「ドレスデン国立美術館展」 国立西洋美術館 7/23

国立西洋美術館(台東区上野公園)
「ドレスデン国立美術館展 -世界の鏡- 」
6/28~9/19

1560年、ザクセン選帝侯アウグストが創設した「美術収集室」を源とするドレスデン国立美術館。今、同美術館の収蔵品を公開した展覧会が、上野の国立西洋美術館で開かれています。フェルメールからドイツ・ロマン主義までの絵画、それにトルコ式の武具や装飾品、または東洋趣味のマイセンの磁器など、とても見所の多い展覧会でした。

前半の展示は、全般的に博物館の趣きです。まず16世紀の始めに「美術収集室」へ集められたのは、絵画や宝飾品などのいわゆる美術品ではなく、地球儀や天球儀、それに製図用品などでした。鉱石を溶かすために使ったという「集光鏡」(1740年頃)から、製図のためのコンパスまで、大小様々の実用品が並んでいます。そして次には、17世紀にオスマン・トルコの影響を受けて集められたという、武具や馬具などの展示です。実用性を前面に押し出しながらも、鎧などの所々には宝石が装飾されていて、意外な繊細さには驚かされます。また、斬るよりも叩いてダメージを与えるような勇壮な長剣や、鞘に納められた鋭い短刀なども興味深い品でした。

前半のハイライトは、18世紀にアウグスト強王が、東洋の磁器を模して制作させたというマイセン磁器の展示です。マイセンは、そのモデルとなった日本や中国の品々と並べられていますが、一見、殆ど同じようになるべく模倣されて作られていることが分かります。しかし、よく見ると細部や全体の様子が異なっていて、それぞれに別の味わいがありました。特に1700年頃に作られた有田焼の「染付牡丹唐草文象耳鳥籠付き蒔絵瓶」と、マイセンの「色絵花卉文象耳籠付き瓶」(1727年)は実に好対照で、有田の方では唐草文様の細やかな美しい装飾が目につくのに対し、マイセンでは紫からピンク色の配色が奇抜にも鮮やかに映えています。どうやら全く異なった美学が各々にはあるようです。

後半の展示は、「アルテ・マイスター絵画館」から出品された絵画が中心です。注目のフェルメール(窓辺で手紙を読む若い女)は、以前記事にしたので今回は触れませんが、それ以外にも見るべき作品が多く展示されています。ガニュメデスを赤ん坊にして描いたレンブラントの「ガニュメデスの誘拐」(1635年)や、段々と落ちる滝の様子をダイナミックに描き出したロイスダールの「城山の前の滝」(1665~70年頃)、または細かい情景描写と深い闇が印象的なダウの「祈る隠修士」(1635年頃)などはとても見応えがあります。また、エーメの「サレルノ湾の月夜」(1827年)は、風景画でありながらどこか寂しさや情緒を感じさせます。同じくエーメの「霧中の行列」(1828年)と合わせて素晴らしい作品だと思いました。

一番最後に展示されていたのは、イタリアのヴェドゥータ様式(前半で展示されていたカナレットなどのヴェネツィア絵画)と、オランダの写実的な様式を融合したというダールの「満月のドレスデン」(1839年)です。薄い雲に翳った満月の明かりが、エルベ川へ鮮やかに反射しながらドレスデンの街を煌煌と照らしています。ベロットを思わせる堅牢な構図感と、丁寧に描かれた街の遠景、そして川に浮かぶ小舟に焚かれたかがり火。全てが調和するように配置されていますが、月から伸びる光の神々しい描写は、まるで天からドレスデンを祝福する明かりのようにも見えます。輝かしき栄光のドレスデンは、ここに理想的で完璧な姿として描かれたようです。

会場は、夏休みに入ったこともあるのか、私が出向いた23日(土曜日)は結構な混雑でした。9月19日までの開催です。
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