ゲルハルト・リヒター 「抽象絵画(赤)」 東京国立近代美術館から

東京国立近代美術館
常設展示
「ゲルハルト・リヒター -抽象絵画(赤)- 」(1994年)

2メートル×3メートルの大きなカンヴァスに、何度も何度も塗り重なった油彩の重み。一見、赤い帯が横方向に大きく塗られているように見えますが、その内側にはいくつもの絵具の痕跡が伺えます。これは一体、何をイメージさせるのでしょう。

ドイツ現代美術の第一人者として知られるゲルハルト・リヒター(1932~)は、様々なジャンルへの創作を続けながら目まぐるしく作風を変化させることでも有名ですが、私が実際に見た作品は少なく、東京国立近代美術館が所蔵するこの作品が一番印象に残っています。赤のベールを脱ぎ去ったカンヴァスには何があるのかと、一番外側の「赤」の内側を見てみたい気にさせられますが、展示室にはこの作品の過程を示す写真も置かれていて、ある程度理解できるように工夫されていました。

一面の「赤」ということで、つい先日、川村記念美術館で見たロスコの作品を思い起こさせましたが、受け取る印象は全く異なります。リヒターの作品は、妙に生々しく、細い線や面的に塗られた油彩は、人体と関係するもの、例えば脳の神経の広がりや血液の流れなどをイメージさせます。タイトルの通り作品は実に抽象的ですが、計算し尽くされたような綿密な空間はあまり感じず、もっとより自由な、色や形の面白さや、その創作の偶然性なども思い起こさせます。絵具が、自ら意思を持つようにカンヴァスへ息づいている。そのようにも感じました。

私にとってリヒターはまだまだ「未知の世界」の領域です。何か良い機会があればと思っていたら、今年11月から来年の1月にかけて、川村記念美術館で彼の展覧会が開催されるそうです。川村では、2001年にもリヒターの写真作品を中心とした展覧会が行われましたが、今度は絵画中心の企画となるそうです。これは今から楽しみです。
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