「イスラエル美術の兆し展」(東京会場) トーキョーワンダーサイト 7/3

トーキョーワンダーサイト(文京区本郷)
「イスラエル美術の兆し展 多文化社会に生きる」
6/10~7/3(会期終了)

先月、ヨコハマポートサイドギャラリーで見てきた「イスラエル美術の兆し展」の、東京での展覧会です。(その時の感想はこちら。)場所は本郷にあるワンダーサイト。ヤロン・レシェムとミリ・シガルの二作品の展示でした。

まず二階の展示室にあったのは、ヤロン・レシェムの「Village」です。暗い展示室には、横4メートル、縦1メートル弱はあろうかという大きな写真が、後ろからライトを当てられる形で飾られています。被写体は、一見しただけでは中東のどこかの村であることしか分かりませんが、随分と人気がなく、まるで廃墟のように佇んでいます。そして、良く目を凝らして見ると、建物のあちこちに人物や窓などがペイントされていました。一体何なのでしょうか。

これを解く鍵は、写真の左手奥に置かれていた一台のテレビの映像です。そこには、おそらくCNNと思われる、イラク戦争の従軍レポートが延々と流されています。そしてこのレポートの中に「写真の村」が登場してくるのです。つまり、村はイラク戦争によって「廃墟」となった場所でした。

レポートでは、記者が実際に村に入って、死体の転がる生々しい映像を伝えます。人気のなくなった村に、あえて生活感を思わせるペイントがなされているのは、この村の再生への期待なのか、それとも過去の賑わいへの追憶なのか…。ともかく「廃墟」の村に描かれた人間や窓は、写真の背後から照らされたライトに相まって、不気味な存在感を示していました。

もう一点、三階の展示室は、ミリ・シガルのビデオ・インスタレーション「Downcast Autumn Dale」です。中東を思わせる甘いメロディーと、心臓の鼓動のようなリズムが重なり合うBGMに合わせながら、スクリーンにはバスや車、それに人々が行き交う賑やかな街の様子が映し出されます。言葉が分からないので、映像を雰囲気でしか感じとれなかったのですが、スクリーンの前に張られた薄い水の幕に映像が反射して、二面の視点から鑑賞できるのは興味深い点でした。外国の見知らぬ街を彷徨う時に得られるような不安感などが上手く表されていたと思います。

ワンダーサイトでの展示は既に終了し、横浜会場も7日までとなっています。出品作家は全部で四名なので、わざわざ二つの会場に分ける程ではなかったかもしれません。(ワンダーサイトの全ての展示室に集めてしまった方が集客的にも良かったのではないかとも思いました。)作品の趣向や視点の斬新さはとても楽しめました。なかなか秀逸な現代美術の展覧会だったと思います。
コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )