは良いことなのかもしれません。例えば、木場の現美のようにジブリで榎倉をカバーする(どちらが芸術的かという議論はさて置き。)のは、極めて現実的で実効性のある方策なのでしょう。金沢21世紀のように、市内全ての小中学生を入場させても、彼らの何割がリピーターとなるのでしょうか。教育的効果こそある程度は期待できますが、入場者の維持を第一に考えるとすると、それこそ毎年のように招待しなくてはなりません。何だか本末転倒です…。

市場的に見た時は、やはり需給バランスが崩れていることが一番の原因だと思います。各地方自治体ごとに一つずつ美術館がある。それこそ「箱物」の目玉的存在として、あることだけに意義を持つような美術館です。芦屋の美術館でもそうですが、単に芦屋市の視点からだけで休館を考えています。兵庫県全体として、また関西全体としてはどうなのか。そのような視点が殆どありません。下手したら芦屋美術館の近くに、また芦屋のようになってしまう恐れのある「箱」ができる可能性もあるのです。横のつながりがないことが、際限なく美術館の悲劇を生みます。

NPOの利用や参加型のアートなど、既存の枠内でも出来ることはたくさんあります。それは番組でも取り上げられていました。しかし、芸術はどれも体験型であるわけでもなく、どれもエンターテイメント的であるわけでもありません。それに、根本的には、芸術はごく一部を除けばあまり商売にならないものです。誰も来ない上に予算もないと嘆くような美術館は、早急に閉鎖するべきとさえ思います。もちろん、誰も来なくても芸術を置きたいという気概のある美術館は大歓迎です。ただ、それは市町村レベルの自治体では厳しいことも事実でしょう。

開館景気に湧く金沢でさえ、入場料は運営費の3割に過ぎない。この事実を他の美術館も受け止めるべきだと思いました。長々と失礼しました…。
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ゲヴァントハウス管弦楽団 2005来日公演 「ベートーヴェン:交響曲第3番他」

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2005来日公演/東京

バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
(アンコール:ベートーヴェン/劇音楽「エグモント」序曲)

指揮 ヘルベルト・ブロムシュテット
ヴァイオリン フランク・ペーター・ツィンマーマン

2005/2/21 19:00 サントリーホール2階Pブロック

昨日はサントリーホールでゲヴァントハウス管の来日公演を聴いてきました。指揮にオーケストラに…、ともかく全身が酔いしれた素晴らしいコンサートでした。

一曲目はバルトークのヴァイオリン協奏曲です。ソリストは最近活躍中のツィンマーマン。確か以前、N響とも共演していたかと思います。彼のヴァイオリンはやや硬めに味付けられています。空間を引き裂くような音です。また、極限のピアニッシモから、ホール全体を圧倒してしまうほどのエネルギーを持ったフォルテッシモまで、恐ろしいほど幅広いレンジを持ち合わせます。サントリーのPブロックは、どうしてもソリストが入ると厳しくなってしまいますが、そんなことは殆ど意識させないような強烈な表現でした。特に聴かせどころである第一楽章のカデンツァは圧巻です。背筋がゾクゾクするような瞬間が連続しながら、彼の弦楽器から湧き上がってくる鮮烈な音に押しつぶされんばかり…。これは文句なしに素晴らしいと思います。一方、ブロムシュテットとゲヴァントハウス管は、バルトークの複層的な音楽をやや掴みきれていない印象も受けましたが、それでもツィンマーマンを包み込んでいくような響きはさすがです。私には十分すぎるほどでした。

メインは「英雄」です。このような名曲中の名曲を、説得力を持って演奏することはなかなか難しいと思いますが、ブロムシュテットとゲヴァントハウス管はそれを難なくこなします。この辺りが長い演奏史を持つ伝統の業によるものなのかもしれません。演奏のスタイルは実にオーソドックス。殆ど奇をてらわない正攻法で「英雄」に挑みます。少々荒々しくてザラッとした感触の弦は、リズムをぐいぐいと明確かつ躍動的に刻んでいきます。木管群は、弦と比べると少々弱く聴こえましたが、金管、特にホルンが巧すぎます…。ホルンってあんな柔らかくてふくらみのある音なのか…、唸らされるほどでした。

ブロムシュテットの指揮は実に簡素です。打点を明確にしながら、時折大きな気合いを織り交ぜてアタックを指示する。決して情熱的とは言えませんが、音楽を心から愛しているような豊かな表情でオーケストラを指揮していました。もちろん、オーケストラの反応も素晴らしいものです。ホールの床から天井まで、グワーっと音塊が上昇していくかのように、手だけではなく全身を動かして、楽器から豊かな音を奏でます。首席から一番後ろに座っている方まで、ベートーヴェンの音楽を心の底から掴みとっているのがひしひしと感じられました。基本的な技術はもちろんのこと、団員の方の暖かい一体感を感じることのできるオーケストラです。腰の据わった表現と緊張感を持ち合わせた、極めて堂々としたベートーヴェンでした。ベートーヴェンを少し苦手とする私も、これでは何の文句もつけようもありません。

今回の来日ツアーは、最終日にブルックナーの第七交響曲が予定されています。私は残念ながら聴きに行きませんが、こちらを予定されている方、きっと素晴らしい演奏が待っていること請け合いです。この日の感触だと、尻上がりにどんどん調子を上げていきそうな気配です。ブロムシュテットとゲヴァントハウスのコンビは、もう間もなく終了してしまいます。録音もあまりありません。このコンサートを聴く限りでは誠に残念な限りです…。しかし本当に素晴らしいコンサートでした。私は外国のオーケストラを聴き込んでるわけではありませんが、オケ物としてはここ数年では一番感銘したと思います。これは痺れました…。
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