「森山大道写真展 ブエノスアイレス」 epSITE 7/30

EPSON Imaging Gallery epSITE(新宿区西新宿)
「森山大道写真展 ブエノスアイレス」
6/22~7/31

森山大道が「長年恋い憧れる心の内なる街」と想う、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス。2004年から2005年にかけて二度行われたという撮影は、ブエノスアイレスの姿をまるで幻影のように捉えています。西新宿「新宿三井ビル」内にある「epSITE」で開催中の、「森山大道写真展 ブエノスアイレス」を見てきました。

世界中がインターネットで瞬時に繋がり合う時代とも言えますが、ブエノスアイレスは東京から飛行機で約30時間かかる、まさに「地と海の果ての街」です。(もちろん、ブエノスアイレスから見れば東京が地と海の果てになります。)googleマップの衛星写真でブエノスアイレスを見るだけでも、そこには何か異世界の、全くこちら側とは別次元の空間が広がっているように錯覚してしまいますが、森山のファインダーにかかると、それがさらに夢の中の微睡みの世界のように見えてきます。熱気を帯びた繁華街も、どこか活動的な明るい表情で行き交う人々の姿も、そしてラプラタの水辺に写る陽の明かりも、全ては今最近の現実ではなく、遠い昔の一瞬間としてだけあったような気分にさせられます。また、「キュートな娘たち」や「セクシーな魅力」(共にパンフレットから。)も、確かに写真からは、被写体の女性から沸き立つ汗の匂いすら漂ってきそうな気配ですが、それがモノクロの中で輝きだすと、色のない世界での光と影の鮮烈な対比が、不思議と「夢」や「想い」の中だけにあるような、空想上の美しさに見えてくるように思うのです。

あちこちに落書きされた古い建物や、整備されていないデコボコした石畳の続く道は、ブエノスアイレスの歴史の重みも感じさせますが、どこか退廃の匂いを漂わしながら、危なさへ足を踏み入れてしまった街のようにも映ります。「整然」と「雑多」の狭間にあって、もう一歩踏み込んでしまえば、まさに「混沌」ともなりそうなブエノスアイレスの魅力。森山の作品は、そんな街の一面を良く伝えているのではないでしょうか。

モノクロの作品が多数を占めていますが、カラーの作品や、カメラ片手にブエノスアイレスを彷徨い歩く森山自身の姿を映したビデオも展示されています。何を思うのかとっさに猫や少女にカメラを向けて、一瞬だけ構えてすぐに次の被写体へと向かう彼の行動は、以前オペラシティーでの「森山新宿荒木展」で展示されていた、彼が新宿を撮る時の映像とも似ていますが、ブエノスアイレスの方がより「撮りたい」という想いが伝わって来るようにも思いました。

森山がブエノスアイレスをおさめた写真は、写真集「DAIDO MORIYAMA:BUENOS AIRES」(講談社)としても発売されています。以前、私も書店で見て気になっていたのですが、この展覧会を見てさらに欲しくなりました。展覧会は明日31日までの開催です。
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